日常感覚で潜るダンジョン、冒険と日常が交錯する話

<第1話を読んでのレビューです>

探索者としての主人公と仲間たちの、川越「時の鐘」ダンジョンでの小さな冒険の物語である。文章は軽快で、会話や心の声を多用し、読者を物語の世界に引き込むテンポの良さがある。ダンジョン探索という非日常の舞台でありながら、仲間とのやり取りや現実的な悩みが丁寧に描かれていて、無理に緊張感を煽ることなく、日常と冒険の距離感が心地よく感じられる。

「……でもこれは強くなるという感覚がない。いや、あるらしいんだが……こういう雑魚ばかり倒しても全く実感はない。」

単なる戦闘描写に留まらず、主人公の内面のもどかしさや探索者としての実感のなさが、簡潔でありながら説得力をもって伝わる点だ。この描写により、単なるRPG風の冒険ではなく、現実的な感覚を伴った「作業としての冒険」が生々しく感じられる。

さらに、仲間たちの軽妙な会話や安全策の議論、冒険の計画と躊躇が自然に描かれていることで、キャラクターたちが単なる記号ではなく、生きた人物として存在していると感じられる。読後には、主人公と仲間たちの関係や心境に対して、素直に興味と好意が湧く構造になっているところが、この作品の魅力と言えるだろう。

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