第2話 二郎ちゃんの決心
奈緒ちゃん、最近、苦労ばっかりかけてるね。ゴメンネ。俺、奈緒ちゃんが優しくしてくれるのが、心苦しいというかなんというか。俺は右腕を失っちまって、もうキミを守ってあげることもできそうにない。キミの優しさが却って俺の心に突き刺さるから、別れようか。そっちの方がお互いにとっていいと思うんだ。
事故の前までは、俺はキミを世界一幸せにしようと思っていたんだ。ホントだよ。キミは前から俺に尽くしてくれていたね。俺は不細工だし、売れない芸人だし、どうしようもないクズだけど、キミはいつも励ましてくれて、金のない時は奢ってくれて、ホントありがたかった。でもね、前はその優しさを素直に受け入れられたんだ。なぜって頑張って売れる芸人になって、お金稼げるようになったら、奈緒ちゃんに考えられる限り最高の贅沢させて恩返しできると思っていたから。でももうダメなんだ。俺は芸人としての道は立たれたんだ。サブローの言う通りだよ。こんな片腕の男が舞台に上がったら、客は引くよ。笑ってくれない。もう俺は金持ちなんてなれない。奈緒ちゃんの恩に報いることはできないんだ。キミに優しくされても、俺はキミに貸りができるばっかりで、それを返すことができそうにない。それで俺は心苦しくて堪らないんだ。
この間プロデューサーさんが見舞いに来てくれたよね。あの人、奈緒ちゃんが席を外した時に、
「いい彼女じゃないか。大事にしなくちゃ罰が当たるぞ」って言ってくれたんだ。
分かるよ。奈緒ちゃんは最高の彼女だよ。美人だし気が利いて、優しいし。それはそうなんだけど、じゃあ今の俺に何ができる。奈緒ちゃんを大切にしたいと思うけど、どうすればいい。片腕の俺じゃあ、キミを抱きしめることもできないんだ。
昔の唄であったよね、
「ただ、あなたの優しさが怖かった」って。
あの唄の通りさ、俺は君の優しさが怖いんだ。怖くて受け止められないんだ。
俺はこれから光の当たらないゴミ溜めで生きるつもりだ。そんなゴミ溜めに奈緒ちゃんは連れていけないから、ひとりで行くよ。寂しくなんかないよ。
だからさ、明日奈緒ちゃんがお見舞いに来てくれたら、
「別れよう」
って言うんだ。悲しいことだけど仕方ない。もう、俺は決めたんだ。
奈緒ちゃんはどんな表情するかな。もしかしたら苦労から解放されてホッ
としてくれるかな。そうだったらいいのにな。そうしてくれると俺の心も救われるんだけどな。
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