優駿の美
芦毛逃亡
最後のレース
「今日までお疲れ様、よく走ってくれた、最後まで頑張ろうな」
『おう!おっちゃん!任せとき!!振り落とされんなよ!!』
俺は走ることが大好きだ、走ると色んな歓声が聞こえてくる、“よく頑張ったな!!”とか“お前のおかげだよ!!ありがとう!!”など色んな声が聞こえるんだ。時々泣いてる人もちらほらいるみたいだ。人に喜ばれる、それが一番嬉しい。だから俺は走ることが大好きだ!
「今まで大変だったな、ずっと一緒に戦ってこれたから、最後って言葉が少し寂しいな...」
『何言ってんねんおっちゃん!!俺はまだ全然走れるぜ!!また走ろうや!!』
俺は生まれた時から足が強い方ではなかった。おっちゃんたちの話を聞くと皆よりも足の向く方向が違うらしい、立つのも難しいほどだったと言う、それでも色んな人のおかげで今ではすっかり元気なんだ!!そしてこのおっちゃんと会ってからは俺は、みるみるうちに成長していった。たくさんの早いやつとも戦った、負けることもあるが、その時はこのおっちゃんが俺よりも悔しがる。走ってるのは俺なのに笑えるだろ。
「さぁ、そろそろスタートだ!優駿の美を飾ろう!!」
『おっちゃんが背中にいたら心強い!今日も一緒に1番になろうや!!』
ガチャン!!
スタートはいい調子や、おっちゃんも背中にしっかりと乗ってるみたいやな。
1回だけスタートと共におっちゃん背中からいなくなってびっくりしたこともあったな、そこからスタートはおっちゃんを確認しながら走ってる。
「よし!ここの位置で行こか!前の子をマークするよ!!」
『俺もうちょい前いけるで!おっちゃん!!』
「な、まだ前に行くのか!ったく、仕方ない!!今日も先頭で行こう!!」
『そう来なくっちゃ!!おっちゃん振り落とされんなや〜!!』
俺の走りは基本的に先頭でゴールする形が多い
これは決して周りが怖いわけじゃない、周りの奴はよく、“ビビり”などと言ってくる奴もいる。
それでも俺はおっちゃんと先頭を走る、それをモットーに走り続けてきた、もちろん今日もそのつもりだ。
「ほんとにお前は先頭が好きなんだな、後ろとすごい距離があるぞ、体力持つか?」
『おっちゃんの為に先頭に行ってるんやで、1回だけやった後方からの時は負けておっちゃん泣いてたからな、体力は安心せい!』
俺はおっちゃん以外の人とは走ったことがない、これまでのレース全てこのおっちゃんと一緒や、1回だけ俺がおっちゃんの指示が嫌になってみんなの後ろから一気に抜いてゴールしようとした時、抜ける所まで行けたが結果は2位だった、あの時のおっちゃんはすごく泣いていた、すごく申し訳ないと思った、そこからはおっちゃんのために先頭でゴールしている。おっちゃんが泣くと俺まで悲しくなるからな!!
「よしよし、半分まで来たぞ、まだ体力も大丈夫そうだな」
『そんなに心配かおっちゃん、大丈夫やで!』
ただ俺も最近は疲れやすくなってきた、昔はもっと早く、もっと他の子と距離が離せたのに、最近は難しくなってきた、もう歳なんだな。
それでも俺はおっちゃんを勝たせるために走るんや!!
「お前また速度上げたな!無理しなくてもいいぞ、お前が無事に走ればみんな喜ぶんだから!!」
『何言ってんねん!!俺はおっちゃんとまたゴールしたあとのゆっくりと芝を歩くのが好きなんや!それをするにはもっと早く走らんといけんのや!!』
ゴールするとおっちゃんは決まって走ってきたコースをもう一度ゆっくり歩く。俺はそれが大好きだ、おっちゃんはその時いつも俺の毛を撫でてくれる、ありがとうなと感謝しながら、他にも色んな話をする、2人だけの時間が大好きだ、でも1回だけゴールしたあとすぐみんなと同じ場所に戻そうとしてきた、後々わかったことだがレースに負けるとすぐにその場を去らなければいけないのだ。それは嫌だ、俺はおっちゃんと2人だけの時間を過ごしたい。だから全力で走っている!!
「やっぱりお前、体力落ちたな、そろそろ直線だけどお前に怪我をさせたくない....申し訳ないがゆっくり走るしかないか、」
『なんでやおっちゃん!!俺まだ走れるで!!頑張れるで!!レース終わりの大切な時間作ろうや!!』
おっちゃんが急に俺に力を抜くように指示した。正直俺はもう限界だった、飛ばしすぎたのが原因だろう、でも俺はやっぱりあの時間が大好きなんだ、俺の体が壊れてもいい!最後でもいい!お願いだおっちゃん!
“ヒヒーン!!”
「....わかったよ、お前はやっぱり競走馬だな!」
さぁ、最終直線、先頭はユメヲカケル!リードは5馬身以上、もうこれは誰も追いつけない、もうこれは誰も追いつけない、今戦闘でゴール!!
1着はユメヲカケルです!優駿の美を飾りました!!そして岡崎ジョッキー引退宣言最後のレース、見事にユメヲカケルと共に優駿の美を飾りました!!
『なぁおっちゃん、俺引退なんだってな、おっちゃんも引退なのか?』
「.........」
『せっかく勝ったんだから泣くなよ!!おっちゃんは笑顔が素敵なんだよ!!』
「ありがとな....」
『やめろよ、俺まで泣けてくる....』
「さぁ、これで引退式もしっかりできるな」
『あぁそうだな』
俺たちの引退式!!
「いや〜今までで1番良い引退式だね!俺も嬉しいよ、本当はお前の子供と走りたいんだが、歳には勝てなくてな、すまん!」
『いいんだおっちゃん、逆に俺の子供に乗られると俺が嫉妬するわ!!今日で引退でよかったよ』
「さぁお前ともお別れだな、涙のお別れは湿っぽくて嫌いなんだ」
『おっちゃん、さっきワンワン泣いてたけどな』
「それじゃあ」
『うん!それじゃあ』
またな!
優駿の美 芦毛逃亡 @suzuka-cap
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