第35話 待遇

 航星暦261年。ホテル・ノーザンバウ内の展望ホール内で……


 私、ヘルマン・ヴァルトはマニューバのブリッジボトムにいる諜報員からの連絡を待っていた。あらゆるラムダシールドやバリアを無効化するアイテムの存在を知り、それを奪おうと考えているのだ。


 そのアイテムを使えば、ストライカーのラムダシールドを破り、彼らを自由に扱うことが出来るようになる。


 そして、遂にその諜報員から連絡が入った。


「よしデクスタ、ラムダキーがNPCの手に渡ったぞ。今からそいつを奪いに行くのだ」と、デクスタたち六人のストライカーに命令するが……


「そんな事よりキャッシュはちゃんと貰えるのだろうな?」と、デクスタは言った。


「不思議なものだな。お前は洗脳されていて私に絶対服従になるはずなのに、キャッシュの話ばかりする。どれだけ守銭奴だったんだ?」


 その時、教会となっているその部屋の中に。ワープゲートが開いた。


「馬鹿な!」私は驚いた。「このホテルは障壁が施されているはずだぞ! まさかマニューバの手のものか?」


 六人のストライカーたちがワープゲートを取り囲んだ。


 するとゲートの中から白い女性型アンドロイドが出てきた。


「こんにちはヴァルトさん」と、ワープしてきた人物は言った。「わたくしはマニューバの者ではありませんわ」


「では何をしにきた?」と警戒は解かずに問う。


「わたくしはアグライア・エクセルシオール。あなたをスカウトしにきたのですわ」


「スカウトだと?」


「はい。あなたのような優秀な研究者をぜひ、わたくし達エクセルシオールにお迎えしたいのです。あなたはあのフレデリック・エバンスのもとで働いていらっしゃいますわね。待遇はあまりよろしくないのではないかしら?」


「いや、エバンスの待遇はそれほど悪くはないぞ。人使いが荒いところはあるが……。だが、あのエクセルシオールからの誘いとなると、なかなか……」


「いかがでしょう?」


 しかし私は後ずさりしながら「だがお前も信用できんな」と言って指を鳴らした。


 その合図とともにデクスタたちがアグライアに詰め寄っていく。「殺すなよ。取り押さえろ」と命令する。


「正気ですか? 皆さん。あなた方のその男への忠誠心はまやかしですのよ?」と、アグライアが呼びかけたが、彼らには通用しなかった。


 彼女は仕方なさそうに人差し指を上に掲げた。


 デクスタが飛びかかろうとしたまさにその時、彼女の指先からプラズマが六人に向かって走り、全員が昏倒してしまった。


「かわいそうに。何の罪も無かったでしょうに。でも相手が悪かったですわ」とアグライアは言った。


「馬鹿な、どうなっている!? ストライカー六人が一瞬で……ラムダファージでさえこんなことはできないはずだ!」


「半分はあなたの力ですわ、ヴァルト」と、彼女は囁くように言うと、「さぁ、ご同行願えますかしら?」と続けた。


「わかった。抵抗はしない。だが、私はヒューマンだ。それなりの待遇を要求させてもらう。それに、研究から抜け出せばエバンスが黙っていないだろう。彼から身を守れるようにしてくれ」


「承知いたしましたわ。さぁ、こちらへどうぞ」とアグライアは言って、新たなワープゲートを開くと、そこへ私を押し込んだ。


 行く先の部屋は大きく傾いており、そのずれた方向にある床に叩きつけられた。


「あら、角度調整を忘れていましたようですわ」


 そうアグライアは言ってワープゲートを閉じてしまった。


 立ち上がりながら、私は考えた。角度調整を怠ったことが本当だとすると、その角度差から考えて、ここはミシュートカではないだろうか?


 シティ間には障壁があるためにワープは困難であるが、アグライアは簡単にやってのけた。ラムダキーに匹敵する何かを彼女は持っていたということになる。


 そして、この場所はどうだ? 一見研究室に見えるが、せめて設備は私の暇潰しに見合うだろうか?


 結局のところ私はここに幽閉されるのだろう。


 まぁいい。抜け出す方法はいくらでもある。

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