第7話 はじめての“家族写真”

 あのあと、エルナとはなんでもないように笑い合えた。

 だけど、たった一度のすれ違いがあったからこそ、絆がちょっとだけ強くなった気がした。


 冬の冷たい空気の中でも、家の中はあたたかかった。

 薪の香り、湯気の立つスープのにおい、やさしい笑い声。


 そしてある日、エルナがふと思いついたように言った。


「ティオ、家族の思い出、ちゃんと形に残したいと思わない?」


「形……?」


「そう、写真みたいなもの。この世界には“スケッチ魔法”っていうのがあってね、描いたものを一瞬で残してくれるの」


「……え、それめっちゃ便利じゃん」


 思わず前の世界の言い回しが出てしまったが、エルナはくすりと笑った。


「でしょ? せっかくだから、今日はみんなで“家族の絵”を撮りましょ。ね、ダグラス?」


「おう、いいじゃねえか。ティオの“記念日”だな」


「記念日……?」


「家族になった記念日よ。いつからって、はっきり決まってなくても、今日がその日にすればいいの」


 そう言って微笑むエルナを見て、胸の奥がじんわりあったかくなった。


(家族になった記念日――そんなの、初めてだ)



 スケッチ魔法は、エルナが友人の魔法使いに頼んでくれた。


 その人は赤いスカーフを巻いた明るいお姉さんで、魔法陣をくるくると描きながら説明してくれた。


「じゃあ、はいポーズ~。自然体でいいよ~。もっとくっついて~!」


 俺はちょっと照れくさかったけど、ダグラスの横にぴたっとくっついて、エルナの手をぎゅっと握った。


「いくよー、スケッチ・シャイン!」


 ぱあっと光が弾けて、空中に薄い光の紙がふわりと現れた。


 そこに写っていたのは――


 薪の積まれた暖炉を背に、笑ってる俺と、やさしく寄り添うエルナと、腕を組んで笑うダグラス。


「……すごい」


「ふふ、すごいでしょ。これ、乾かせばそのまま保存できるの」


「……これ、ぼくの宝物にする」


 つぶやいた俺の声に、エルナとダグラスが目を細めた。


「なあ、ティオ」


「なに?」


「次のスケッチは、もっとたくさん人が写っててもいいかもな。兄弟とか、ペットとか」


「えっ、もしかして、それって……」


「うん。いつか……ティオに弟か妹ができるかもしれないわよ?」


 ぼんやりと浮かぶ、未来の家族のかたち。


 まだ知らない誰かとの日常も、今日みたいに笑いあえたらいい。


「うん……それ、すっごく楽しみ」


 そう言って笑った俺の言葉が、この家に、またひとつ“思い出”として刻まれた。


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