第33話 進学

 お父さまはリビングに私とお母さまを呼んで話をする。


「よく戻ってきてくれた、アグライア。お父さんは本当に心配したんだぞ」


「お父さま、次は五年後、258年までに警察官になってナスターシャ警察会社へ就職したいですわ」


「待ってくれ、アグライア。もう次の話かい? ルーシーボディを半壊させて病院から帰ってきたばかりというのに……」


 ルーシーボディはバハムート級との戦いでかなりのダメージを受けていた。主治医の言う所では量子脳にダメージがないのは奇跡的だそうだ。つまり、それだけルーシーボディが優秀だったということだけど。


 今、私はお母さまが少女の頃に使っていた朱色のキッズボディを使っている。


「ナスターシャの警察社員になりたいのです」とねだるように言う。


「五年後? その時はまだ十歳じゃないか。奇跡でも起きなければ無理だよ」と、お父さまは言う。


「その奇跡を起こしてほしいですの、お父さま」


「大丈夫ですわ、アルバート」と、お母さまが言う。「アグライアちゃんなら、飛び級でもなんでもできますもの」


「飛び級にも限度があるし、特にグラニスタ警察学校は飛び級の者など認めない」


「ナスターシャ警察ならば学歴も年齢も不問ですわ、お父さま」と言ったが……


「そう言う就職の仕方は認めない」と、お父さまはキッパリと言う。「でもなぜナスターシャなんだ? おまえの前世だった者は、もう居ないのだろう?」


「でも、あそこには大事な仲間がいるのです。それに、ナスターシャには回避すべき運命があるのです」


「運命ねぇ……」と、お父さまは諦めたような顔つきをした。「まぁ、お前がそう言うだろうと思って、いない間に考えていたよ」


 そして、お父さまは自分のMENUで私の目の前に書類を表示した。


「アグライア、お前はこれから十年分歳をとるんだ。履歴も情報も十年分そろえてある。基本IDも書き換えるぞ」


「それってお金がかかるのではありませんか? お父さま」


「エドワード義父上は『奇跡とは買うものだ』と、よくおっしゃっている。今回はそれに従おうと思っている」


「では、私は今から十五歳になるのですね」


「そうだ。エクセルシオール学園の大学部に入学しなさい。そこを首席で卒業したら、望みどおりにしてあげよう」


「はい、お父さま」


「ですけども、アルバート」と、お母さまは言う。「大学へ行くのでしたら、わたくしの古いキッズボディを使い続けるのは相応しくありませんわ。思い切って新しいアダルトボディを用意した方がよろしいのでは?」


「そう! ちゃんと用意してあるよ」と、お父さまは言って天井を指した。すると、その部分に取り付けてあるワープゲートが開き、一台のワードローブが降りてきた。


 そして「ランパウ社がアイギス社製の最新女性型アダルトボディに、ルーシー同様の先端技術を盛り込んだ究極の筐体だ!」と言って、ワードローブの扉を開いた。そこには見覚えのある白いボディが納まっていた。


「まぁ」と、私は感嘆の声を上げた。そして感慨深く言った。「久しぶりね……ティーカップ……」

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