第7話 はじめての“家族写真”
あのあと、エルナとはなんでもないように笑い合えた。
だけど、たった一度のすれ違いがあったからこそ、絆がちょっとだけ強くなった気がした。
冬の冷たい空気の中でも、家の中はあたたかかった。
薪の香り、湯気の立つスープのにおい、やさしい笑い声。
そしてある日、エルナがふと思いついたように言った。
「ティオ、家族の思い出、ちゃんと形に残したいと思わない?」
「形……?」
「そう、写真みたいなもの。この世界には“スケッチ魔法”っていうのがあってね、描いたものを一瞬で残してくれるの」
「……え、それめっちゃ便利じゃん」
思わず前の世界の言い回しが出てしまったが、エルナはくすりと笑った。
「でしょ? せっかくだから、今日はみんなで“家族の絵”を撮りましょ。ね、ダグラス?」
「おう、いいじゃねえか。ティオの“記念日”だな」
「記念日……?」
「家族になった記念日よ。いつからって、はっきり決まってなくても、今日がその日にすればいいの」
そう言って微笑むエルナを見て、胸の奥がじんわりあったかくなった。
(家族になった記念日――そんなの、初めてだ)
*
スケッチ魔法は、エルナが友人の魔法使いに頼んでくれた。
その人は赤いスカーフを巻いた明るいお姉さんで、魔法陣をくるくると描きながら説明してくれた。
「じゃあ、はいポーズ~。自然体でいいよ~。もっとくっついて~!」
俺はちょっと照れくさかったけど、ダグラスの横にぴたっとくっついて、エルナの手をぎゅっと握った。
「いくよー、スケッチ・シャイン!」
ぱあっと光が弾けて、空中に薄い光の紙がふわりと現れた。
そこに写っていたのは――
薪の積まれた暖炉を背に、笑ってる俺と、やさしく寄り添うエルナと、腕を組んで笑うダグラス。
「……すごい」
「ふふ、すごいでしょ。これ、乾かせばそのまま保存できるの」
「……これ、ぼくの宝物にする」
つぶやいた俺の声に、エルナとダグラスが目を細めた。
「なあ、ティオ」
「なに?」
「次のスケッチは、もっとたくさん人が写っててもいいかもな。兄弟とか、ペットとか」
「えっ、もしかして、それって……」
「うん。いつか……ティオに弟か妹ができるかもしれないわよ?」
ぼんやりと浮かぶ、未来の家族のかたち。
まだ知らない誰かとの日常も、今日みたいに笑いあえたらいい。
「うん……それ、すっごく楽しみ」
そう言って笑った俺の言葉が、この家に、またひとつ“思い出”として刻まれた。
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