第17話 うわ、ちんちん小っさ!

 ことあるごとに全裸になっちゃうディアさん。

 これじゃあ別の目的を持ったお客さんが集まっちゃうよ。

 という訳で、何か対策を考えているのだけれど。


「うーん、ダメか、魔法球にいくら魔力を込めても、渡せるほどの魔力にはならないなぁ」


 魔力を動力源にして動く道具は結構あるけど、魔力を貯蓄する道具は聞いた事がない。

 魔力回復薬もあるけど、アレ系は飲むとか食べるが基本だからなぁ。

 ディアさんは普通の食事も出来ない状態だし。


『ふふふっ、私もう、ずっとバックヤードにいようかなぁ』


 昨日、アンドレ親方やビットに裸を見られちゃってから、ディアさんずっとこんな感じだし。

 膝を抱えながらふわふわと店内を浮いて、見ている限りでは楽しそうなんだけどね。


「おや、今日のディアさんは浮いているのですね」

「あ、ラギハッドさん! え゛!? なんですかその可愛い生き物は!」


 緑色のまん丸頭、通称ドリアードヘアーのラギハッドさんが抱えている猫ちゃん!

 白くて綺麗な毛並みがとても上品な感じなのに、口の周りだけは黒いの!

 しかも猫ちゃんなのに足短っ! なにこの胴長短足猫ちゃん! 可愛い!


「いにゃあああああ! 可愛いいいいいいいい!」

「はっはっは、そんなに褒めなくてもいいですよ」

「ラギハッドさんの猫ちゃんなんですか!?」

「いいえ違います」


 違うんかい! 


『ドーナツちゃん! ドーナツちゃああああん!』


 あ、この子がディアさんの飼い猫なのかな?

 この子だけは連れて来て欲しいって言っていたものね。

 なるほど納得、これは可愛いが過ぎる。


『会いたかった! お腹空いてない!? 私がいなくて寂しかったでしょ!? 私も寂しかった!』

「フシャアアアアアアアアアアァァ!!!!」

『え、ドーナツちゃん?』

「フミャウゴッ! フウブルムンミャァ!」


 おお、全身毛を逆立てて、めっちゃ警戒されている。

 

『な、なんで、どうして』

「霊体だから、ですかね」

『そんな、それじゃあ、私はドーナツちゃんに触れることも出来ないの?』


 ディアさん、しょんぼりしてる。

 猫ちゃんとか、見えない物に敏感に反応したりするから、そんな感じなんだろうな。


「あ、そういえば知ってます? 猫って魔力にも敏感だったりするんですよ?」

「そうなのですか?」


 うっ、なぜラギハッドさんが反応したのだろう。 

 まぁ、いいか。


「ウエストレストの森でも、猫を飼ってる家が多かったんですけど、猫って魔力に反応して、勝手に集めてきたりするんですよね。私たち魔法使いが使う魔力の残滓? みたいなのが空気中に残っていると、それをかき集めて、球にして遊んだりとかするんですよ?」

「ほう、まさか猫にそんな能力があったとは。素直に驚きです」


 それに猫ちゃんは、魔女のお供としても優秀な存在だったりするのだ。

 使い魔にするなら猫! っていうのは、きちんとした理由があったりもする。

 単純に可愛いから一緒にいたいっていうのも、理由のひとつなんだけどね。


『ドーナツちゃぁん……』

「フッシャミルグモッフミギャアァァッ!」


 これは無理そうね。

 警戒しすぎて完全に毛玉になっているもの。


「ああ、そういえば、今日ここに来たのは猫だけじゃないんです」

「そうなんです?」

「はい。この快楽……回楽店が、正式に店舗として認められましたので、営業許可証をお持ちしました。試作品の数々も商品として認められましたので、それらの販売許可証も併せて、全てお渡しいたしますね」


 いま、なんか、とても危険な言い間違えしそうになっていなかった?

 気のせいかな、気のせいだといいんだけど。

 というか、営業許可証! スッゴイ、賞状みたいに厚紙が使われていて、めっちゃ立派じゃん!


「営業許可証に販売許可証ということは!」

「はい、今日から回楽店はいつでも営業可能となりました。存分に頑張って下さいね」

「ありがとうございます! めっちゃ頑張りますー!」


 お店を去る木の精霊にぺこぺこと頭を下げて。


 やったー! ついに返済に向けての第一歩が始まるぞ!

 さっそく魔法で作った日用品の数々を並べちゃおうかなぁ!

 くふふふっ! 楽しい、楽しすぎる! いらっしゃいませー! みたいな!


『ドーナツちゃん……』

「もう、まだ諦めてないんですか?」


 既に商品を並べ始めているのに、ディアさんったらドーナツちゃんを前に、泣きそうな顔をして。


『諦めきれる訳ないじゃない、ドーナツちゃんは子猫の頃から育てた娘みたいな存在なのよ? 私って分からないのかな。見た目は完全に私のままなのに』

「じゃあ、ドーナツちゃんに聞いてみますか? その方がきっと、いろいろと話が早いですよ」


 置くならホウキとチリ取りはセットがいいよねぇ……ん?

 なに? ディアさん、目を白黒させてる。


『会話、出来るの?』

「はい、猫は使い魔にも出来ますから、魔力を与えれば会話可能になります」

『ほ、本当に会話出来るの!? やって! 早くやって!』

「う、腕を揺らさないで下さい! 商品落としちゃいますから!」


 まったくもう。

 落としても割れないけどね。

 

「さてと、じゃあまずは、いつも通り魔法球に魔力を込めてと」

『わくわく』

「ドーナツちゃんおいでー、一緒にタマタマで遊びましょー」


 床で魔法球を左右に転がしていると、ドーナツちゃんも気になるのか、目で追いかけ始めた。

 「ほい」っと球を投げ与えると「にゃん!」と魔力球に飛びつく。

 すかさず私も両手を球に触れさせて、魔力注入! ビビビビビビー! で、完成。


「出来ました、ドーナツちゃん、私の言っていること、理解出来ますか?」

 

 しばらくの沈黙。

 きょとんとした黒い瞳の瞳孔が、きゅーっと細まっていく。

 

『ドーナツちゃん! 私のこと分かる!? 一緒に暮らしてたディアだよ!? 』


 ディアさんが近寄ろうとすると、ドーナツちゃんはすっ……と距離を取った。

 そして、無駄に凛々しい眉毛と共に、ドーナツちゃんは語り始める。


『ヤメテくだせぇ、ご主人。アッシの爪が、主人の柔肌を傷つけてしまいやす』


 おお、なんて声をしているの。

 低すぎてビビルぐらいの低音ボイスじゃない。

 これはドーナツちゃんじゃなくて、ドーナツさんって呼ばないと。


『アッシの爪は、霊体を傷つけてしまいやす。恐れ多くもご主人は恩人、恩人を傷つけてしまったその暁には、この腹切っても悔やみきれねぇでさぁ』


 しかも喋り方クセ強すぎ、どこの方言?


『ね、ねぇ、いつになったら会話が出来るようになるの?』

「え? あ、そうでした。猫と会話できるの、私だけです」

『えええええぇ、そんなぁ……ちぇ、ドーナツちゃんとイチャイチャしたかったのに』


 こんなドスの効いた声の猫ちゃんと? 私はちょっとご遠慮願いたいかなぁ。


『イチャイチャ?』

 

 おお、ドーナツさん、急に凛々しい顔になった。

 

『主人、アッシは貴女に惚れた、しがない一匹の猫でございやす。イチャイチャしたいのはやぶさかではございやせんが、男ドーナツ、さすがに惚れた女とのねんごろにゃあ、分をわきまえさせていただきやすぜ……』


 なんか良く分からないことを言いながら、ドーナツさん、ショーウインドウの前で丸くなっちゃった。

 

「いやーしかし、可愛くないですね」

『可愛くない? 私にはにゃんにゃんとしか聞こえないけど?』

「あはは、まぁ、その方が良いと思います」

『それって……まさか、ドーナツちゃん、私のこと嫌いってこと?』

「いえ、大好きだそうです。照れてるみたいですよ」

『え!? 猫って照れるの!? きゃーん! 可愛い! ドーナツちゃあああん!』


 丸くなったドーナツさんに、ディアさん頬ずりしているけど。

 そもそもディアさん、ドーナツさんのこと娘って言っていたよね。

 まさか劇的に渋い男だと知ったら、一体どんな顔をするのかな。


「ところでディアさん」

『ん? なぁに?』

「私の首を絞めるの、めて貰えませんか」

『え? あ、あれ!? なんで急に!? 私ドーナツちゃんと触れ合っただけなのに!』


 苦しい。

 そうか、使い魔になったドーナツさんから、魔力を補填したのか。

 なるほど、これは、やっちまったかもしれない。


「と、とりあえず、これ、下さい」

『はい! 銅貨三枚になります!』

「え、お金ないです」

『では、お引き取りを』


 あ、手が離れた。

 ふぃー、久しぶりに全力で首絞められちゃったよ。


『今のって、ドーナツちゃんから魔力を貰ったってこと?』

「けほけほ……はい、恐らく」

『な、なんて優秀な猫ちゃんなの! ドーナツちゃん、一生愛してるからねえええぇ!』

『ディアの姉御! アッシも! アッシも姉さんを孕ませたいでさぁ!!!』

『ドーナツちゃああああん!』

『姉御おおおおぉ! 俺の子供を産んでくれええええぇ!』


 ドーナツさん抱き上げて喜んじゃってまぁ。

 意思疎通が出来てそうで出来てないねぇ。


 それにしても、どうして雄って分からないのかな? 

 多分、いまのドーナツさんって、あの時のビットみたいになってそうだけど。

 ちょっと拝見。


「うわ、ちんちん小っさ」


 これは無理だわー。

 ドーナツちゃんに格下げだわー。


『メオちゃん、どうしたの?』

「ああ、いえ。ほら、ディアさん、これ、ドーナツのチンチン」


 本当に小さいの、豆ぐらいしかない。


『え? これが? ふふっ、ウソ言わないの。こんな小さいチンチン、ある訳ないじゃない』

「えー? でも多分、これが最高潮の状態ですよ?」

『そんな訳ないじゃない、乳首か何かじゃなくて?』

「乳首がこんな所にあるわけ……って、ん?」


 あれ? ドーナツさん、白目むいて泡吹いてる。

 どうしたのかな? まぁいいか、こんな小さいチンチンでも男の子なんだし。


 とりあえず、ディアさんの露出狂問題は解決したし!

 オープン前のビラ配りとか、いろいろ動くぞー!

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