まず、ストーリーのシンプルな力強さがよいです。ハリウッドのアクション映画というよりは、フランスのノワール映画を思わせる雰囲気ですが、それがまたよい。ジョゼ・ジョバンニを思わせる雰囲気がありますよね。
登場人物も魅力的! 個人的にお気に入りなのはやはり主人公のクワイエット。こういう、寡黙だけれども情のあるキャラクターは好きですね。闇の世界に生きる非情の殺し屋稼業の中でもなお人間の心を失っていないのがよい。アンソニー少年との交流は、ベタだけれども心を打ちます。一方で、作品の闇の部分を象徴するラトリーも実に魅力的。悪役にこそ作者のオリジナリティが発揮されると個人的に思っていますが、ラトリーのねじくれ具合、単なる邪悪にとどまらない複雑な造形は強い個性を感じさせてくれました。
そして何より語り口。過度に心情に踏み込まず、行動を追い、簡潔を心がけた抑制的な筆致はまさにハードボイルドです。それだけに、言葉をなくしたクワイエットの心情が逆説的にくっきりと浮き彫りになっています。心情をあえて廃するからこそ、かえってエモーショナルな雰囲気が引き立てられていたと思いました。
総じて優れたハードボイルド小説でした。ハードボイルド愛好家としておすすめです。