太陽照らす箱庭

はるむらさき

太陽照らす箱庭

 真っ暗な空間、静かな空間、そこにバタバタという急ぐような足音が聞こえてくる。

「照明つけるわ、ちょっと待っててくれ」

 古い機械の電源をつける紐を引っ張るようなガシャンという音と共に、チカチカという明滅、その後すぐに二人の男を照らす。

「前回はどこまでやったか?」

 二人が囲む大きめのテーブルの上には一回り小さな箱があり、その中には小さな建物が国のように集まっていた、しかし所々建物は崩落し、一番大きな建物はほとんど原型を留めていなかった。

「お前の国が化学兵器を開発したはいいが暴走して俺の国諸共滅んだところだな」

「そうだったなぁ……まさか最後は自爆とは思わなかった、じゃあ最初からやってみるか?」

「いや、たまには続きからやってみよう、幸いどちらとも最低限の人は残っている」

「わかった、じゃあある程度発展するまでは時間を飛ばそう」

 そう言って箱の頭上を浮かぶ光の球体についている紐を引っ張る、すると倍速がかかったかのようにどんどん壊れた街が発展していく。

 そうこれは二人で遊ぶテーブルゲームだ、二つの国を発展させ、戦わせるもよし、共に発展していくもよしの体験型のゲームだ。

「そろそろじゃないか?」

 流れる時間は元に戻った、そこには立派とは言えないが大きな城が二つ出来上がっていた。

「今回はどういう設定で遊ぶ?」

「そうだなぁ……せっかくだし、少し残っている機械文明を使ってなんかしたいよな、俺の方もある程度は機械が発展していたわけだし」

 「じゃあ、メインはそっちの国で、俺の国は古代文明である前文明の機械兵器を掘り出して、それを使って侵略をするってのはどうだ?」

「おう、それで行こう、じゃあ発掘させるところからスタートってのでいいな?」

「おっけー、じゃあ前の城の残骸を遺跡ってことにしてそこに機械を置いておこう」

 そう言って、機械のジオラマの破片をいくつか遺跡の傍や土の中に埋める。

「でもそうすると、君の国が不利じゃないか?」

「そうだなぁ、じゃあお前の国の機械のプロトタイプをこっちの国のどこかに隠そうぜ、それを操作して戦う感じで」

「いいじゃん、一度政略結婚で僕の国の王族の一人がそっちに行ってるはずだし、生き残りにも王族がいたと思うし、設定としても無理はないかな」

「じゃあ、プロトタイプをくれ、どこに隠そうか」

「それも僕の国と同じように君の国の残骸に隠したら?前文明の友好の証で渡したみたいな設定でいいと思う」

「了解だ、じゃあ完全に埋めてしまおう、地下のマップも生成しよう、物語の始まりはお前の国が前文明の遺物を掘り出しそれを使って俺の国を侵略し始めるってところか」

「じゃあ戦場は君の国の遺跡で戦っている途中に前文明の王族がプロトタイプを起動して僕の国を撃退するって感じかな?」

「そうだな、あとは流れでやってみよう、どうなるだろうか」

「楽しみだな、よし、ゲームスタート!」

 垂れ下がる紐を引っ張る、ガチャンという音と共に再び倍速を始める。

「そろそろそれ壊れそうだな」

「新しい人口太陽を買わないとなぁ、でも思い出が詰まってるから新調したくないんだよねぇ……」

「最近のは新機能が沢山らしいぞ、半分出すから今度買いに行こうぜ」

「いいね、僕はあれがほしいな、星空再現出来るやつ」

「それもいいがゲーム盤付きのも捨てがたいぞ、最新ルールは天候も自由に選べるらしいしな」

「悩ましい……お、そろそろだ!」

 またガチャンという音を立てる。

 そこからは当初の設定を守りつつ、自由にやってみた、色々あった、設定通りにプロトタイプを発掘し起動したはいいがあまり強くなく、戦った結果敗走、機械国が機械文明の再構築に成功、物量の差で圧倒的有利に立つ、人口太陽の故障、斜め四十五度からの衝撃により復帰、プロトタイプが弱すぎて敗走、人口太陽の紐が抜けて大慌て、その間に機械文明発達しすぎて、人間が機械に追い出され、二つの国が結束、プロトタイプが弱すぎて改造失敗、新機体の製造にシフト、新機体により戦線を維持、その間に機械文明内乱により大打撃、それに乗じた元機械国王、国を奪還再び機械国王に、プロトタイプは出撃すらしなかった、再び対立構図に、機械国の勢い止められず、主人公国半壊、人口を半分に、プロトタイプ再び起動、奮闘。

 数時間に及ぶ観察の結果は。

「また爆発オチかぁ」

 奮闘の結果、プロトタイプが機械国の中枢まで行き、機械国王と共に自爆し、全てを滅ぼした。

「でも結構面白かったね」

「ああ、二つの国が結束したところは熱かった、またやろう」

「もちろん、でも人口太陽を買わないとな」

「この後飯に行くついでに買いに行こうぜ」

 そういって二人は席を立つ。

「じゃあ次はファンタジーでやろう!」

「いいねぇ、剣と魔法の世界だな、一緒に魔物ジオラマセットも買おうぜ!」

「よし、そうと決まれば早く行こう、店も閉まってしまう」

 そう言って垂れ下がる紐に手を伸ばす。

「気をつけろよ……って」

 言ったと共にガシャン!という音と共にゲーム盤に人口太陽が落ちた。

「あー、ゲーム盤も新しくしようと思ったんだ……」

 真っ暗になった部屋には光源はないが、彼の表情は想像に難く無かった。

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