第7話 二人きりの飲み会

「あ、ここですね」

高橋先生が足を止める。

ワインがメインでおしゃれなお店だ。いわゆるバルというやつね!

二人の飲み会の場所は、私も調べまくっていたのだけれど中々決めきれなかったところ、高橋先生からメッセージで「飲み会の場所、私が決めてもいいですか?」ときたので、結局予約までお願いしてしまった次第…。

「お店、決めてくれてありがとうございます」

「いえ、ここノンアルコールも豊富で、小此木先生でも楽しめると思ったので」

普段無表情の高橋先生が笑ってそう言った。

この間ご迷惑をおかけしたからノンアル飲みなさいってことなのかしら。

……いや、そんな発想する時点で、私もうだいぶ重症かもしれない。

なんか高橋先生に後光が差しているように見えるし、鼓動が速くなってきている気がする。

今日の私、大丈夫かしら…。体調は悪くなかったはずよ。

店内に入り、案内されたカウンターの席に横並びに座る。


コートを脱いで席に着くと、高橋先生が私の服装を見て、一言。

「今日の服も素敵ですね」

「そ、そうかしら!?高橋先生も見たことがない服着てますね!素敵です!」

思い切って普段と違う服を選んできたけれど、高橋先生も見慣れない服を着ていた。

「ありがとうございます。職場の人と勤務後以外に食事に行くのは初めてだったので少し悩みました」

た、高橋先生の初めてを、また奪ってしまった。……いや、この間のことは初めてじゃないかもしれないけれど。


「とりあえず飲み物注文しましょうか。私は本日のグラスワインにします」


すみませんと店員さんに声をかけて、注文を取りに来てもらう。

「本日のグラスワインを一つお願いします」

と高橋先生が注文をする。

「はい、ガルナッチャ・ティントレラ・アルタ・エクスプレシオンですがよろしいでしょうか」

「はい、大丈夫です。お願いします」

ガルナッチャ・ティントレラ・アルタ・エクスプレシオン!?

舌を転がすような響きに、思わず背筋が伸びた。

か、かっこいい…私も何か横文字を…!

「わ、私も同じのでお願いします」

「え、小此木先生はワインはやめた方が…。」

そ、そんな、どうしましょう…。横文字…。

「小此木先生はサングリアとかどうでしょうか?フルーツが入っていて飲みやすいと思いますよ。」

「あ、はいじゃあそれにします。」

サングリア、も一応横文字だし…。フルーツは好きだからね…!


飲み物の注文をして店員さんが去ったあと、高橋先生が食べ物のメニューを私にも見えるように掲げた。

「小此木先生食べられないものとかあります?」

「いえ、大体のものは食べられると思います」

「では、私の方で適当に頼んでも大丈夫ですか?あ、食べたいのがあったら教えてください」

「はい、ありがとうございます」

少しメニューを眺めて、チーズの盛り合わせとレバーペーストが食べたかったのでそれだけ伝えてあとは高橋先生に注文をしてもらう。

ちょっと思っていたけど私結構エスコートされている?

席に着くときもさり気なく奥の壁際を譲られた気がするわ。

高橋先生慣れてる…!?スマートでかっこいいわね…。

……いや待って、これ、なんか、デートみたいじゃない……?

「なんか、デートみたいですね…!」

つい率直に思ったことを聞いてしまった。

「え、デート、ですか?……やっぱり…わかりますか?」

ちょっと照れたように視線を彷徨わせて髪をいじる高橋先生。

本当にデートのつもりだったのね…!

ど、どうしましょう。デートだと思うと余計緊張してきてしまうわ。

でも、ちゃんと前回の失態は謝らないと。

……あれ? 前回のことで、私たちって――つ、付き合ってることになっている……?

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