第40話 プロキシマ・ケンタウリ

「ゴルディロックスが第十二次ドライブワープでワープゲートを抜けた時が航星歴248年(西暦2011年)、その1月28日にヘルマン・ヴァルトが広域サーチを行いました。この時、ゴルディロックスはどこにいたのでしょうか?」とグラースがメサイアに尋ねる。


「ワープから一カ月後なら月軌道の付近にいたはずじゃ」とメサイアが答えた。


「近ッ!」と思わずわたくしは声を上げてしまう。


「その位置でサーチを行ったから、地球の赤ん坊もマーキングされ、月下もその中に含まれたのですわね!」


「何の話をしておる?」とメサイアは怪訝な表情を浮かべる。


「あとで話す……いや、お話します。ゴルディロックスはその後どうしたのでしょうか?」と、グラースはメサイアに尋ねた。


「五十日後。我々はゴルディロックスをアプローチワープさせてプロキシマ・ケンタウリへ行ったのじゃ」と、メサイアは答えた。


「プロキシマ・ケンタウリ? なぜそんなところに行ったのでしょうか?」と、私は聞いた。月下の時に聞いた名前だ。

 太陽から最も近い所にある恒星だったはず。地球との距離は約四光年。


「そこにある惑星bをアトラクトフォーミングしたのじゃ」


「何ですの? アトラクト?」


 メサイアは説明した「わかりやすく言うと、惑星にストライカーを引き付ける遊園地を作ったのじゃ。コースを設定して、養殖ラムダファージを適切に配置して冒険を楽しめるようにした物で、それでストライカーの気を紛らしてもらうのじゃよ」


「それが惑星ヘルメスの正体なのですね……」


 そういえばバイパーは惑星ヘルメスがゲームっぽいと言ってたけど、本当にあそこはゲームとして造られていたのね。


「ちょっと待ってくださいまし」と、私は尋ねる。「十一年前、ファージの襲来がありましたけれど、もしかして……これは養殖ファージの仕業だったのではありませんこと?」


「そうじゃ」メサイアは悪びれる様子もなく言う。「ゴルディロックスのラムダシールドが不調を起こす事故があったのじゃ。ヘルメスの養殖ファージにとっては、篝火が灯ったように見えたことだろう。だが、養殖ラムダファージが二光年もジャンプできるとは想定外じゃった」


「ストライカーの活躍で撃退できて、本当に良かったものですが……」と、グラースは言いつつ、ちらりと私を見る。


「まぁ、あれはもともとストライカーに倒されるべく作られた、ラスボス級じゃったがな」と、メサイア。


 だけど……前世の最後でヴァルトが連れてきたラムダファージは本物だったと思う。確証は無いけど、はっきりと分かる。


「アトラクトフォーミングは、これまでも行ったことがありましたの?」と、さらにメサイアに尋ねる。


「ドライブワープ先に、そう都合よく冒険ができる星があるわけないじゃろう?」


「それでは、銀河中に養殖ラムダファージをばらまいているということになりませんの?」


「それは断じて無い。誓ってもじゃ。最終的には搭載戦艦オリオンや特務ストライカーによって養殖ラムダファージは殲滅、回収しておる。それに、残ったファージはいずれ消滅する」とメサイアは強く言う。


「マニューバがラムダファージを作ったという陰謀論がよくありますけれど、そんなことをしていたら否定できなくなりますわ」と、私は皮肉のように言う。


「それよりも今回のアトラクトフォーミングは重要かつ急務だったのじゃ。ストライカーの目を地球に向けさせないようにする必要があったからじゃ」


「地球を秘匿なさったのですわね。タイムパラドックスを懸念されましたの?」


「それよりも、まだラムダエネルギーを得ていない古き時代を無理に覚醒させるのは情緒的に忍びなかっただけじゃ」


「でも、それはうまくいきませんでしたわね」


「何? どういう意味じゃ?」


「現在、地球にはフレデリック・エバンスの配下たちが降り立っており、陰謀めいたことを企てているのです。私達の調査で判明いたしましたわ」


「本当なのか? それは……予でさえもまだ地球に降り立っていないというのに……」とメサイアは爪をかむ。「わかった。もし本当ならフレデリック・エバンスを逮捕せねばならん。そして地球に送り込んだ者たちも、残らず捕えようぞ」


  

 ◇◆◇

  


 NPC、グラースの工房にて。


「結局のところ」と、グラースは言う。「タイムマシンは存在しなかったのだ。ランパウは単にジャンプシップで地球へ行っただけだった」


「やっと、わたくしがどのように転生したのか、わかりましたわ」


「アグライア、どのように理解しているのか、説明できるかな?」


「はい。まず西暦2011年、ゴルディロックスが地球圏にワープアウトいたしました。航星暦では248年ですわ。そして、1月28日を起点日として、ゴルディロックスと地球の新生児たちが転生先としてマーキングされたのです」


「その中に、生まれたばかりの月下、カルナ、アグライアが含まれていたというわけだな」と、グラースが補足する。


「その後、エバンスに転生Sデバイス・mk3がインプラントされました」


 そう、これが始まり。無限に転生しようとしたエバンスの企み……「エバンスは未来でラムダガンを使って自殺します。すると、mk3は時間を遡って起点日に飛び、マークされている月下にインプラントされたのですわ。そして月下が死ぬと、再びmk3は記憶と共に起点日へ戻ってカルナにインプラント。同様にカルナが死ぬと、また起点日に戻って今度はわたくし、アグライアにインプラントされたのでありますわ」


「そうだな、そんなところだな……だが……」と、グラースは言いながら、何か独り言を呟いていた。


「それにしてもVRゲームだと思っていたのが、実在する宇宙船の中の出来事だったなんて……」いまや懐かしい出来事でありますわ。


「わたくしは、地球に帰れますのですね?!」


「そうは行かないだろう。今のメサイアの様子では、地球に帰るどころか出港すら難しい。何か口実がないと……」

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