第24話 澪からのメッセージ

朝――。


カーテンの隙間から差し込むやわらかな光が、部屋の空気をゆっくり染めていく。

僕は、デスクに突っ伏したまま目を覚ました。

コーヒーは冷め、液面に薄い膜が浮かんでいた。


(結人:……寝落ち、か)


左手には、途中で止まったコードエディタ。

右手には、スマホが握られていた。


ふと、通知が一件。

“澪”からのメッセージだった。



澪(メッセージ):

「朝ごはん、ちゃんと食べてる?心音ちゃんが今朝ちょっと眠そうだったよ。

無理してるなら、せめて週末は少し休んで。……お願い。」



画面を見つめながら、思わず小さく笑ってしまう。

彼女は、いつも僕のことを見てる。言葉にしなくても、分かってる。


(結人:澪は、本当に優しいな)


思えば、子どものころから変わらなかった。

大勢の中で目立たず、でも誰よりも人の心を見ている。

僕が落ち込んでいる時も、何も言わず隣にいてくれた。


澪にだけは、ちゃんと伝えなければいけない。

──でも、まだ言えない。

病気のことも、AIのことも。


彼女が悲しむ顔を、見たくなかった。


メッセージを打ちかけて、指が止まる。


(結人:「大丈夫」って、何回使ったっけ)


スマホの画面を伏せ、深く息を吐いた。


部屋の外から、心音の笑い声が聞こえた。

キッチンで母さんと何か話しているらしい。

いつもの朝。だけど、それが何より大切だと、今は思う。


(結人:この日常を守るために、僕は今日も“作る”)


再び、ディスプレイに向き合う。

思考は澄んでいた。

静かに進んでいく、完成へのカウントダウン。

まだ間に合う。まだ、手は動く。


その瞬間、パソコンが軽く唸った。

AIの統合ログに、ひとつの通知が浮かぶ。


統合ツール No.5:自己最適化プロセス 起動完了

次フェーズへの移行が可能です。続行しますか?


画面の端で、仄かに青い光が瞬いた。


僕は、マウスに手をかけながら、こう呟いた。


「行こうか、次のステージへ」

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