最後のページを開くまで、あなたを知らなかった

@chuntiansan

最後のページを開くまで、あなたを知らなかった

遺品の整理をしていると、古びた日記帳が出てきた。

祖母が若い頃に書いていたものらしく、ページの端はすっかり黄ばんでいる。何気なく読み始めた僕は、やがてその内容に引き込まれていった。


そこには、若かりし頃の祖母の想いが綴られていた。

“貴方に出会って、私は世界を知った。貴方の笑顔だけが、生きる意味だった。叶わないとわかっていたけど、それでも私は——”


初恋だったのだろう。想いを伝えることもなく、その人は遠くの町へ引っ越してしまい、それきり会うことはなかった、と。


僕はふと、祖母に最後に聞いた言葉を思い出す。

「ねえ、おばあちゃん。人生、楽しかった?」

祖母は少し笑って、こう答えた。

「そうね、幸せだったと思うよ」


本当に? 本当に幸せだったの?


そう思いながら日記の最後のページをめくると、そこにはこう書かれていた。


「——けれど、あの人は今も私の隣で、知らないふりをして笑ってくれている。」


「彼は私の初恋で、そして私の夫になった人。」


僕は思わず声を漏らした。

え? まさか——祖父だったの?


僕は急いで二人の写真を探した。若かりし頃の祖母と祖父。

たしかに、そこには並んで笑う二人が写っていた。


祖母は気づいていたんだ。祖父も覚えていたんだ。

知らないふりをしていたのは、きっとお互いに。


——幸せだったのかって?

きっと、それ以上の奇跡だったのかもしれない。

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