第3話 奈緒ちゃんの憂ウツ
二郎ちゃん。私と一緒に居ると辛いんだって言ったね。突然そんなこと言いだすから。私ビックリして、泣いちゃったよ。
「奈緒ちゃんの優しさが怖い」って何だろね。なにか後から代償でも求められるとでも思っているのかな。そんなこと考えているのなら、ちょっと失礼だなとは思う。
それに、「俺は片腕になっちゃったんだから、もう奈緒ちゃんをギュッと抱きしめることもできないし、守ることもできない」ってなに言ってるの。私はただ、二郎ちゃんと一緒に居たい。同じ景色を見て、同じ空気吸って、同じものを食べたいだけなんだよ。抱きしめるとか守るとか、それはまた別な話なんだよね。
なんか話がかみ合っていない気がする。でも、私は二郎ちゃんとできるだけ一緒に居たいのに、二郎ちゃんが「迷惑だ」って言うのなら仕方ないね。
「別れよう」か。
そう考えたら、心にポカリと大きな穴が開いたようです。心がとてもス~ス~するというか、虚無感を感じます。私は誰になってしまったのでしょう。明らかに少し前までの自分とは、変わっちゃっている気がします。
そういえば、サブローくんから連絡があった。
「奈緒ちゃん、話聞いたよ。二郎がとんでもないこと言ったみたいで、ゴメンナサイ。でも、奈緒ちゃんに分かっていて欲しいのは、男はどん底に落ちてしまうと、ひとりになりたくなるものなんだよ。相手が恋人でも家族でも、『ほっといて欲しい』って感じになっちゃう。二郎は今、そんな感じの状態。女の子は落ち込んだ時、『誰かに一緒に居て欲しい』って思うらしいから、ちょっと分かりにくい話かもしれない。でも、まだ奈緒ちゃんの心に少しでも二郎に対する思いがあるなら。ちょっとの間我慢して二郎をそっとしておいてあげて欲しい。そして少しほっといたら、二郎も冷静になって奈緒ちゃんにまた会いたくなると思う。その時は二郎を許して、また二郎を愛してあげて欲しい」
裏切り者のクセしてさ、こんな図々しいこと言うんだよ。
私の心はそんなに簡単に、スイッチオンしたりスイッチオフにしたり、パッパッと切り替えられるようにはできてない。そんなに器用な生き方できるなら、もっと人生要領よく生きていけてるはずだ。
二郎ちゃんも、サブローくんも、男の人はみんな自分勝手すぎるよ。前から分かっていたけどさ、自分の都合ばかり押し付けてくる。あ~ぁ、もう嫌だ。私もウツだ。マックのフライドポテトで丸太小屋を建てて、そこにひとりで引きこもりたい。ポテトの香りで包まれたい。そこでは世の中のイヤなことを全部忘れて、美味しい食事のことだけ考えていたい。少しくらいの間なら、許してくれるよね。それくらい良いよね。
と、考え事していたら、103の佐藤さんのお婆ちゃんに呼ばれた。行ってみたら、「背中が痛いから、ちょっと見て欲しい」と言う。背中を見たら腰ひもの結び目が背中に回っちゃってて、その結び目が背中とマットの間に挟まっていて、背中を圧迫していた。
着物を整えて、ベッドのシワを伸ばす。佐藤のお婆ちゃんに寝てもらって、布団を上から掛けてあげる。佐藤のお婆ちゃんはニコニコ笑顔になって、「ありがとう、おやすみ」と言ってくれた。
時計を見たら午前0時20分。もう少しで休憩の時間だ。今日も夜食はコンビニのおにぎりとサラダ。手軽だからいつもこうなる。前はカップ麺もよく食べていたけど、なぜか私がカップ麺にお湯を注ぐと、必ずその直後に入居者さんに呼び出される。その対応をしているうちに、10分とか20分とか過ぎちゃって、私はいつも冷え冷えでノビノビの麺をすすることになる。だからカップ麺は止めた。
こんなに苦労してるのに、私はホント、報われない。仕事でもプライベートでも。私の何がいけないんだろう。
奈緒ちゃんは途方に暮れてしまった。
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