第10話 “家族”って、ひとりじゃ作れないんだ

 雪はやんで、空が透き通るように晴れた日。


 ティオは家の外で、久しぶりに全身を使って遊んでいた。

 冬の間に積もった雪はまだ残っていて、足元はぐずぐずしているけど、空気はきりっとしていて気持ちいい。


「ティオー! そっち投げるよー!」


 声をかけてきたのは、近所の男の子・ユリク。

 この村に来てから、初めてできた“ともだち”だった。


 雪玉を投げ合って、転がって、笑って――

 少しずつ、前の世界での「孤独」が薄れていくのを感じていた。


 エルナやダグラスと過ごす時間はあたたかくてやさしい。

 だけど、それと同じくらい、ユリクとの時間は“新しい世界で生きてる”実感をくれた。


「ティオんち、なんかすごくいい匂いするよな~。いつもパンとかスープのにおい。俺んち、こんな匂いしないもん」


「……そうなの?」


「うん。なんか、あったかい家って感じする」


 その言葉を聞いて、ティオは胸の奥がきゅっとなった。


(“あったかい家”……俺が昔、ずっと欲しかったものだ)


 ふいに、エルナの顔が思い浮かぶ。

 朝の「おはよう」、夜の「おやすみ」、そして、どんなときも返してくれる「おかえり」。


 “家族”って、何か特別な儀式があるわけじゃない。

 一緒にごはんを食べて、風邪をひいたら看病してくれて、眠る前に毛布をかけてくれる。


 そういう、なんでもないことの積み重ねが、心をあたためていく。


(俺も、もう一人じゃないんだ)


 そう思ったとき、急に胸が熱くなった。


「な、ティオ。今度、俺んちにも遊びに来いよな!」


「うん!」


 そんなやりとりを交わして別れたあと、家に戻ると、エルナが台所でパンをこねていた。


「おかえり、ティオ。いっぱい遊べた?」


「うん、楽しかった!」


 靴を脱いで駆け寄ってくる俺に、エルナは小さく笑いながら言った。


「よかった。今日はね、ティオの大好きなクリームパン、作ろうと思って」


「えっ、ほんと!?」


「ふふ、もちろん。今日は“家族記念週間”ってことで、毎日なにかひとつ、ティオの好きなもの作るって決めたの」


「そんなの……すごすぎる……」


「いいのよ。家族なんだから」


 その言葉を聞いて、なんだか胸がいっぱいになって、気づけば言葉が口をついて出ていた。


「……ねえ、エルナ」


「なあに?」


「“家族”って、ひとりじゃ作れないんだね」


「そうね、そう思う」


「だから、これからも……ずっと一緒にいようね」


 エルナは少し目を潤ませて、やさしく、ぎゅっと俺を抱きしめた。


「もちろんよ。ずっと、ずっと一緒よ」


 クリームパンの甘い香りと、胸の奥のぬくもり。

 その両方が混ざり合って、ティオは今日も、心から思った。


(この世界に来てよかった)


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