第2話 彷徨う
何がどうなってるんだ・・・・・・?
頭が混乱する。
俺は頭がおかしくなったのかもしれない。
酷い頭痛だったしな。
それでも、五感の全てが今起きている事が現実だと伝えてくる。
足裏から伝わってくる熱された砂利の感触。
全身を叩きつけるように吹き抜けていく砂の混じった熱い風。
この息苦しさ。
この状況・・・・・・どう考えてもあの黒渦が原因だろう。
馬鹿げた話だがワープ。転移したということか?
改めて辺りを見回してみるが、肝心の黒渦は見当たらない。
見えるのは赤い砂埃が舞う、荒廃とした大地。
それが360度広がっている。
「・・・・・・これは?」
赤茶けた地面に、何か黄色い物体が埋もれる様に落ちているのを見つけた。
心臓の鼓動が早くなる。
まさか・・・・・・。
震える手でソレを拾い上げる。
「つっ!?」
それは、酷く風化した、携帯に付けるストラップだった。
かつて光城 穂乃実に俺があげた物だ。
変色し、ボロボロになっているが間違いない。
「ど、どうしてコレがここにある!?」
長い間、警察が幾ら捜索しても見つからなかった穂乃実の痕跡。
それが今、手の中にあった。
様々な感情が込み上げてくる。
「穂乃実っ!ここにいるのか穂乃実・・・・・っ!」
次々に起きた未知の現象による困惑や恐怖を忘れ、四方に向かって名前を叫ぶ。
そうせずにはいられなかった。
「誰か、誰かいないのかっ!」
あてどなく前へ歩く。
しかし、周囲には人影はおろか、生き物の気配すらない。
俺が今立っている地形を改めて観察する。
「クレーター・・・・・・?」
俺が降り立った?と思わしき地点を中心に、すり鉢状に大きく窪んでいるように見えた。
まるでなにかとてつもない、巨大な爆発や衝突が起きたかような惨状。
それを裏付けるかのように遠くの枯木がことごとく燃えつきた状態でクレーターを中心に圧されたように傾いていた。
・・・・・・とにかく今は周囲を見て回ろう。
他にも穂乃実の痕跡が見つかるかもしれない。
「はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・」
ひたすら荒野を歩き、彷徨う。
足が痛い。
寝巻にしていたジャージの袖を強引に引きちぎって足裏に巻き付ける。
乾いた熱い風が身体を吹き付け、身体から水分を奪っていく。
「・・・・・穂乃実・・・・・・」
時間と共に興奮と激情の熱は静まり、わずかな理性が疑問を投げかけてくる。
穂乃実が行方不明になった原因。行き先がこの世界だとして、あれから何十年も経っている。
果たして、生きているのか?
こんな訳の分からない世界で・・・・・・。
体感で数時間以上歩き続けているが景色は変わらない。
穂乃実の痕跡も見つからない。
小高い丘に登り、周囲を見渡した。
赤茶けた地平線が見える。
これといったものは何も見当たらない。
どこまでも似たような景色が続いていた。
「それにしても、喉が、渇いたな・・・・・・」
酷い渇きだ。
唾液すらもう出てこない。
ここまで歩き詰めてきたが水場はおろか、まともな植物すら見つけられていない。
・・・・・・元の世界へ戻らなければ。
戻れなければ、死ぬ。
ここで死ねば穂乃実のことは何も分からないままだ。
そんなのはごめんだ。
あの黒渦。
もう一度、あの現象を再現しなければ。
・・・・・・まぁ。よしんば黒渦を出せても更に元の場所へと戻れる保証はないがな。
全てが都合よくいけばの話。
しかし、それしか生き延びる術が思い浮かばない。
あの感覚を思い出し、試してみよう。
身体の中に新たに生まれたもう一つの血管を意識する。
「つ・・・・・・」
体内で何かが蠢くのを感じる。
「つっ・・・・・・ぐッ・・・・・・!」
前回同様、身体の中からごっそりと何かが失われていく。
果たして再び黒渦が俺の目の前に発生した。
「・・・・・・よ、よし。成功だ」
再び元の場所へ戻れるという保証はない。
それでも選択肢はこれしか思いつかない。
体調的にも、もはや限界だった。
思い切って手を伸ばす。
視界が真っ暗になり、奇妙な浮遊感に襲われる。
ここへ来た時と同じ感覚だ―――。
「・・・・・・はぁぁ。俺の・・・・・・部屋だ・・・・・・」
膝から崩れ落ち、安堵の息を吐き出しながら部屋を見回す。
見慣れた家具が並ぶ狭い1k部屋。
どうやら上手く戻れたらしい。
手をポケットに入れ、携帯ストラップを取り出してみる。
間違いない。穂乃実にあげた物だ・・・・・・。
眼を閉じ固く握りしめる。
今体験したことは夢ではないのだ。
痛む足裏に砂埃で汚れた寝巻もそれを証明している。
安堵と共に耐えがたい渇きが襲ってきた。
台所で水をがぶ飲みし、冷たい水道水で頭や顔に掛ける。
「はぁっはぁっ・・・・・・生き返った・・・・・・」
渇きは癒されたが身体が酷くだるい。
荒野を彷徨ったことで身体的な疲労もあるが、精神的な消耗もありそうだ。
あるいは、あの黒渦を作った時に身体から抜けていく何かが原因かもしれない。
あぁ、ダメだ。
頭がぼんやりして、考える気力が湧いてこない。
眠りたい。
窓の外を見ると日が傾き既に夕方だった。
向こうの世界との時間差は無いのだろうか。
幸い今日はバイトのない日の為、予定も空いていた。
砂だらけになった衣服をドラム式洗濯機に放り込み、シャワーを浴びる。
その後は倒れるようにベットへ横たわる。
あの世界や黒渦の事は一眠りしてから考えよう。
枕に頭を沈めると、泥のように意識が溶けていった。
こうして、何もかもが分からない状況の中で俺の異世界探索は始まった。
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