第8話 二人きりの飲み会2

「お待たせしました」

店員さんが飲み物とチーズを運んできた。

高橋先生は横文字ワイン、私はサングリア。


「サングリアは度数低めですけど、水も一緒にゆっくり飲んでくださいね」

高橋先生が少し身を寄せて、私の顔を覗き込みながら言った。


「は、はい……気をつけます」

前回みたいな失敗はしてはならない。


スッと目線より少し上にグラスを持ち上げて、

「乾杯」とお互いに声をそろえる。


サングリアは酸味と甘みのバランスがちょうどよく、飲みやすい。

くいっともう一口飲むと、高橋先生が「小此木先生……?」と

とがめるような視線を送ってきた。


「美味しいですね、サングリア」

「まあ、気に入ってもらえたのは素直にうれしいです」


高橋先生は苦笑しながらグラスを見つめている。

つい、友達に勧めるみたいに言ってしまった。


「高橋先生も、一口飲んでみます?」

「え、はい。では、いただきます」


高橋先生にグラスを渡して、ふと気づく。

これ、恋人同士っぽい仕草じゃない?

――いやいや、友達同士でもよくある……はず。


結局、私たちが“付き合っている”のかどうか聞けないまま、

二人きりの飲み会は静かに進んでいった。


食べ物が運ばれ、会話も弾む。

他愛もない話をしているのに、頭の片隅ではずっと

「付き合っているとしたら、いつからなんだろう」と

ぐるぐる考えてしまう。


お店を出ると、つめたい夜風が頬を刺した。


「美味しかったですね、全部」

「はい。本当に。……でも小此木先生、サングリア三杯飲んでましたが、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。お水も飲んでましたし、ゆっくりでしたので」

「本当ですか?」


高橋先生が下から覗き込むように顔色をうかがってくる。

前回の謝罪と、“関係”のことをどう切り出すかで頭がいっぱいだった私は、

その距離の近さに驚いて――反射的にのけぞった。


「っ!」

「小此木先生!?」

「いたた……」


後ろにのけぞった拍子に、足をぐきっとひねってしまった。


「大丈夫ですか?足、痛みます?」

高橋先生がしゃがみ込んで、痛む箇所を確かめてくる。


「足首をひねってしまったかもしれないです」

「ちょっと動かしますね?」

「あっ、それ痛いです」

「ここ押すのはどうですか?」

「押すのは大丈夫そうです」

真面目な顔の高橋先生にしっかり診察されてしまっている…。


「……じゃあ、骨は大丈夫そうですね。軽い捻挫かもしれません」

高橋先生の声がやわらかくなる。

「うちで応急処置、させてください」


「いえ、そんな。また迷惑をかけるわけには……」

「迷惑なんてこと、ありません。私が驚かせてしまったようですし」


「じゃあ、せめて。私の家ここから近いので……包帯とかもあるし、おもてなしさせてください」

お菓子と飲み物くらいしか出せないかもしれないけれど…。

「わかりました。タクシー呼びますね」

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私、内科医ですが動悸の原因がわかりません!! 低東 走 @yun_yr

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