第36話 この世界の強盗団

 航星暦263年、9月。アグライア25歳(15歳)


 わたくしは現在、クライス・ホークとともに刑事部副部長を務めている。


 テロリストと思われるストライカーたちがニュークボムを強奪してから一日が経過した。


 今日、そのニュークボムがセントラルタワー・スカイテラスに仕掛けられていることが判明した。


 その事実はすでに私の知るところであり、準備は整えていたわ。


 そして、ここはセントラルタワーから張り出したスカイテラスの最上階のテラス部。


 そこから足下のスカイテラス本体をmk3によって付加された透視能力でスキャンしてみた。


 爆弾の設置場所は丸分かりね。


 何しろラムダエネルギーが詰まったケースが一緒にあるのだから。そのエネルギーが輝いて見えます。


 このケースを開けただけではラムダエネルギーが拡散するだけで、ラムダファージは生まれない。


 だからエネルギー圧縮装置がケースに付けてるのだけど、爆弾を使ってケースごと押し潰し、圧縮する方が簡単かつ確実ね。


 ナスターシャ内は火気厳禁なのに物騒な方法ですわ。


「ニュークボムはスカイテラスの三箇所に仕掛けてありましてよ! 内、一箇所にストライカーが四人集まっていますわ」と、刑事部の刑事たちに報告し指示を出した。手筈通りスカイテラス内の市民たちの避難が始まるはず。


 さて、どうしましょう? できれば彼らファントムストライカーのボディを確保したい。ここは正攻法で行きましょう。


「第一班がストライカーを足止めしておいてくださいまし。すぐにわたくしが行きますわ!」


  

 ◇◆◇

  


 非常階段を降りて、上層階の言わば屋根裏に入り込んだ。柱が多いその現場ではすでに銃撃戦が始まっていた。


 ニュークボムを守るストライカーは4人。武器は8ミリBBライフル2丁とハンドガン2丁、対する刑事は6名で全員ハンドガン。かろうじて刑事側が相手を足止めしている状況だわ。


 ストライカーたちは突破しようと思えば容易にできるはず。だがニュークボムを守るために動こうとしない。ギリギリまで粘る作戦なのでしょう。


「後は任せてくださいまし」そう言って私はストライカーたちへ飛び込んだ。


 mk3が発生させるラムダシールドで相手の攻撃を受け止めると、そのうちの一人に渾身の蹴りを叩き込んだ。


 ラムダパニッシャーのデータを受け継いだ蹴り。ストライカーのラムダシールドを打ち消し、顔面に食い込ませた。


 他のストライカーたちも急接近した私への対応が間に合わない。3人とも、ラムダ結晶で固めた指先の貫手ぬきて鳩尾みぞおちを突き刺し、一瞬で仕留めた。


 前世の黒かったアグライアは、ここで苦戦していたのでしょうね。


 mk3の力を使いこなせず、ラムダパニッシャーの情報も融合されていなかったのかしら?


「全員殺したのですか?」と、足止めをしていた刑事が問う。


「三人殺しましたわ。人間ではありませんし、何も問題はございませんわ」


 相手は全員ヒューマノイドに見えたものの、貫手の手ごたえからして中身は無人格ロボット――やはりファントムストライカーだ。


 顔がへこんだストライカーの胸ぐらを掴み、「この事件の首謀者はどなたかしら?」と問いただした。

「へ? もちろんウィズダムだけど。それが何か?」と言うやいなや息絶えてしまった。


 その男の鳩尾を貫手で撃ち抜く。

 そして自爆する際の中心点になるであろう部分から、卵ほどの大きさのパーツを引っ張り出した。


「その三つの死体は一箇所に集めて、近づかないようにしてくださいまし。自爆しますわ。そこのケースは特に慎重に扱って。ラムダエネルギーが詰まっていて、ニュークボムよりも厄介でありますわよ」


 と部下の刑事たちに命令し、ケースも撤収させた。


 顔がへこんだ死体から取り出したパーツを、三つの死体のそばにポンと投げ入れる。


 そして、ニュークボムのタイマーの蓋を調べる。


 特にトラップらしきものは無かったため、開けてスイッチを切った。


 程なくして三体のストライカーの死体が爆縮を始め、あの卵大のパーツも同様にワープゲートへと吸い込まれていった。


 残った一つの死体はそのまま残った。思った通りね。


「これをグラース技師に」と言って、死体を部下に回収させた。


 その時、通信が入った。


『こちらホークだ。二箇所のニュークボムを回収した。ストライカーはいなかった。それからスーツケースのようなものもある』


「念のため、ケースを離しておいてから、ニュークボムを解除してくださいまし」


『いや、もう解除した。時間がなかったからな』


「そうですか……では、わたくしは中央銀行に行ってきますわ」と告げ、足早にその場を立ち去った。


  

 ◇◆◇

  


 スカイテラスは客が避難して静まり返っていた。


 テラスの縁は対物ラムダシールドで覆われているが、右手を前に出してシールドを破っていく。警察権限があるからこそできる行為ね。


 眼下にはナスターシャ北側の街並みが広がり、その中心に中央銀行がそびえている。


 銀行の正面では、NPCの装甲車両6両と指揮車が半包囲態勢を取っていた。その背後には航空パトロール艇シルフが待機している。


 予想以上に早く進んだものの、警備隊は無事なのでしょうか?


 私は左腿の内側から膜状の物を引っ張り出して右腿に装着し、同様に左右の手首から腋下までの部分から膜を取り出して腰に固定した。


 これでモモンガのような滑空スタイルの形になった。


 ナスターシャや他のシティでは、アンドロイドが単独で飛行できるパーツの使用・製造が禁止されている。


 飛行が許可されているのは一部のタイタノイドだけで、一般に使用できるのはジャンプやホバー用の限定ブースターのみ。


 だから、私のこの膜翼ひまくはあくまで滑空用だ。揚力がほぼないため、検証もパスしている。


 テラスから一気に飛び降り、手足を閉じて落下。十分なスピードを得たところで手足を広げて滑空する。


 ふくらはぎと腰に埋め込んだマイクロブースターを噴射し、その推力で揚力を増やした。膜翼との組み合わせ効果については、申請していない。


 中央銀行を包囲する警備隊はケビン・ソール隊長の下にマキシマ・オズマ副隊長もいて、万全の態勢である。それでも相手はラムダファージを手駒にするほどの厄介なファントムストライカーたち。


 だけど私が上空に差し掛かった時には戦いは終了していた。


 ブースターで急制動をかけ銀行前に降りる。


 銀行の中に入ってみると、強盗団はラムダファージを出す暇もなく全滅したようでした。


 ジェイソン、グスタフ他、強盗団六名が倒れている。


 オズマ副隊長がいる。オズマの身体はビーム痕や埃にまみれていてた。


「俺たちの勝利だ!」と叫んだのはバルボアだった。右手にはラムダキー、左手にはラムダイージスを持っている。


「俺を盾にしたくせに、調子良すぎじゃないか?」と、オズマが言う。


 突入役としてストライカーを雇っている様子は無かった。警備隊独自で対処したらしい。


 なるほど。オズマがラムダシールドなしで突撃して、後から突入したバルボアがラムダイージスのショックパルスを使ったようです。


 だとすると強盗団は気絶しただけかもしれない。ラムダイージスをファントムストライカーに使うとどうなるのでしょうか?


「バルボアさん。犯人は皆、気絶してしまっているのでしょうか?」と伺いました。


「いや、何というか、最初は意識があったようだな。身体が動かないとか叫んでいた。だが……」


「なんですの?」


「『ログアウト』と叫んだっきり、黙ってしまいやがった」


 辺りを見てみる。ウォレットパスはコンソールに刺さったままだ。そしてすぐそばにゲッコーが倒れている。


「あれも『ログアウト』と言いましたの?」


「ああ、あいつが最後だった」


 残された身体は死体扱いになり、一斉に爆縮する事になるはず。一体一体の影響力は大した事は無いけど警戒はしておいたほうがよいでしょう。


「言っておいたはずですけれども、彼らは自爆してしまいますわ、皆離れてくださいまし」と警告する。


「何を言っている。こいつらは気絶しいているだけだ、今からでも尋問してやる」とバルボアは息巻いて倒れたストライカーたちに近づこうとするが、私はそれを制した。


 そしてゲッコーの腹を貫手で撃ち抜いて、卵状のカプセルを取り出した。


 ジェイソン達は次々に爆縮を始めた、だがゲッコーは残った。……懐かしい姿ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る