第17回空色杯 応募作品

龍野 隷香

おもいでのおと

 カチッ...チッツト...「ただいまぁ」


 子供の頃、私が寝るときいつもこの音が聞こえていた

 狭いアパートだ...それに壁も薄い、電球の紐を引く音やそれがチカチカと点滅しながらも淡い光を放つ音が障子越しに聞こえてきた

 灯りを付けた本人は私を起こさないように小声で帰還を伝え、そろりそろりと歩みより障子をゆっくり開けて近寄ってきた

 近寄ってきた人はまるで壊れ物に触れるようにいつくしむように私の頭をなでた…母だ。


 母娘おやこ二人日々を過ごすために母はいくつもの仕事を掛け持ちし夜遅くに帰ってきて朝早くに仕事へ向かう

 そんな生活を続けていると、ある日母は倒れた。当然だ体がもつはずない、それから数日後母は息を引き取った...


 その後は高校を卒業するまで施設で過ごした。貧乏な生活に戻りたくない、過労死したくない、そんな一心で勉強を頑張り私は大手企業に勤めることが出来た


 忙しくもやりがいのある仕事を続けて数年...良き出会いもあった、その人と結ばれ家族になり子宝にも恵まれまさに順風満帆だ。


 仕事に子育て毎日朝早くに起きて夜遅くに帰宅する

 カチッ...チッツト...「ただいまぁ」


「おかえりなさい」


 もう私は大丈夫だ...

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