とある師弟の日常

 カチッ...チッツト...ガコンッバン!!


 ......ドゴォォン!! ギャオオーーー!!


「...あの、レーラー師匠これ何なんですか?ワイバーンを撃ち落としましたよね......」


「いまさら何を言っているんだシューラー、お前さんも開発にたずさわっただろう」


 いや、確かに構想設計段階からたずさわったけどこんな機構つけた覚えないぞ。そもそもこの道具に似つかわしくない機構だ。

「ですがレーラー師匠、これランタンですよね。何故光源であり燃料の魔石を飛ばす必要があるんですか?これもうランタンじゃなくて新型の魔導銃ですよね。騎士団に見つかったら特殊魔道具作成法違反で捕まっちゃいますよ⁉」


「シューラー落ち着きなさい、昔からよく言うだろバレなきゃ犯罪じゃないってね」


 何を言っているんだこの人は、流石にバレるでしょ...

 私たちは魔道具職人だ。私たちの住んでいる王都アーティザンは職人をしっかり管理していて、特に魔力を扱う職人は特殊な資格を必要としている。資格取得と同時に魔力波形を国に登録して管理される。

 そして魔道具というのは魔石を加工して様々なものを作る工程上、作り手の魔力が魔石に染みわたることになる。つまり先程撃ち落としたワイバーンを調べられるとかなりまずい、たとえ魔石が粉々になっていても魔力残滓が残るので間違いなく騎士団がここに来るだろう。

「レーラー師匠...私嫌ですよ、師匠が捕まったら居場所が無くなっちゃいます。まだ見習いですし、こんな姿の私じゃこの国で...いや師匠が居なくなったら生きていけないです」


「そんなこと言うんじゃない、姿形が変わってもお前が私の弟子であることに変わりない。それに私は捕まったりしないよ、策は用意してる。おや...誰か来たようだ」


「失礼、騎士団の者です。先程のワイバーンの件でお聞きしたいことが...」


 うわぁ騎士団の人もう来た、レーラー師匠はどう乗り切るつもりなんだろう。だけどあの騎士さんシルバーブロンドのショートボブでかっこいいなぁ、しかも細マッチョで真面目そうな雰囲気してる...ちょっと良いかも

「あのーその件については...」


「おぉファーリスじゃないか、毎度毎度ご苦労なことだな。ほらっ持っていけ」


「あなたも変わりませんね、こういう物を作るならちゃんと特殊魔道具作成取り扱い責任者の資格を取ってからやってくださいよ。はぁ...この魔道具の仕様をご説明願います」


「これはランタンを改良した魔道具だ。少し前に古書店で古い文献を見かけてな、そこに書いてあった道具を再現してみたのだ。その本にはこう記してあった、『これは照明器具だ。突起を押すと明滅したのち点灯し周囲10m程を明るく照らす。光源は取り換え式だが規格の合わない物を使うと故障の原因となる、なので正しい使い方を心掛けるべし』ってね」


「今の内容で何故あれが出来るのか分かりませんが、取り敢えずもう少し詳しくご説明願います」


「ふむぅ...最初はちゃんと作ったのだよ、だが私のおもな客層は冒険者や行商等の旅をする者たちだ。旅には危険が付き物でねぇいざという時のために身を守れる手段を付けたかったんだ、これで少しでも命を救えたらと思ってね......よよょ」


「...で、本当の所は?」


「はっはっはー!そんなの酔った勢いで古い文献の物を作ったらロマンを付けたくなっただけだよ、そんなことファーリスなら言わなくてもわかるだろ?」


「まぁあなたの性格が終わっているのは勿論承知しております。ですが、これから上司に報告しに行く身にもなってほしいですね」


 なんか二人とも知り合いっぽい雰囲気だな、これなら捕まらないで済みそうだ

「お二人は知り合いなんですね、レーラー師匠が騎士様と親しいなんて驚きました」


「ん?レーラー殿、弟子には十年前まで王宮お抱えの魔道具職人だと伝えてないのですか?」


「えぇ!?レーラー師匠王宮に勤めていたんですか、あのズボラで他人を気遣えない師匠が...信じられないです」

 それに...十年前というと私が師匠に拾われた頃だ、あの時師匠に助けて貰えなかったら死んでいた。


「失礼な弟子だ、私はお前に仕事を覚えさせる為にわざとズボラを演じているのだよ。まぁ、今は本当にズボラなだけだがね...しかしファーリスよ今日は来るのが早かったな、いつもなら事を起こした翌日に来るのに。」


「今日は別件で来たんです、なのに報告することが増えたので胃が痛いですよ。ぉほん、本日はレーラー殿を拘束に参りました。御覧の通り逮捕状もございます」


「ふむふむ、『過去に起こした特殊魔道具作成法違反並びに禁忌侵犯の疑いで魔道具師レーラーを逮捕拘束する』と書いてあるな」


「ちょっちょっと待ってください!何かの間違えです...とは言えませんが、もっとよく調べて下さい。師匠がそんなことをしていたら周りに自慢しているはずです!それに過去に起こしたって何年前ですか?もう時効なんじゃ...」


「確かに特殊魔道具作成法だけなら時効でした、ですが禁忌侵犯が関係しているとなると話は変わってきます。この国では禁忌侵犯に時効はありません、よってレーラー殿には10年前に禁忌侵犯をした疑いについて詰め所でお話を伺います」


「...わかったよ、さっさと行こうか。」


「そんな⁉レーラー師匠私はどうすればいいのですか!」

 どうしよう師匠が連れてかれちゃう!店の事は私がほとんどやってるから基本大丈夫だけど師匠が帰ってこなかったら私死んじゃう...


「心配するなシューラーすぐに帰ってくるさ。だから店には一人で戻ってくれ、それにいつも言っているだろお前を一人にしない死ぬときは一緒だと」


「レーラー師匠...わかりました、無事のお帰りを待っています」

 いつもズボラで他人を気遣わない師匠が弟子の私を心配してくれている、それが凄く嬉しいでもそれと同時に独占欲じみたものや嫉妬が出てきて自己嫌悪になる。私は師匠に生かされている師匠がいないと生きていけない、私は師匠に依存している...だからこそ師匠が戻ってくるまで黙って待つつもりはない、絶対に私のもとに取り戻す!


「ではレーラー殿詰め所までご同行願います」


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 詰め所に着くとファーリスが私に頭を下げてきた、悪い気分じゃないが珍しい光景だ


「レーラー殿、すまない...今回はかばえなかった。上の連中が今更あの出来事を持ち出してきてな、あの件はレーラー殿の預かりで片が付いたはずなのだが一体なぜ...」


「私の天才さ故だな...と言いたいが少々シューラーが目立ち過ぎたな」

 あの子には酷な選択をさせてしまったと今でも後悔することがある、助けるためとはいえ身体の9割9分を魔道具に置き換えた。それが禁忌を侵犯する事だとわかっていてもあの子を...シューラーを死なせたくなかったんだ、死んだ娘によく似た自慢の愛弟子を


「あなたの弟子の事でしたね、確かにあの子の身体は国家の最重要機密と禁忌の塊ですからね。それが上にバレたのでしょうか、だとするとこれは私とレーラー殿をシューラーから引き離すためのでっち上げか⁉」


「まずいな、あの子は今日定期メンテナンスの日だから武装は解除しているんだ。急いで戻らねば...」


 ...ドォオン! ボゥ...ガゴォン...ギャオォオォ‼ ギャオォォォ!!


「今のはワイバーンか!私の店の方からだ...複数体のこ鳴き声が聞こえたな。ファーリスお前の方が足が速い先に向かってくれ、私も急いで向かう」


「わかりました」


 ・・・・・・・時は少し遡り・・・・・・・・


 今日はレーラー師匠もいないし店じまいの準備をしようと思っていると裏口の呼びベルがなった


 リーン♪ リーン♬


 ぅん?この音...師匠じゃない。うちの呼びベルは魔力波形を登録出来て音が変わる仕組みだ、私は登録されている音は全て覚えているからこの音が知らない人なのは間違いない。でも知らないからと言って出ないという選択肢はないので出るか

「はーいどちら様でしょうか...あれ?いない、いたずらか」

 扉を閉じようとすると首筋に冷たい感触が伝わった


「動くな、動いたら殺す...レーラーの至宝はどこだ。」


 レーラー師匠の至宝?私以外にいるとは思えないし、いるはずないから私で間違いないけどでもなんで私を探しているんだろう。

 そうこう考えていると後ろにいる奴が焦れた声で再度問いかけてきた


「もう一度問う、レーラーの至宝はどこにある」


「お前はレーラーの至宝がどんなものなのかわかってないんだな...」

 周りにいる人はこいつだけか、なら今の私でも無力化出来るな。

 そう考えながら後ろの奴の腕を握りつぶしながら引き倒して後ろへ回し、もう片方の腕も関節の動きを無視しながら後ろへ回す。念のため両足も潰しておくか...な!


「ぐァあアー!ぅうっ...っこの化け物め!」


「失礼だな。寧ろ喜んだらどうだ、探していた至宝が目の前にいるんだから」


「お前がレーラーの至宝なのか⁉魔道具だと聞いていたが...まさか人型の魔道具だとはな、人間にしか見えなくて気が付かなかった」


「それは嬉しいことだね、じゃあ衛兵を呼んでくるかな。」

 身体に仕込んでいる魔鉄製のロープで手足を拘束する。そして衛兵を呼びに行こうと裏口から出ようとすると、後ろからカチッっという音と微かな魔法陣の起動音がして前に吹き飛んだ。


 ...ドォオン! ボゥ...ガゴォン...ギャオォオォ! ギャオォォォ!!


 まさかあいつ自爆したのか!?

 しかもこの鳴き声はワイバーンのものだ、あの時の魔法陣の起動音とワイバーンが来たタイミング的に召喚された魔物の様だね。

 しまったな...戦闘用の身体は今はメンテナンス中なんだよ。早くレーラー師匠と合流しないと


「シューラーくん、無事だったか!」


 この好みの声はファーリスさん⁉

 師匠と一緒じゃなかったのか、師匠はどこにいるんだろ?

「ファーリスさんレーラー師匠はどこですか!」


「レーラー殿はじきに来る、私の方が速いので先に安全を確認しに来ただけだ」


「すまない二人とも待たせたね。シューラーもよく無事だったね、早速戦闘用の身体に換装しよう、メンテナンスは終わってるよ」


「わかりました、師匠お願いします」

 戦闘用の身体と一緒に地面に横になり意識を手放す...


「ファーリス今からやる事は他言無用で頼むよ...『愛おしいき、我が子よ、仮初め、器を移さん、憑依せよ、魂換装コンパージョン』...シューラー身体は大丈夫かい?」


「ぅん...大丈夫です師匠。今すぐ行けます!」


「新しい機構も付けたから試してくれ、後は頼んだぞ」


 新しい機構...これって今朝試したランタン型魔導銃かな?

 ランタンの機構が消えて代わりに周囲から魔素を取り込んで貯蓄圧縮する機構が付いてるな、ランタン用魔石を弾に使うのはそのままだから大丈夫そう。

「ワイバーンは全部で2体あの規模の召喚陣なら妥当な所か...さぁ始めよう」

 まずは1体魔核を撃ち抜いて落とす。そいつを踏み台にして空を跳ぶと同時にアイテムボックスに収納、もう1体は閃光弾で怯ませてその隙に魔核を撃ち抜く。こいつもアイテムボックスに収納して自分は自由落下で着地する...よしっいける!


 カチッ...チッツト...ガコンッバン!!

 .....ドゴォォン!! ギャオオーーー!!


「よしっもう1体!」


 カチッ...チッツト...ガコンッバン!!

 .....ドゴォォン!! ギャオオーーー!!


 ......ドスンっ!


「ふぅ...何とかなったな、レーラー師匠終わりました」


「よし!よくやったシューラー、店は全壊したが周囲の物的人的損害無し上出来だ。後の事後処理は私に任せてお前は少し休んでなさい」


「いや最後まで手伝いますよ。たまに襲撃をかけてくる奴らとは違いましたけどどうせ私が狙いですし、この後元締めをシメに行くんでしょ、私も行きます」


「あぁ、相手は軍務大臣だ。早速行くぞ」


「えっ⁉ちょっちょっと待ってください、思ってたより大物だった......ってもう行っちゃった。はぁ、仕方ない行くか」



 私たちの異常な日常はまた月日を重ねていく...次はどんな魔道具を作るのかな





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第17回空色杯 応募作品 龍野 隷香 @reika_10

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