第34話 連鎖転生

 航星暦258年。アグライア20歳(10歳)


 ナスターシャ警察会社NPCは毎年、グラニスタ警察学校の卒業生に求人広告を出している。


 NPCは好条件を提示しているものの、公的機関ではない組織に、シティを越えて就職する者はほとんどいなかった。


 ところが、今年はわたくし、首席卒業生のアグライア・エクセルシオールが応募すると知れ渡り、小さな騒動となった。


 ナスターシャへの移住は、エクセルシオール家の庇護が受けにくくなることを意味する。いったいどのような待遇が約束されたのかと、噂が広がった。


 実際のところ、NPCに入社した私に用意された席は新米刑事という待遇だった。でも私にとって、それは些細なことでしかなかった。


 そこには養父である社長のレナード・ダグスがいたし、警備隊の皆もいた。そしてマキシマ・オズマも健在だった。思わずオズマに抱き着きたい衝動に駆られたけれど、今の私はエクセルシオール令嬢――自重しなくては……。


 だけど、予想していた通り、そこにカルナの姿はなかった。


 そして、いずれノーザンバウ事件が起きる。その事件で前世のNPCは壊滅寸前まで追い込まれた。


 今度こそ、私は自分の手で運命を切り開くべきだ。そのために、前世のアグライアが信頼を寄せていたNPC技術部長のニコル・グラース技師と話をしようと思う。


  

 ◇◆◇

  


 わたくしはNPC社屋のグラース技師の部屋を訪ねて話をすることにした。彼は元ストライカーで、マニューバとの技術取引に携わっていたが、彼らとの関係に嫌気がさして、NPCに転職してきた人物だ。


 私は隠し立てもなく、なるべく詳細にいままでの経緯を話した。


「月下からアグライアまで一通り聞かせてもらったが、これはまた、困ったものだな」と言ってグラースはぬるくなった紅茶をひとすすりした。


「これが例えば他のタイムトラベラーの相談だったら、私はそいつにタイムパラドックスを発生させないように強く進めただろうな。特に自分自身と会うのは大きな矛盾を発生させる。ところが、お前ときたらもうタイムパラドックスを散々起こした状態で私に会いに来た」


「でも、わたくしは消えたりしなかったわけですし、パラドックスも怖くないかも知れないと思うのですわ」


「そうかな? この世界のカルナが月下の生まれ変わりでなかったのは自分の責任では無いと思っているようだが……」


「現に、わたくしが関わってはいない事でしたわ」


「それは、カルナのときのお前が月下を殺さなかったからではないのかね?」


「え? どういう事ですの?」


「前世の行いが、現世に現れていると言う事だ。前世で殺されなかった月下は転生せずに前世に留まったことになる」


「前世に留まる? 死ねば今世に生まれ変わる?」


「それだけじゃない。お前が月下だった時、前々世になるか……その時のカルナが月下の名を呼んだのだろう? となると、その前々世のカルナも元々は月下で、後に死んで、前世のアグライアに転生したに違いない。そうでないなら前世のアグライアがわざわざNPCに来た理由が説明できない」


「えっ? わたくしを殺したカルナが、あのアグライアだったって事ですの? ちょっと理解が追いつかないのですけど……」


「おそらく、前世アグライアはお前と同じく、歴史改変のため、つまりNPC壊滅を回避しに来たわけだが、改変は最小に抑えようとしたのだろう。うまくはいかなかったようだが」


「……わたくしはどうしたら良いのでしょうか?」


「天寿を全うすることを勧めるね。普通に死ねば回帰転生しないのだろ? 回帰転生なんて時間の牢獄に閉じ込められるも同然だ。まったく、エバンスの発想はロクでもないな」


「死ぬ前に、地球に帰りたいのでありますわ」


「それにはもっと情報を集めないと……マニューバの協力も必要になるかもしれん」


「とりあえず、当面はこれから起こりうる危機に対応しましょう。マニューバついては後回しです。その点については、わたくしには切り札がありますし……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る