第8話 大好きだけど

「妹も弟も好きだけど、大好きだけど」

「だけど?」


 少し間が空いた。


「……うん、大好きなんだよ」

「そうだよね。知ってる」


「……でも……あー。この先もまだ、ていうか、もう遊べねえよなって思って」

 と言い、岸部くんはテーブルに突っ伏した。


「そんなことないよ。遊んだっていいんだよ、今だって」

「でも、家では俺の帰りを待ってる」

「うん……」


「……」

「……」


「いや、いいや。今日は帰らない」

「え?」


 ぼそりと言った言葉、聞き間違えたかと思い聞き返す。


「俺、疲れた」

「いいの?」

「……たまにはお兄ちゃん、休ませてよ」


 ぼそぼそと話す岸部くんは、最後まで顔を上げなかった。これまでにまだ知らない岸部くんだった。最初に頼んだ飲み物も、ちょびちょび飲むようにしたもののもうなくなってしまった。店員さんが2度、お水を注ぎに来た。


 お互いにコーヒー一杯分のお金しか持ち合わせていなかったゆかこたちは、これ以上居座るのも悪い気がしてきて、ほどなくしてコーヒー屋さんを出た。



 ただ歩き出した。目的もなく歩いているうちに、岸辺くんが知っているという場所に来ていた。


 鉄柵で囲まれた広い敷地。「立入禁止」の看板が掛かっているけれど、錆びついて文字が半分消えていた。柵には大きな隙間があって、小さなゆかこなら簡単に入れそうだった。


「入れる?」岸辺くんはゆかこに聞く。

 ためらいながらも、ゆかこは柵の隙間をくぐった。


 中に入ると、そこは別世界だった。町はずれの廃材置き場。来るのは、これが初めてだった。


 積み上げられた車の残骸と、古い家電、よくわからない機械部品たちが置かれている。すべてが錆びついて、朽ちかけている。でも、沈みかけた夕日の光が当たると、それらは思いがけない輝きを放っていた。


「きれい……」


 とくに目を引いたのは、山積みになった機械部品の中で、ひときわ大きな歯車だった。直径はゆかこの身長ほどもあるだろうか。


 厚い鉄でできていて、表面は赤茶色の錆に覆われている。でも夕日の光が当たると、その錆びた表面がオレンジ色に輝いた。


 ゆかこはその歯車に近づき、そっと手を触れてみた。ひんやりと冷たい。でも、不思議と生きているような感触がした。この歯車は、かつてどんな機械の一部だったのだろう。どんな場所で、どんな人たちのために、どんな役割を果たしていたのだろう。


「きれいだと思わない?」


 岸辺くんの瞳が、夕日を映して輝いていた。

 彼は歯車に近づいてきて、ゆかこと同じように手を触れた。


「この歯車、昔は製紙工場で使われてたらしい。まだあるなんてびっくりだな。昔、この町に大きな工場があったの、知ってる?」


 ゆかこは首を横に振った。


「十年前に閉鎖されたんだ。ここには、その工場から出た廃材がたくさん集められてる」


 彼は話しながら、小さなバッグから工具を取り出した。ペンチのようなもの、小さなハンマー、そして何本かのワイヤー。


「なにするの?」


「見てれば分かるよ」


 彼は手際よく、散らばっている小さな金属片を拾い集め始めた。錆びた歯車、曲がった針金、割れた鏡の破片。それらを組み合わせて、何かを作り始める。

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