狂愛 ~筆で愛して~
望月凛
第1話
「みどり、ちょっとちょっと!」
中学三年になって初めての美術部の日、顧問の小川先生に呼び止められた。
「今日部活出る?今日から新しく入った三年の子いるから色々教えてあげてほしいんだけど。ま、彼、プロ級にうまい子だけどね。」
とりあえず、美術室に向かった。美術部は全員で何人いるのか、正直把握していない。部長も決められていないし、描きたかったら描いて、制作したければ制作する。道具は何使ってもよろしい。なので、基本的に部室は毎日開いているけど、何人来るかは日によって違う。この自由な美術部の雰囲気が大のお気に入りだ。そして、芸術が好きな人の集まりだから、発想が奇抜でみんなの制作物を見てるだけでもおもしろい。顧問の小川先生も、おもしろくて人気者なので、男子バレー部の人など夏になると美術部に来て涼んでいる。そして小川先生と話しながらさぼっている。その後バレー部の顧問の先生に連行されている。「お前ら、美術部でうるさくするなよ!」って怒っている先生の声が一番うるさい。
私は、少しドキドキしながら美術室へと急いだ。
ガタイのいい男子が一人、ろくろを回していた。美術室に一つしかないこのろくろを回す手が、プロっぽく見えた。(プロの陶芸家に会ったことはないけど)
そして、初日にろくろを回す彼に、やるな、と思った。
彼がこっちを見た。
そして、「やっと美術部に入れた。やっとみどりに会えた。」と笑った。
普通ならキモイと思うところだろうけど、不思議とキモイとは思わなかった。
思わず「誰?」と聞いた。
彼は、「え?覚えてないの?俺、安本!」と言った。全く心当たりがなかった。
とりあえず初日なので、色々話した。安本君は、家が工房をやっていて、美術が得意みたいだった。中学に入ったら美術部に入りたかったのに、ガタイのせいで柔道部に入らされ、なかなかやめさせてもらえなかった。優勝を五回したらやめていいと言われ、五回優勝してやっとやめて美術部に入ったらしい。「え、柔道と美術、掛け持ちしたら良かったのに。」と思わず私が言ったら、「掛け持ちしていいの!?」と、力がこもったのか、ろくろの粘土がつぶれた。私も初めはテニスと美術を掛け持ちしていた。「軟式テニスっていうからボールが柔らかいのかと思ったら硬くて、当たったら痛いし嫌でやめたわ。ボール無しテニス部だったら、続けてたかもしれないけど…。」と言ったら、安本君はめちゃくちゃ笑った。笑ったその顔に見覚えがあった。
特に笑うとなくなるその目に見覚えがあった。
「え、誰?」私は再び聞いた。
安本君は、そこにあった絵筆を手に取って、「俺!俺!」と言って、筆を宙で動かした。
あ…。遠い記憶が蘇った。
あれは、そう、幼稚園の頃、絵筆で私の頬をなでる男子がいた。頻繁になでるので、先生に「みどりちゃんの顔を筆でさわったらいけません!」と、注意されていた。
たっくんだ!!安本拓だ!!私は思わず「たっくん!!」と叫んでいた。
たっくんは、「やっと思い出したか。」と言って笑った。
そして、「さすがに今やったら、セクハラ男子の、ただの変態だよな。」と言った。
「いいよ、別になでても。」と、私はいたずらな顔で答えた。
私たちの狂愛が始まろうとしていた…。
終わり
狂愛 ~筆で愛して~ 望月凛 @zack0724
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