第18話 バニーガールは突然に!

 私魔法使いのメオ! こっちはチンチンの小さい飼い猫のドーナツ!

 白目むいて泡吹いて倒れたけど、あの時の記憶は無くなったみたい!

 なので、午後は二人でランボリピーの街でビラ配り!

 ついにオープンを迎える私のお店の為に、今日も一日頑張ります!


「回楽店、明日オープンでーす! 絶対に壊れない日用品! 石材【ラスレーの黒正妃】を使った最上級家具が入手できるのは、ウチ、回楽店だけでーす! 落としても割れないお皿! 触れただけで分かる高級感溢れるこの質感! 手に入れない話はないよー!」


 わはー! 楽しいー! ビラ配りだけでも結構楽しいものね!

 こうして街の目抜き通りでわいわいしてるだけでも楽しい!

 ウエストレストの森にはこんな沢山の人なんていなかったもんね!

 はい持ってってー! 沢山の人に広めてって―!


「よう嬢ちゃん、気合入ってんな」

「アンドレの親方! 来てくれたのですか!」

「ははっ、来てくれたって言うか、この街は俺の家があるからな」


 おお、そういえばそうでした。

 親方はセンメティス村に出稼ぎに行っている状態でしたね。 


「ということは、隣にいらっしゃるのが」

「ああ、俺のカミさん、フィアネと娘のラミーだ」


 アンドレ親方の奥様。

 ほへぇ……綺麗な人だな。

 目が覚めるような金髪を腰まで伸ばしていて、しかも手入れ完璧。

 お胸もディアさんみたいにあるし、服の上からでも体型が良すぎるのが分かる。

 

「貴方がメオちゃんなのね。私、フィアネ・ガレスチノフ、宜しくね」

「あ、はい! 宜しくお願いします!」


 手の肌艶もいいし、香水使っているのかな? ふわっと花の香りがしてそれもまた良い。

 こんな綺麗で素敵な人を射止めるとか、親方凄くない?

 んー、でもまぁ、アンドレ親方はハゲ頭でお腹でっぷりだけど可愛いしね、あり得るか。

 

「もっと早く挨拶に行きたかったのだけど、旦那に止められていてね」

「そうなのですか? フィアネさんなら大歓迎でしたのに」

「商売前の大事な時だから、邪魔しない方がいいって……あら、猫ちゃんも一緒なのね」

「あ、はい。ウチの従業員が飼っているドーナツさんです」

「ちゃんとチラシを咥えていて、とても可愛いわね」


 フィアネさんがしゃがみ込んで手で誘うも。

 ドーナツさん、上げた顔を、ぷいって背けてしまった。

 

「あら、嫌われちゃったのかしら?」

「どうなのでしょう? ちょっと聞いてみますね。ドーナツさん、どうしました?」


 丸くなったドーナツさん。

 香水の匂いがダメだったのかな?

 背中をなでなですると、背けていた顔を戻してくれた。


『あっしはディアの姉御一筋でござんす。決して、他所の女にゃあ靡かねぇんですよ』

「あらそうなの。でも、フィアネさんも大事なお客様だから、愛想良くして欲しいんだけど?」

『メオの嬢、男と女の世界にゃ、嬢には分からねぇ世界ってもんがあるんです』


 まるで私が子供みたいな扱いしてくるじゃない。

 男と女の世界ぐらい、私だって知ってるし。


「ふぅん、じゃあ、今日のご飯抜きにするけど?」

『飯で男を釣ろうたぁ、ふてぇ話だ』

「あーわかったわかった。じゃあ一回だけ、一回だけ抱っこされて」

『……分かりやした。一回ならば、一宿一飯の恩義を返すにゃ丁度いい話でござんす』


 あーめんど。 

 ディアさんだったら二つ返事で引き受けたくせに。

 

「メオお姉ちゃん、猫さんと会話できるの?」

「え? ああ、うん。魔女は基本的に猫と会話出来るんだ」

「いいなぁ、ラミーも会話したかった」


 娘さんも可愛いなぁ。

 ラミーちゃん十歳くらいかな? お母さんと一緒、綺麗な金髪だこと。

 

「フィアネさん、抱っこしてもいいそうですよ」

「あら? いいの? ありがとう。……、凄く良い毛並みね、ふわふわしていて、気持ちいい」

「ママ、ラミーも」

「はい、ママと一緒ね」

「うん。……ねぇ、メオお姉ちゃん、猫ちゃん、喜んでる?」

「え? あー、うん、喜んでますね」

 

 ドーナツさん、フィアネさんに抱っこされた瞬間から、


『いけません! いけませんぜフィアネの姉さん! ぐはぁ! 色気が、男を誘う色気が強すぎるんでさぁ! あああ、ディアの姉御! すまねぇ! ドーナツは、男ドーナツは! 今この瞬間、アンタを裏切っちまってございやす! ラミーちゃんも良い! 親子どんぶり最高! ひゃっはー!!』


 とか言っているのよね。

 この猫、相当に女好きなのかも。

 チンチン小さいくせに。


「それにしてもよぉ、こんな便利な猫がいるなら、芝居打って広告したらどうだい?」

「芝居打って広告? どういう意味ですか?」

「それと、広告塔であるメオちゃんの服装も、変えた方がいいわね」

「え? 私の服装を変えるのですか?」

「ええ、ちょっとウチまで来なさいな。その間に旦那が場所を整えてくれるから」


 夫婦でアイコンタクトを取ると、私は半ば強引に家まで連れていかれるのでした。

 そして、アンドレ親方の家にて。

 私は、人生初のバニーガールへと、変貌を遂げたのでした。


「やっぱり! 超可愛いわよ!」

「……こんな服、着たことないのですが」

「大丈夫! お客さんの目を集めるなら、これぐらい大胆な方が良いの!」


 肩はむき出しで、腰の辺りが窮屈なくらいに絞られて、そしてお股に食い込む。

 バニースーツとか恥ずかし過ぎて、さすがにこんなの着て外を歩けないよ。

 

 フィアネさんとかディアさんなら、おっぱい大きいから見栄えするんだろうけどさ、残念ながら私にはそんな大層ご立派なものは存在していないし。ほら御覧よ、胸を護るはずの部分にすきま風が通って、寒いよう、寒いようって泣いているじゃないか。ちくしょう。


「ふふっ、大丈夫。このスーツにはね、特殊なスライム製吸着パットが付属されているの」

「スライム製、吸着パット?」

「ええ、体中の脂肪を集めて、メオちゃんでも立派な谷間が作れるんだから」


 なんですかその夢のようなアイテムは。 

 

「じゃあ、胸に装着するね」

「は、はい……んぉ!?」


 な、なにこれ! 吸い込まれる感じがする! 

 足のつま先から、頭の天辺から! お尻から、背中から、お腹から! 

 全部の脂肪が、私の胸に集まる! 


「はい、完成。保温効果もあるから、寒くもないでしょ?」

「う、うぉぉ……! こ、これが本当の私!」


 いつも虚無な私の胸に、谷間がある!

 なにこれ、なにこれー! うわぁ! おっぱいふよふよ! 

 自分の身体なのに、自分の身体じゃないみたい!


「フィアネさん! 私! 巨乳になった!」

「ふふっ、良かったわね」

「凄いです! 凄いです!」


 はわわわ、はわわわ! 


「さて、旦那の方も舞台が整っているでしょうから、そろそろ行きましょうか」

「はい! ぜひ、私のおっぱいを見てもらいましょう!」

「そうね、公園に着くまでは、上着を羽織っていきましょうね」


 嬉し過ぎて暴走しそう!

 そしてそして!


「なにこれー!」

「おお、嬢ちゃんも着替えてきたのか」

「親方! これステージですか!?」

「ああ、仲間に声かけてな、即席で見栄えも悪いが、宣伝舞台程度ならこんなもんだろ」


 うわー! 凄い! 着替えるだけの僅かな時間で舞台が作れちゃうんだ!

 親方たちの舞台を見て、周囲の人たちも集まり始めているし! 

 これは宣伝のし甲斐があるってものね! よぉっし! 私の巨乳! 


 ……見て、もらうの。

 ……なんか急に、恥ずかしくなってきた。


「あら? どうしたの?」

「あの……やっぱりちょっと、恥ずかしい、です」


 家だとノリノリだったけど、いざ舞台ってなると、やっぱり恥ずかしい。

  

「メオちゃん」


 わわっ、フィアネさんに、ぎゅってされちゃった。


「男は度胸、女は愛嬌よ」

「……女は、愛嬌?」

「そう。女は愛嬌。可愛ければ大体なんでも大丈夫」

「そういう、ものですかね」

「そういうものよ。メオちゃんは可愛い、いつも通りのメオちゃんでいけば、きっと大丈夫だから」


 なんの根拠もないし、何なら今日初めて顔合わせしたぐらいだけど。

 フィアネさんに勇気づけられちゃったし、ラミーちゃんも瞳キラキラさせているし。

 

 それにそれに、私には借金があるんだ!

 金貨二十万枚を稼ぐ為にも、文字通りひと肌脱ぎますか!


「皆さま初めましてー! 明日オープンのお店、回楽店の店長、メオと申します!」


 会場を待っていてくれたお客様に、歩く足を止めてくれた人に、公園の野原に座りながら私を見ている人。沢山の視線を浴びて頭の中が沸騰しそうだけど、これは間違いなく広告としては最大のチャンスなんだ。チャンスを活かすも殺すも私次第、絶対にものにしないと。


「皆さま、こちらの商品をご覧下さい! 新素材、石材【ラスレーの黒正妃】で作られたお皿になります! こちらの新素材、特徴はなんと言っても割れないこと! ではでは、ウチのマスコットキャラクターである、猫のドーナツさんに登場していただきましょう! ドーナツさん、どうぞー!」


 可愛い衣装を着せられたドーナツさんが登場すると、今度は女性陣が足を止めた。

 やっぱり猫が出てくると、女性の食いつきが違うなぁ。 


「じゃあドーナツさん、このお皿を咥えて、木の上から落としちゃってください!」

『嬢ちゃん、なかなかいい女になったじゃねぇか』

「いいから、早く落としちゃってください!」

『ふっ、華麗な俺に、惚れるなよ?』


 惚れません。

 猫ですし。


「あらあら、お利巧な猫ちゃんねえ」

「猫って人のいうこと聞くんだ」

「凄いな、回楽店か……」


 ふっ、さすが猫パワー、指示通りに動くだけで大人気ね。

 そしてドーナツさんが咥えた皿を木の上に持っていき、地面へと落とした。


「どうですか皆さん! 目の前で地面に落ちたお皿をご覧下さい! 割れてないでしょう!?」


 当然、割れるはずがない。

 私の石魔法で作ったお皿なのだから。


「他にも力自慢の男性がおりましたら、割れないかチャレンジして下さい! 絶対に割れませんから!」


 こんな感じにね、実際に手に取ってもらって、お皿の凄さを実感して貰って。

 

「他にも軽くてすいすい拭けるホウキやモップもご用意しました! お掃除が楽になりますよー!」


 商品を紹介すればするほど、人が集まり歓声があがる。

 とても楽しくて、あっという間に一通りの商品の紹介が終わってしまった。

 試作品お試し会はアンドレ親方やお仲間さんに任せちゃって、ちょっと休憩しようとしたんだけど。


「メオ、凄いじゃないか」

「……え? ビット?」

「かなりの人も集まっているし、これは、明日の開店が凄いことになりそうだな」

「そ、そうかもね……」


 なんで、ビットがいるのよ。

 てっきりもう、センメティス村に帰ったと思ったのに。


「それに、メオのその恰好」

「……なに?」

「いや、似合ってるぜって、思ってな」


 バニースーツが似合うとか、褒められているのか分からないんだけど。

 それに相手がビットだと、ちょっと恥ずかしい。


『嬢! ご褒美タイムを頂きに参りやしたぜ!』

「ドーナツさん? え、ちょ!?」

『ふかふかおっぱいは、あっしの大好物でさぁ!』


 多分、飛び込んで来た時に、ドーナツさん、爪を立ててたんだろうね。

 スライム製吸着パットに亀裂が入ると、そこから透明な液体がぶしゃー! って噴出したの。


 結果。


「けほけほ……うえぇぇ、何この液体」

「メ、メオ」

「ん? なに、ビット」

「その、胸が」

「胸? ああ、これね、ちょっとした道具で……って!?」


 嘘でしょ、バニースーツの胸部分が、外側に折れ曲がっていらっしゃる。

 元のサイズに戻った私の胸が、おっぱいが、ななな、ななななあなあああぁ!


「ぃきゃあああああああああああぁ! もう! 最近こういうのは私じゃなかったのにぃ!」

『ん? 嬢ちゃん、偽物はいけねぇなぁ?』

「このバカ猫! とりあえずアンタが私の胸隠しなさいよ!」

『へっ、あっしは巨乳以外に興味がないんでさぁ』

 

 あ、この! あのバカ猫、私を置いてフィアネさんの所に行きやがった!

 もおおおおおぉ! バニーのスライムも完全にしおれちゃったのにぃぃぃ!


「メオ」

「何よ!」

「俺は、そのぐらいの方が好きだぜ?」


 ……。


「今そんなこと言われても何も嬉しくない!」

「あ、ああ、そうだよな。とりあえずほら、俺の上着でいいから、着ておけよ」


 あああん、もう! なんなのよもう!

 あのバカ猫、今日は絶対家に入れてやらないんだから!

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