最高の元カレ
@kiyoshima
最高の元カレ
サークルの飲み会の帰り。気になっている女の子を俺が送っていくことになった。
23時に閑静な住宅街で二人きり。9月の夜の風はもう、少し肌寒かった。
その日は月がすごくきれいで、告白をするなら今だと思ったんだ。
「恋愛経験ない人はごめん」
・
「って言われたんだよ?ひどくない?」
勇気を振り絞った本気の告白を呆気なく振られた翌日、俺は高校からの友人である
「でも想くん、あの人のことそんなに好きじゃなかったじゃん」
「いや、好きだよ。優しいし、思いやりあってさ」
さっきスーパーで買い込んだお酒とおつまみを開封する。
俺は今まで誰とも付き合ったことがないし、告白してもらえたこともない。正真正銘、恋愛経験がないのだ。
「もう20
「恋愛経験なんて関係ないだろ、気にすんな」
もてる柊人は呑気に笑うけど、俺にとっては笑い事じゃない。
ゆるく巻かれた色素の薄い髪、優しそうなタレ目。男っぽい骨ばった手。柊人は俺と同い年なのにえらく大人びていて、いつも余裕そうに笑っている。
こいつみたいにかっこよくて、優しくて強かったなら、恋愛経験なんか無くたってすぐに彼女ができるだろう。
「元カノってどうやったらできるんだ?」
「知らん。俺も恋愛経験ないっていったじゃん」
「作れるけど作らないのと、普通に作れないのとは全然違うんだよ」
柊人は高校でも大学でもしょっちゅう告白されるのに、一度も彼女がいたことがない。もったいないから付き合えと言っても「好きじゃないのに付き合うのは失礼だろ」と律儀に返されるだけだった。
俺の恋愛の話を聞きたがらない柊人が嬉しかったけど、同時にむかついて彼をぐっと睨んだ。
「じゃあ俺が想くんの元カレになってあげる」
手際よく枝豆を剥きながら言われて、睨んでいたことも忘れて目を丸くする。
「え?」
「俺と付き合ってたことにしたら、恋愛経験できるだろ」
柊人はいつもの余裕そうな顔で、俺を試すみたいに小さく笑った。
こいつがこの顔をするときは、決まって不安がってるときだっていつからか気付いていた。
「付き合ってたってことは、デートとかしたんかな」
じっと下を向いていた彼の耳が一瞬揺れる。
「家で映画とか、泊まりで旅行行ったりとか。お互いの誕生日祝ったりとか、記念日のデートとか。花火大会とか、イルミネーションも行ったんかな」
「すごい具体的だね」
柊人は枝豆を剥くのをやめて、やっと想と目をあわせた。
「俺今言ったこと、これから全部やりたいと思ってるんだけど」
「それ、どういう意味」
・
斯くして《か》二人は恋人同士になったいう。
最高の元カレ @kiyoshima
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