第23話 失敗は成功の元?
私、魔法使いのメオ! こっちは全裸接客撤廃派のフィアネさん!
そしてこっちは、全裸接客擁護派のキャストの皆さま!
今日は大人のおもちゃ作成会議で、関係者全員に集まってもらっているの!
いつもは優しいフィアネさんだけど、今は青筋浮かべて超ピキリモード!
キャストの皆さまも眉間を波打たせているし、一触即発って感じ!
こんなので本当に大人のおもちゃ作れるの!?
お願いだから喧嘩しないでね!? 私、木材は直せないよ!?
「ってゆーか、今更話し合いなんかする必要無いと思うんですけど」
うおお、いきなりのケンカ腰。
キャスト陣の先頭に座る厚化粧のピンク髪のお姉様。
全裸接客擁護派の長、雑貨店ユニコーンの全裸店員、イスクさんだ。
下着モロ見えのミニスカート、足を組んで、片足ぷらぷらさせながらフィアネさんを睨んでますね。
でも、そんなお姉様相手でも、フィアネさんは背筋を伸ばし、凛とした佇まいで睨み返している。
「イスクさん、今日の話し合いはこれまでとは違うの。貴方たちの協力が必要不可欠なのよ」
「アタシ達の協力って言ってもね、アタシ達に出来ることなんざ、服を脱ぐことだけだぜ?」
『なんですって!?』
あ、ちょっとドーナツさんは黙っておこうか。
ほんと、この子の声が私だけに聞こえるんで良かったよ。
「むしろ、この子の為に一肌脱いでもらいたいの」
「は? なんだよそれ」
「実はね、この子、魔法が使えるのよ」
皆さまの目が、ドーナツさんを抱いた私に集まる。
あ、どもども、すいません、魔女です、どうも。
「この子の魔法の力を使ってね、大人のおもちゃを開発しようとしているのだけど、情報が足らないの。貴方たちは全裸接客をしているぐらいなのですから、男の人に対する知識は貪欲なのでしょう? 今日は、どうしたら男の人が悦ぶのか、知識不足な私たちに教授してもらいたくて、それで集まってもらったの」
ざわざわざわざわ……。
みんなが騒ぎ始めたところで、ひょいっと手を挙げてみた。
「あの、フィアネさん、今更な質問を宜しいでしょうか?」
「どうしたの?」
「この方たちって、お客様に体を触らせていないんですよね? それって知識が貪欲って言えるのでしょうか? むしろ、出産経験のある婦女子会の皆さまの方が、経験も知識もありそうな気がしますが」
だって、少なからず旦那様を満足させたからこそ、お子様がいらしている訳ですから。
ただ見せるだけで終わらせている人たちよりかは、よっぽど生々しい経験をしているはずでしょ。
と、思っていたことを口にしてみたところ。
「今お前、なんつった」
ピンク髪の人が、今度は私を睨みつけてきた。
「経験も知識も、婦女子会の方があると言いました」
「魔女だからって調子に乗るなよ? アタシらが何も考え無しに脱いでると思ってんのか? 相手のオッサンの目を見て、口を見て、どういう風にすれば喜ぶのか研究に研究を重ねて、それで今の形になったんだ。生半可な覚悟で出来る仕事じゃねぇんだよ!」
そうだそうだ! って周りの子も叫んでるけど。
え、この人たち、服を脱ぐだけの仕事にプライド持ってるの?
服を脱ぐだけなのに? ちょっと、理解出来ないかも。
「じゃあ、協力してくれるってことで、いいのよね?」
「全裸接客を辞めろってことじゃないのなら、協力しても構わないぜ?」
という訳で始まった、女たちによる大人のおもちゃ作成会。
「だから、先端が気持ちいいってオッサンが確かにいたんだよ!」
「ウチの旦那は横を舐める方がいいって言ってた!」
「袋の方を揉むのは? もにゅもにゅして触ってて気持ちいいと思うんだけど」
「袋の方はしくじると死ぬっていうよ?」
「死ぬの? マジ? きゃははははは!」
まぁまぁ賑わいを見せてくれたんだけど、結局具体的な意見として挙がったのは。
① とりあえず全体を包み込め。
② 先端を手のひらで擦るような感じで。
③ 前後に動いて大丈夫な柔らかさ
④ それでいてキュッと締まる感じ。
なるほど、わからない。
「じゃあ、今から皆様の意見をまとめたものを作成してみますね」
とりあえず、言われた通りの物を作ってみるか。
しかしまさか、私の人生において、魔法で大人のおもちゃを作る日が来るとは思わなかったね。
「万物従属」――――「〝形状変化〟ストーン・ゾナ・アルフ」
石を泥へと変え、粘土のように
細かい部分は手作業ではなく、魔力で操作、想像通りに形を作らせると、泥を固定化させる。
出来上がった試作品一号は、中身に丸いボールを仕込んだ、男の人のを包み込む何か。
「男なんて腰振ってれば満足するでしょ。話し合いなんてするだけ無駄なんだよ」
イスクさんに何か言われたけど、とりあえず試作品一号の完成だ。
あとはこれを持って行って、ラギハッドさんが了承すれば、それで終わりなんだけど。
「おお、もう出来上がったのですか」
「案さえ決まれば、作るだけなら一瞬ですので」
「ふむふむ、魔法とは便利なものなのですね。それでは、ちょっと失礼」
試作品一号を手にして、ラギハッドさんが部屋を出てから二十分後。
「これはダメですね」
「ダメですか」
「試してみましたが痛いだけでした。男の人の中には私よりも太くて長い人もいます。どんな人のイチモツにも対応できる形でないと、商品としては認められません。一次審査失格です」
一次審査失格か。
ラギハッドさんが一次で、二次が他の人って感じなのかな。
何を思ったのか、ラギハッドさん、手にした黒い物を私の方へと差し出してきた。
「どうしました?」
「え? あ、いや、使用済みはいらないなと思いまして」
「ああ、そうですね。しかし、これだけ硬いと処理が面倒ですね」
「砂に変えておきますので、それで処分してください」
「おお、一瞬で砂に。これはこれで商売のタネになりそうですね」
私がいないと始まらないのは、石切り場だけで精一杯です。
てくてくと店に戻り、結果を待っていた女性陣へと報告をすると。
「硬くて痛くてダメ? 何それ、そいつが皮かぶってるだけなんじゃないの?」
「あー、たまにいるよね、ぎゅっと絞った形になってるの」
「アタシそれ、お子様って呼ぶようにしてる。面倒なのよね、アレ」
「まぁともかく、痛くてダメってことは、もっと大きくしてみれば?」
という訳で、今度は触れる部分を大きく空洞にしてみたのを持ち込んでみた。
「あの、広すぎて全然気持ちよくないのですが。もっと女性に包まれるような温もりと優しさが欲しいですね。それと、出来たら体液の再現もして欲しいと思います。それに関しては大人のおもちゃ単体では難しいかもしれませんから、別に依頼しても構いませんが」
むむ、意外と注文が多いね。
温もりと優しさって、石で表現できるものなの?
とりあえず店に戻り、結果報告。
「あー、温もりと優しさね。って、わかるかいそんなの!」
「好き好きいいながらする人もいるもんね」
「一人エッチって、基本的に誰かを想像してるもんね」
「体液かぁ、泥を擦れば温まってそんな感じになるかもだけど」
その後、集会で提案されるものを商工会へと持って行くを繰り返すも、ラギハッド支部長の承諾は下りず。結局その日は解散となり、また明日集まることになった。皆が帰った店内にて、私とディアさん、そしてフィアネさんの三人が、試作品案を前にして頭を悩ませ続ける。
「このまま続けても、何も変わらないと思いますけどねぇ」
『体液の再現とか、ラギハッド支部長も適当なこと言いってくれちゃって』
「イスクさんたち言ってましたけど、男の人だって体液出すんですよね? だったらそれでいいじゃないかって言ってやりたいですよ」
何もわざわざ別の液体で包み込む必要なんざないだろうに。
それに硬くて柔らかくて温かい? そんなの無理に決まってるじゃん。
「ってゆーか、手でいいと思うんですけどね」
『商工会の方で、客は脱ぐのを禁止ってしたからね。本当、厄介な決め事だけは早いんだから』
「大人のおもちゃで包み込んで見えなければいいって、そういう問題でも無さそうですけどね」
なんか、考えるのが馬鹿らしくなってきた。
どうして十五歳の乙女が、こんなにも見知らぬ男性の性器を考え続けないといけないのか。
「とりあえず、食べてから考えましょうか」
ホクホクの湯気と共に、美味しそうな匂いが店内に充満する。
フィアネさんお手製のポテト、さっそく一本……うは、美味し。
フライドポテトとサラダ、それにハンバーグとバケットパン、これは美味しそう。
「場所を提供させちゃったからね、ご飯ぐらいは用意してあげないと不公平でしょ? それにしても、初めてここのキッチン使わさせてもらったけど、設備凄いのね。魔法玉加熱式コンロだけじゃなくて、グリルやフライヤーも使えるとか。あれだけでも相当値が張りそうなものだけど」
『ここ、もともとレストランでしたからね』
「そうなの? でも納得かも。あそこ活用すれば、そのままレストランとして営業出来そうね」
私が料理できませんのでね。
宝の持ち腐れですみません。
「結局、なんにも話がまとまりませんでしたね」
「もうちょっと、妙案が出ても良さそうなんだけどね」
お肉美味しい……もぐもぐ……あ、ポテトも美味し。
『何も考えられないからこそ、服を脱ぐ、なんて手段で商売しているのでしょうから、期待するだけ無駄ですよ。それよりも、上を変えた方が正解は早そうです』
「上?」
『商工会がルールを定めたのだから、そのルールを変えてしまえばいい。つまり、全裸接客をする場合、性的サービスもOKじゃないとダメにするとか。多分、そっちの方が話は早いです』
まぁ、確かに。
欲望の捌け口にしてしまえば、それで終わる訳だし。
「でも、それはダメだって決まった以上、今日明日で変わる話じゃないの。でも、事件は今日明日起こるかもしれない。いま注力すべき事柄は商工会の説得じゃなく、大人のおもちゃの迅速なる開発よ」
フィアネさんの言うことは分かるけどねぇ……現状、何も思い浮かばない訳ですし。
そもそも、石や岩を使って作ろうと考えているのが間違っているとしか思えないよ。
もっとこう、柔らかい布とか、そういうので作ればいいと思うのに。
溜息と共に、テーブルに突っ伏す。
視界に入ってくるのは、頭を悩ますディアさんとフィアネさん、それと……何かで遊んでいるドーナツさん。
何をしているのだろう? 液体に猫パンチ? あ、でも、固くなってる。
「フィアネさん、あれ、なんですか?」
「あれ?」
「あの、ドーナツさんが叩いてる白い液体」
パンパン! ってドーナツさんが叩いているけど、どう見ても液体。
「ああ、ミルクと間違えて置いちゃったみたい。これ、ラミーのおもちゃ用に作った液体なのよ」
「おもちゃ?」
「うん。ジャガイモをこして作った液体と水を混ぜるとね、こんな感じに……ほら、握れば硬くなって、力を抜けば液体になるの。ラミーのおもちゃにもなるし、味を付ければオヤツにもなるから、用意しておいたのだけど。ごめんねドーナツちゃん、貴方のミルクはこっちだからね」
握れば硬くなって、力を抜けば液体?
『メオちゃん、どうしたの?』
「……これ、もしかしたら作れるかもしれませんよ」
『え? 何を?』
てろてろになった液体を手に、思わず口角が上がる。
「もちろん、大人のおもちゃをですよ」
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