EP.01「俺の自転車ががひゅーっと光り」 その2
02
彼女は胸に手を当てる。
俺の顔をじっと見つめる。
「我が愛が、生けとし生けるものを生み出したよう、人の想いは、神の存在を顕現させます。あなたが強くわたしを求めれば、こちら側の世界でも、わたしはある程度力を取り戻せるはず──」
つまりは……〝信仰心〟……なのだろう……
異世界の女神様は、俺が強く求めることで、この世界に顕現できる。
そうすれば、元の力を取り戻すことができる。
いつかきっと元の世界へ帰れる。
そういうことだ。
「どうか。アマクニ。わたしを求めてください……」
求めるったって。
「わたしの存在を。わたしの愛を──」
彼女の顔が近づく。
前屈みの姿勢だ。
すると、どうだろう。
その肌を露出させたドレスだ、肩の輪郭があり、大胆にみせびらかす鎖骨が見える。豊かな胸による谷間に目がいく。こうして見ると、本当に、布一枚の格好だ……
……女神は、隙だらけの、服装……
風呂上がりに、フェイスタオルで前だけを隠したようなその衣服、横から見れば素肌の形状がすべて
彼女の一挙一動で、その布には隙間が生まれ、いままで隠れていた肌すら覗く。
そこから目を逸らせない。
俺は、ごくり、息を呑んでしまう。
「ふふっ」彼女が微笑んだ。
「──っ!」俺は我に返った。
しまった。いま完全に彼女の体に釘付けだった。
数秒、いや数十秒、体を凝視していた。
その間に俺の全身の血は熱くたぎって、湯でも沸かせそうなほど高ぶっている。本心があまりにも露骨に表現され、情欲というものを剥き出しにしている。
ああ、なんということをしてしまったのだっ!
俺は申し訳なさで目をそらす。
だが、彼女はその手で俺の頬に触れた。
いや、本当に触ったわけではない。羽毛のように軽い、吹けば消えてしまいそうなほど切ない存在感で、手を近づけただけだ。
「それで良いのですよ、アマクニ」
「えっ……」
「いま、あなたの想いを感じました。そのままわたしを求め続けて下さい。強く、もっと強く……そう、例えば、わたしの体を抱きしめたいと、切に願ってください……」
抱き……しめる……?
その豊満な肉体。
柔らかな胸、尻。
撫でれば二度と手をはさせなくなってしまいそうな肌。
はっきりと見える鼠径部の輪郭。
それを抱きしめるなど、想像するだけで、破裂してしまいそうだ。
心臓が激しく高鳴る──
「そうです。もっと想像してください。わたしを意識してください──」
もし彼女に触れたのなら。
胸を寄せ合い、抱き寄せたら、どうなるのか。
きっと、俺の手は、彼女のスリットへ向かうだろう。
理性をかなぐり捨てて、その中の丸みを感じようとするだろう。柔らかな尻が待っているから。
顔が熱い──
またも、ごくり、息を呑んでしまう。
「恥ずかしがらなくてもよいのです。この体、男であれば一度は触れたいと願うものでしょう? ほうら……」
彼女が片足を軽く上げると、ドレスのスリットが
艶めかしい太ももから、指先まで、彼女は俺に見せつける。
それを抱きしめ、舐めることができたら、どれほどの悦楽だろうか。想像しただけで深いため息が出る。
彼女がさらに腰布を開けさせる。
正面から、お尻までの輪郭が見えた。
あと少しで、その奥まで見えてしまいそうで……
いま気づいたが、女神様は下着を身につけていない。
そんなもの必要ないのだろう。
だから、俺は、そのスリットの隙間から目が離せなくなった。
ああ、もう我慢できそうにない。
精神の奥底から込み上げてくる劣情を、すべて彼女に吐き出してしまいたい。
一心不乱に彼女を愛し、どろどろに蕩けてしまいたい。
「アマクニ……わたしの目を見てください……」
俺は顔を上げる──
美しい御尊顔だ。
目と目があうと、彼女は、軽いまばたきで、俺のことを見ていると合図する。
綺麗で、かわいらしく、芸術的で、あまりに愛おしい……俺の内底から溢れる熱情が、結界寸前まで膨れ上がる。もう破裂寸前だ。
「アマクニ、わたしのことが好きですか?」
はい。
はい。はい。はいっ! 女神様、愛していますっ!
当然だっ! これに恋をしなければ人間として不能だっ!
「ありがとう、アマクニ……あなたの心を感じます……もう少しです。さぁ、目を閉じて、わたしのことだけを心に思い浮かべてください……」
俺は彼女の言うとおり目を閉じて、その姿を脳裏に描く。
甘い香りのしそうな艶やかな髪。
食べてしまいたいほど綺麗な肌。
目を離せなくなるほど美しい顔。
完璧な体。胸、腹、尻。そして、太もも、足の先まで。
彼女を想う。心から強く想う。
「ああ、来ますっ……アマクニ、そのまま目を閉じていなさいっ……顕現の証として、女神が寵愛のキスを与えましょう。褒美と祝福を込めて、まずあなたの唇に触れましょう……」
キ、キスぅっ!?
いきなり唇にキスだってっ!?
そんなことをされたら……お、俺はその瞬間に絶頂を迎えてしまうと思う。
脳がアホになって、女神の前でも、あられもなく体液を噴出させてしまうと思う。
それはまずいんじゃっ──
「遠慮せず受け取ってください。想像して……わたしと何がしたいですか。この体のどこに触れたいですか。どのような形で愛し合いたいですか。それをすべて現実にしてさし上げます……わたしのことを想い、わたしの体を想像してください……さぁ、さぁ……」
俺は想像した。
女神様が、俺の前に顕現し、愛し愛されるその光景を……俺と彼女が一心不乱に愛し合う世界を……すると、気配がはっきりとしてきた。
俺の顔の前に、何かが近づいた。
はっきりと体温を感じる。
温かみが俺の頬を撫でる。髪をかき上げて、首筋と顎をくすぐる。これはっ──
……えっ、足?
「ふふ、馬鹿ですねぇ、アマクニっ!」
途端、俺の顔面に、彼女の足裏が密着した。
柔らかな土踏まずのアーチが、俺の体を押し倒す。
「ぐぇっ!?」
俺は仰向けに寝転がされた。
なにっ──と唖然としていると、その口に足の指をねじ込まれる。
「もがぁっ──」
「あっはっはっ! ほらっ! ほうらっ! ご褒美のキスですよぉ! あなたが見とれていたわたしの足とのキスでぇえええすっ! 存分に味わいなさいっ! ほら、ほらぁああっ! あはははははっ!」
な、なんだこれはっ!
ものすごい屈辱的だが、不思議な重力に囚われて起き上がることができないぞっ!
これが女神の力かっ!? 息苦しいはずなのに、俺はその足先を吐き出すことができない。むしろ、夢中になって、その足の感触を口内で確かめている。
ふぉおおおおおっ!?
なんだこの気分はぁあああっ!?
「ああ、なんとも清々しい気分ですっ! まだまだ本来の力には届きませんが、あなたのお陰でどうにか実体化することができました。さぁ、その汚らしい思慕(しぼ)をもっとわたしに向けなさいっ! わたしのことで頭をいっぱいにしなさいっ! 汚らわしいヒトの子よっ!」
ひどいことを言われているが、俺の体は情けないほど正直だった。
だって、彼女は俺を見下しているのだ。
布一枚という薄いドレス姿で──
つまりは、際どいスリットから鼠径部があらわになっていて、胸も尻も腹もここからは覗き放題で……それを凝視していると、俺がしゃぶっている足の感触がよりリアルになって、味わい深くなった。
あ、味がするっ……これが女性の生足の味っ……
こうして咥えていると、何かヤバい薬を飲まされたように体が熱くなるっ……
やばい、やばい。やばい。
絶対にやばいってっ! 俺の脳みそが
それはわかっているっ!
なのに逃げられないぃいいいっ!
「ああ、その薄汚い姿を見ていると、わたしを裏切った勇士どもを思い出しますねぇっ! あの下郎で卑小で浅ましい下界の者どもっ! せっかく魔王を討ち滅ぼすために我が寵愛と加護を与えたというのにっ……魔物と手を組んでわたしに反逆などと……あぁああっ! なんと忌々しいのでしょうっ!」
ど、どういうことだ?
彼女の足を頬張りながら耳を傾ける。彼女はねちねちと悪態をつく。
「すべての生命は聖なる創造主たるわたしが生み出したのですよっ!? ただ、善性のものだけじゃちょっと世界が平和すぎて面白くなかったから、魔性のものを少数創って、刺激を与えただけじゃないですかっ……なのにっ! それがあんなにも大地に根づいてっ! 繁殖まではじめてっ! カビか寄生虫ですよっ! あの者たちはっ!」
なんだ……
なにを言ってるんだ……
「わかりませんか? お馬鹿さんなのですか? ヒトも魔物もぜんぶわたしが生み出したのですよ。女神なんですから。それがっ、そのはずがっ! 魔物が思ったより増えちゃったんですよぉおおっ!」
「…………」
「ちょっとヒトの子らに天敵を用意するつもりが、まさかまさかの絶滅の危機っ……自然の一部にまで根づいた魔物は、我が手で完全消滅させようものなら、サイクルが壊れ、星ごと道連れになってしまうような状態になったのですっ……せっかく文明が育ったのに勿体ないっ……そこで、わたしはヒトの子らに力を与えることにしました。一部の才覚のある者に天使を遣わし、聖なる加護を与えました。そう、勇士と呼ばれる伝説の存在を作ったのですっ! あれは名案でしたっ! 彼らは見事、苦難と犠牲の上に平和を勝ち取ってみせたのですっ! グッドでした……感動のドラマでしたっ! どの世界も面白くなってきましたっ!」
ぐっ、と女神様は握り拳を作る。
いや……それより気になるぞ、今のセリフ。
「……ふぉもふぇはいふぉ(どの世界も)? ふぁっへふふふぁふぃ(それって、つまり)……」
「はい。もちろん、幾重にも生み出した宇宙のすべてが平和で退屈だったんですから、すべての宇宙に魔王を配置しましたよ。それはもうっ! 個性豊かな魔王を作ってやったものですよぉっ! 中にはやりすぎて滅びちゃった世界もありますがっ、それは宇宙ごと抹消したので問題ありませんっ! 無事、討ち滅ぼされたはずの魔王の力も、時代を超えれば復活しますっ! そうっ──」
興奮とともに、女神様が足先に力を込める。
ぎゅむううううっ──と、俺の口内で、足指が舌をかき回す。唾液があふれてきて、上のお口がびしょびしょだ。
「ついに出来たのですっ! 大地に魔素が浸透し、勇士が倒せど倒せど、時を超えて別の魔王が生まれる波乱の世界っ! するとどうですかっ! 平和な時期は豊富な資源で発展し、魔物が
「ふぉ、ふぉうふぁふぉ(そ、そんなの)……」
「まぁ、勇士が減っては一大事ですのでね。わたし直々に繁殖させることくらいはしましたよ。国という国、街という街に着くたびに、ちょっと洗脳をかけて種馬になっていただきましたっけ。ああ、ちょうど今のあなたみたいな状態ですね。昼は獣を狩る勇士も、夜は興奮のやまない獣のほうでした。ふははっ! いやぁ、若いオスメスなんて、元気のあり余ったエロばっかですからねぇ。そうでしょう? この変態っ!」
うぐぅ──
足をしゃぶっている俺は言い返せない。
てか、すっげぇこの足。めっちゃおいしい。
ずっと夢中で吸ってしまう。完全栄養食かよ……
「尽きることのない魔物と、尽きることのない勇士による永遠の戦い。ヒトと魔物は互いを恐れ、憎しみ合い、殺し合うっ……最高でしたっ! まぁ、ときには愛に目覚めて共存しようとしていましたが、そんなのはわたしが許しませんので。仲良く裁きの雷鎚で昇天させてあげましたよ。なのに……するとどうでしょうっ! それを知った勇士と魔物が手を組み、このわたしを討ち滅ぼそうと結託したのですよっ!? 信じられますっ!?」
…………
……んっ?
「だから、そんな不敬者どもを片っ端から裁いてやりましたっ! 永久の降雷、永久の凍土、永久の渇水っ! わたしに刃を向けるとどうなるのか、見せしめにいくつかの国を滅ぼしてやりましたよっ……そ、そしたら、全宇宙の勇士と魔物が手を組み、わたしに宣戦布告してきたのですっ! どうなってるんですかっ!? かわいい天使たちまでがわたしを裏切りましたよっ!? わたしと世界の全面戦争ですっ……味方が全然いないので、あっという間に天界が侵略されましたっ! 意味がわかりませんっ!」
いや……
いやいやいや……
「アマクニっ! おかしいですよねっ!? すべての民はわたしを信仰していたのに、それがなくなったから、わたしの力も弱ってしまって……あんな無様な敗北をっ……このわたしがっ! い、いったいなぜこんなことに──」
自業自得だろうがぁああ──ッ!
平和な世界だったのに……わざわざ魔物と勇士創って、争わせたんだろぉっ!?
そんなん本人らに恨まれるに決まってるでしょうがぁッ!
「お黙りなさいっ! だからっ! 収拾つかなくなったからっ! このわたしが責任を持って抹殺してあげると言ったのですよっ! それを口にしたら邪神だのドブ川だの罵ってきて、あの者たちは失敗作ですっ! 帰ったら必ずや絶滅させてやりますからねっ!」
ま、まさか……
それじゃあ、自分の世界に帰りたいというのは……
「あんな、わたしの思いどおりならない塵芥どもなど、すべて消滅させてあげますよぉっ! リセットです、リセットっ! いちから創り直しですっ! よくもわたしの美しい天界を戦火にまきこんでくれてぇえええっ! やつらの魂は永遠に暖炉の燃料にでもして、苦しみの中で焼き続けてしまいましょうっ! ふふっ、想像するだけで笑いが込み上げて来ましたっ……暖炉の火から、裏切り者たちの悲鳴って……ふひっ……ふふひひひひひっ! ふあっはっはっはっ! ぎぃっひゃっひゃっひゃっ!」
こ、こいつ──
なんてやつだっ……
何が慈愛の女神様だよ。とてつもないドブカス女じゃねーか。
超ド級の性格最悪ゴミ悪女だ。
鬼だ。犬畜生以下だ。
──ゲス女神だっ!
こんなやつ、この世界に顕界させてたまるかッ!
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