第11話 やっぱり翼をください、大盛りで。

 翼をください。


 もし僕に翼があったら、なんの悩みもないあの大空へ飛び立つだろう。


 もし僕に翼があったら、なんの苦しみもないあの青空へ飛び立つだろう。


 もし僕に翼があったら、なんの痛みもないあの広い空へ飛び立つだろう。


 僕はそのとき、空を見上げてそんなことを考えていた。


 ダダ: 「ほんとに帰っちゃうの?」


 女子大の学園祭。


 晴れ渡った秋空に木枯らしが冷たい。


 さらにそのしばらく前に遡る。


「友達も連れて行くから、そっちの女の子の友達を何人か連れてきてよ(むしろ僕のために)」


 そしてその日の昼過ぎに女子大に入った僕らは、女の子2人とダダ星人がいる喫茶室へ向かった。


 毎度のことだが、こういうとき、最後のドアを開けるときは毎回のように緊張する。


 確かに同じことが繰り返される平凡な毎日。


 しかしある日突然目の前でドラマが始まるのが人生だ。


 それは電撃的な出会い。


 人は言う。


 恋愛というドラマは何の前触れもなく、突然始まるのだ、と。


 残念ながら僕はまだ食パンくわえた美少女にぶつかったことはない。


 残念ながら“血のつながらない妹”が欲しいと思っても、両親の仲は円満そのもので再婚はおろか離婚の気配すらない。


 そして残念ながら“いつもケンカばかりする幼なじみの女の子”もいない。


 メガネを外したら美少女か?と思ったコもいたが、そっと外したところを見てみたら、むしろホンモノで思わず目をそらしたこともある。


 ・・・。


 ともあれ、このドアを開けた向こうにはきっと吉澤ひとみ似の女のコが・・・。


 きっと目があった瞬間に電撃が走るような、そんなドラマが始まるのだ。


 僕: 「それじゃ、行くぞ、野郎ども!」


 ガラッ!


 いきおいよくあけたドアの向こうには、ダダ星人と、


 アジャ・コングと左とん平がかわいらしい服を着て座っていた。


 お母さん、目がっ!目がっっ!!


 違う意味での電撃が走ってしまったことは一生心に傷として残るに違いない。


 高校の先輩曰く、こういう定説がある。


 すなわち、女の子のグループには必ずカワイイ女の子が一人とそうでもないコが一人、いる、と。


 その中で特にかわいいコとそうでもないコは仲がいい、と。


 僕が経験した中でもそれはほぼ当たっていることであり、疑ったことは一度もなかった。


 先輩、あんたウソつきだよ!


 僕らは悪い意味での電撃を浴びて生命力のすべてを奪われ、へろへろと椅子に座った。


 確かに僕の友達がショックのあまり、


 友人A: 「おっと、彼女から電話だ」


 友人B: 「ちょっとトイレいってくる」


 と、5分後には姿を消してしまったのも仕方のないことだったのかもしれない。


 僕はこの世の無情感をひたすらに感じながら、ただ呆然と、目の前で談笑する無邪気な3つの生命体を観察していた。


 生きる、って何だろう・・・。


 しばらくした後、2つの生命体は姿を消した。


 僕の友人2人は僕の携帯電話に、しばらく近所のパチンコ屋で時間をつぶす、とメールをしてきた。


 残されたのは僕とダダ星人だけになった。


 ここで冒頭のセリフになったのだ。


 ダダ: 「ほんとに帰っちゃうの?」


 僕: 「ああ、行方不明になった2人の親友を何があっても探し出さないといけないから・・・」


 ダダ: 「あのね、このあいだ先輩の結婚式に行ってきてん」


 僕: 「・・・?」


 ダダ: 「ウェディングドレスがキレイでねー、そんでね、聞いて聞いて、あたしがブーケとったんだよ」


 僕: 「・・・ふーん」


 ダダ: 「●くん知ってるよね、あたしんちって結構お金持ちなんだよ」


 僕: 「・・・」


 ダダ: 「●くんて卒業したら東京帰るん?」


 オマエは一体何を言いたいんだ?


 僕: 「親友を捜さないと・・・」


 痛いくらいの視線を直視しないようにして僕は立ち上がった。


 ほんとに痛い。


 と思ったら、僕の腕をバチバチと叩きながら、ダダ星人は涙目だった。


 これは一体どういう状況なんだろう


 その涙は何?


 僕はほんとうに翼が欲しいと思った。


 晴れ渡った秋空に、木枯らしが吹き始めていた。


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