第5話 ヒーローという名の処刑人
太陽が月を照らし出すころ、私たちは大ちゃんの部屋にたどり着いた。
「うわあ、ちゃんと綺麗にしてるじゃない!」
「当たり前だろ、ここは俺の部屋以前にババアが管理しているアパートなんだからな」
思わず驚いて、大ちゃんをじっと見つめる。
「んだよ、文句あんなら言えよ」
「いや、おばあ様のために動ける大ちゃんって偉いなぁ、と思って」
自分の部屋だからではなく、祖母が管理しているアパートだから綺麗にしたい。
とても純粋で家族思いな理由に、私は感動を覚えてしまった。
こんな許可する前におっぱい揉むクソガキに。
「っ! うるせぇ……」
お、大ちゃんが顔を赤らめている。
もしかしてこの子、褒められるのに弱い?
「あんれー? どうしたのかなー? お姉さんに褒められて嬉しくなっちゃった?」
「マジでうるせえ! 寄るな、近づくな! 背中におっぱい押し付けんな!」
「ふふん、大ちゃんって可愛いねぇ」
「あのババアみたいなことしてんじゃねえ!」
ひとしきり、さっきのお返しをした後に、私たちはお話し合いをすることにした。
もちろん、交番のおじい様が話していた件についてだ。
「大ちゃんは14歳、正確には今年で15歳。ということは、10歳で能力が発現してヒーローになった。これで合ってる?」
「さすがに年齢とかは事前に知ってるよな。ああ、それで合ってるよ」
「さっきの交番のおじいさまが言っていたことだけど、あれはつまり、大ちゃんは悪者を倒したことがないってことでいいのかな?」
「その通り。今年中に悪人を殺さないと、俺が法律に殺されちまう」
ヒーローは悪者を倒す存在である。
悪者を倒す、ここをどう捉えるかでヒーローの役目は変わる。
とりあえず、世の中の見解及び法律を述べよう。
『能力を乱用する、又は強力な能力を持っている、該当する者はヒーローが処刑する』
簡単に言えば、能力者を殺す役目を持っている者、それがヒーローとされている。
『能力を乱用する』は言わずもがな、他の法律にも違反しているため、処罰を受ける対象である。ただ、それだけで殺すというのも、あまりに残酷ではある。しかし、この残酷な法律があるおかげで、能力を必要な時にしか使わない世の中が成り立っている。皮肉な話だと思う。
この法律の中で肝心なところは、ここではない。
『強力な能力を持っている』、この部分が非常に厄介だ。
そう、能力が強力であるだけ、それだけで能力者は処刑対象となってしまう。
能力に目覚めるのは、10歳から15歳の間である。もしかしなくても、処刑対象は概ね子供になってしまう。とても、とても酷い法律だ。しかし、抜け穴はある。それが、ヒーローになること。
『能力が強力であると判断された者は、ヒーローになる資格を有する』
あまりに惨い。
年端もいかない少年少女は、強力な能力を持っていると判断されただけで、ヒーローにならなければいけない。なぜなら、ヒーローという役目を果たさない限り、処刑されてしまうからだ。そして、この法律に従わなかった同じ年ほどの能力者を殺さなければいけない。
『ヒーローは5年以内に処刑対象を一人以上、処刑しなければならない』
おそらく、大ちゃんはこの法律に従わずに5年目までヒーローという役割だけを持っていたのだろう。
「お前、今年中に悪者を一人でも殺さないと、死ぬぞ」
交番のおじい様が放った言葉を思い出す。
あの方も、あんな言葉を口にしたくはなかったのだろう。
すごく、ものすごく辛い顔をしていた。
大ちゃんに死んでほしくない、だけど人殺しになってほしくない。
そういう、葛藤の末に出てきた言葉なのだと思う。
「言っとくけど、俺は人殺しにはならねえ」
「…………」
この子は、人を殺すことの意味を理解している。
ほとんどの子供は、何も理解することないまま、人殺しを経験する。そして、その経験に慣れ、人殺しの意味を理解する機会すら失う。でも、この子は解ってしまっている。
どんな境遇を経たのかはわからない。サポーターはヒーローの情報を最低限しか知らない。なぜなら、一年間以上も生活を共にするならば、自分でヒーローの情報を聞き出せるくらいでないと関係性が成り立たないからだ。
「大ちゃん」
「なんだよ」
「あなたは正しいよ」
私は、ありのまま思ったことを伝える。
「でも、この残酷な世の中を生き抜くために、あなたは間違える必要がある。私も、あなたには正しいままでいてほしい。だけどね、それと同時に思うことがある。それはね、あなたよりも小さい、こんなちっぽけな世界に殺されてほしくない」
大ちゃんは、真剣な面持ちで私の言葉を受け止める。
「だから、今度のヒーロー会議には参加しよう」
「殺す対象を決める、あの会議か?」
「そうよ」
「どうして?」
真剣に受け止めてくれる相手には、それ相応の態度を示さなければならない。
「あなたという本物のヒーローと、人殺しをするヒーロー、その違いを見極めてほしいから」
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