第10話 人類はまだテレパシーは使えない

 人生に「もし」はない。


 人生に「あのときああしてれば」もない。


 人生にあるのは「現実」のみである。


 それがどんなに過酷であったとしても人間は神様ではないのだから、与えられた試練にはあらがうことはできない。


 なぜ今の自分があるのか。


 それは過去の自分に聞いてみるしかない。


 なぜ過去の自分が存在するのか。


 もっと過去の自分に聞いてみるしかない。


 きっと未来の自分も今の自分に問いただしたいことがあるに違いない。


 だからこそ、未来の自分に対して自信を持てる今の自分でいなければならないのだろう。


 僕はなぜダダ星人に狙われているのだろう。


 しかしその質問ばかりはいつの時代の僕であっても答えが出ないに違いない。


 その日、僕は悪夢を見た。


 しかも悪いことにそれは現実だった。


 *****


 キ、キィィーーン


 店内に金属音が響いた。


 僕が手をすべらせてテーブルの上のフォークを床に落としてしまったのだった。


 僕はそのとき、とある女子大の近くのレストランでランチを注文したところだった。


 目の前に座っているのは・・・。


 ところで、「アブダクション」、という言葉をご存知だろうか。


 宇宙人による誘拐、のことである。


 一説によるとアメリカでは100人に1人の割合で、しかもすべての人が誘拐前後のことは覚えていないという。


 僕は今、ダダ星人に連れ去られているよ、


 助けて、NASAの人!!


 自分がどうやってここまできたのか、そして重要なのはなぜここにいるのか、僕は自分自身に答えることができなかった。


 僕は、冷静を装いながらフォークを拾い、ウェイターに向かって


 僕: 「すみません、フォークを落としてしまって。新しいの、持ってきてもらえますか?」


 そしてそのフォークをそのままダダの延髄にグサっと・・・


 心の叫びは届くことはなかった。


 しかしこの女、やはり西川のりおに少し似ている。


 ダダ: 「●くんは二日目は何時くらいに来るん?」


 そうだった。


 僕は女子大の文化祭のチケットをもらいにここまで来たのだった。


 お笑い芸人のステージがあったのだが、それを見たかったのだ。内部の学生のほうが確実に手に入れられるというからそれにつられて僕はここにいた。


 女子大の文化祭のチケット。


 そういえば、中学とか高校のときも女子校の文化祭のチケットをもらうのに必死だったなあ・・・。


 三つ子の魂百まで変わらず、とはまさにこのことか。


 僕: 「まだ決めてないや」


 校門で待ち伏せされるのに決まっている。


 そしてきっと“偶然にも”ヤツは同じステージのチケットを持っているはずだ。


 行動が読めてしまう自分が怖い。行動理念が同じという点が・・・。


 わざとバッグから覗かせている関西ウォーカーなど、意図が見え見えなのである。


 ダダ: 「あっというまに年末か~。●くん、年末ジャンボ買う?」


 僕: 「ん~。当たる夢とか見たら買うよ」


 ダダ: 「10億円。当たったら何に使う?」


 ゴルゴ13を雇います(即答)


 僕: 「ゴ・・・、いや、、、」


 ダダ: 「ゴ? ゴダイゴ? ゴリさん・・・? あ、ゴルゴ13?」


 ツッコミどころが多すぎてどれから言えばいいのかわからないが、とりあえず、「ゴ」という音からゴダイゴ、ゴリさんはないだろう。


 時はもう1970年代ではないのである。いまさらモンキーマジックか?


 人間には、覚醒していない能力がまだあると言われている。


 実に、2割ほどしか大脳は使われておらず、残りの8割は何らかの環境の変化に対応するための能力的なストックなのではないか、と考える人もいる。


 もしくは、人類がまだ猿人だったころの野性の能力がそこに眠っているのではないか、と考える人もいる。


 あんた、猿人か? ・・・あッそれか!?


 僕: 「ごふッごふッ、いや、むせただけ・・・」


 ダダ: 「年末ジャンボよりも先にもうクリスマスだね」


 僕: 「あれから一年か・・・。(一日でも充分なのに)」


 ダダ: 「そうだね・・・」


 言葉の上では共感のようだが、中身はまったく反対のものであると、誰が分かろう。


 僕は話がクリスマスに向かわないように、話題を転換させなければと感じた。


 僕: 「ところであそこのウェイトレスさん、ちょっと・・・」


 中川家の弟に似てない? と言おうとする前に、


 ダダ: 「中川家の弟に似てる人?」


 大脳はまだ2割しか・・・、いやこの話はもういいだろう。


 貴様は他人の心が読めるのか?!


 それならば、と僕はダダの大きめの顔を見つめながら心で念じた。


 ・・・しかしこいつの顔は、大きいな。


 僕: 「なぁ」


 自分の惑星に帰ってくれ、と。


 すると。


 ダダ: 「どうしたん?・・・なんか恥ずかしい(照)。わかるよ(笑)」


 断じて違う、と大きく心の中で否定したが、その声は届かなかったようだ。


 その日、僕はどうやらハンバーグランチを食べたらしい。


 そして食後にコーヒーも飲んだらしい。


 しかしその味はまったく覚えていない。


 ヘビににらまれたカエルがまともに食事をのどに通すはずがないのだ。


 父さん、僕は今日なんかすごく失敗した気分です。


 明日、リストカットしてる自分を見つけないようにがんばって生きていきたいと思います。

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