バトルその2
『ナアン選手、「売り崩し」を実行! カウント開始!』
「今度こそてめえは終わりだ、フォル!」
ナアンがアリーナ中に響くような声で宣言する。
実況BIがカウントを始めた。
アリーナ中央の大型モニター上で、マーズ防衛システムの株価チャートが動き始める。ためらうように上へ下へ。まるで航空機が墜落する前触れのように。そしてそのチャートは突然、激しく下落した。
『5マイクロ秒! 結果は?』
ナアンとアリーナの観衆、そしてナアンの対戦相手であるフォルが固唾を呑んで見守る。
『マーズ防衛システムの株価が2.57ドル下落です!』
舌打ちをするフォルを、ナアンは獰猛な笑顔で見すえる。さあどうするんだ? ここからどうやって体勢を立て直す気だ?
フォルは猛烈な勢いで自分の操作パネルへと命令を打ちこんでいる。
ナアンの笑顔が消え、片眉が下がった。なにかがおかしい。あの野郎、あの顔はなんだ。まるでなにも考えてないみたいじゃないか?
『ここでフォル選手、なんと「仮想売買」を実行です! これは博打だーッ!』
「あいつ……」
『カウントを開始します!』
沸きに沸くアリーナの中で、ナアンはただひとり渋い顔をしていた。
ここで「仮装売買」だと? なにを考えてる? 勝負を捨てたようなものじゃないか。株取引BIだってバカじゃない。ここはセオリー通りなら「買い上がり」で対抗するか、「風説の流布」あたりを選びそうなものだ。俺の「売り崩し」で相場は下降トレンドに入ってるんだぞ。そこに不確定要素を持ちこんでどうする?
『5マイクロ秒! 結果は?』
しん、とアリーナが静まり返る。その結果は明らかだった。
『マーズ防衛システムの株価が1.59ドル下落です! 賭けが裏目に出てしまった!』
アリーナ中の観客の視線が、ナアンには感じられた。
『ここで取引終了です! よって勝者は……ナアン選手! 新チャンピオン誕生だあーッ!』
怒号のような歓声で、アリーナは燃え上がるようだった。ナアンは両腕を天に向けて突き上げ、勝利をアピールして見せる。
やったぞ。あのスカした野郎をついに倒してやった。夢にまで見た瞬間だ。
だがなにかが気になった。
フォルは薄く笑っていた。
そして肩をすくめると、フォルはアリーナを後にした。
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