第12話 僕がここにいる理由
あの日のことがあってから、村は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
例のよそ者たちは、村長やダグラスの睨みもあって、すぐに村を離れた。何も大事にはならず、村人たちも安心した顔をしていた。
けれど、ティオの胸の奥には、静かに燃えるものが残っていた。
(ぼくも、強くならなきゃ)
もしまた何かが起きたとき、大切なものを守れるように。
誰かに頼ってばかりじゃなく、自分の手で、居場所を守れるように。
「ティオ、おつかいお願いしてもいい?」
「うん、任せて!」
エルナの頼みで、村の雑貨屋まで買い物に出たティオは、雪解けの道を歩きながら考えていた。
(前の世界じゃ、守りたいものなんて、なかったな……)
いつも誰かの顔色をうかがって、叱られないように、目立たないように、ただ生きてた。
帰っても電気もつけず、カップ麺だけ食べて、明日の朝が来るのを待つだけだった。
でも、この世界に来て――
エルナのあたたかい手。
ダグラスの大きな背中。
ユリクの無邪気な笑顔。
家の匂い。
焼きたてのパンの甘い香り。
(そうだ。ぼく、もうここに“帰る場所”があるんだ)
そんなことを思いながら、店の前まで来ると、ふと村長のおじいさんと出くわした。
「おお、ティオ坊。元気そうじゃな」
「うん! 今、おつかい中!」
にっこり笑うと、おじいさんは嬉しそうに目を細めた。
「お前さん、この村に来てくれて、本当によかった。エルナもダグラスも、お前がいて幸せそうじゃ」
「……ぼくも、ここに来てよかった」
「そうかそうか」
ぽんぽんと頭を撫でられて、胸があたたかくなる。
「わしはな、この村で生まれてこの村で死ぬ。だがティオ、お前さんは好きに生きていい。もし、この村がいつか狭く感じるなら、外の世界も見ればいい」
「……うん。でも、帰ってきてもいい?」
「当たり前じゃ。“おかえり”は、いつでも用意しておくぞ」
その言葉が、胸にぐっとしみた。
(ああ、やっぱりここが、ぼくの居場所だ)
大げさな運命とか、奇跡とか、そういうものじゃなくていい。
ただ、ここに「帰ってきたい」と思える場所があって、「おかえり」と言ってくれる人がいる。
それだけで、きっと人は生きていけるんだ。
「……ありがとう、村長さん!」
「ふふ、礼なんていらんさ」
ティオは両手で買い物袋を抱え、もう一度、青い空を見上げた。
そこには、少しだけ春の匂いが混じっていた。
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