第六話「残滓の廃墟」

 光の奔流が収まり、焼け焦げた空気のにおいが立ち込める中、湊はゆっくりと目を開ける。


薄曇りの空の下、彼女が立っていたのは、どこか懐かしいようで、まるで別者に変わった場所だった。

「ここ……学校、なの?」

目の前に広がる光景は異様だった。校舎らしき建物は所々崩れており、時間を感じさせる。かつて子供たちの笑い声が響いていたであろう中庭は、無骨な金網と鉄板で囲われ、そこには整然と並ぶサツマイモの苗が風に揺れていた。さらに周囲を見回すと、花壇は畑として改造され、かつての飼育小屋は立派な家畜小屋となっており、中では数羽の鶏がコッコと声を上げていた。兎が小さな体でホップしながら藁のベッドに潜り込むのが見えた。


隣のユウトは落ち着いた様子で帽子を整えながら湊の言葉に答える。

「あぁ、ここは元・芦原第二高校だ。東京でも田舎の方にある平凡な学校だったそうだ。通ったことがないからわからないがな」

そう言って、ユウトは背後の旧職員玄関のドアを押し開けた。

「さぁ、行こう。」

校舎内に足を踏み入れると、かつて掲げられていたであろう学校のスローガンが風化した壁にうっすらと残っていた。


『夢を持ち、未来を創ろう』


その言葉の上には、爆風で剥がれた天井の破片がぶら下がり、今にも落ちてきそうな影を落としている。


湊は思わず小さく息を呑んだ。

「……ユウト君以外に誰かいないの」

ユウトは無言で階段を上り、2階の渡り廊下を進む。窓は全て鉄板で塞がれ、光は最小限。だが、代わりに天井からは電気が通ったLEDランプが点滅しながら揺れていた。

「ここには以前、仲間がいた。彼らと一緒に手を入れて、外からの侵入を防げるようにした。発電機も、水のろ過装置もある」

彼の言う仲間という言葉に、湊は少しだけ眉を動かす。まだユウトから語られていない過去。その断片が、ふとした言葉に混ざって滲み出てくる。


渡り廊下の突き当たり、旧・視聴覚室を改造した一室のドアをユウトが開けた。

「あいつの収集癖がなければここまで集まらなかっただろうな」

中には乱雑に配置されたパソコンや端末、整備された医療器具や工具、そして壁一面に貼られた地図と写真。数本の線が赤い糸で結ばれており、その全てが「ある一点」に集中していた。


湊は思わず歩み寄って、その地図を見上げる。

「これは……?」

「存在の中心座標だ。時空において、世界線がもっとも密集する交差点……メテオ・パラサイトが落ちた地点と一致する」


ユウトの声には、どこか感情が抜け落ちていた。湊は彼の横顔を見つめる。鋭く、だが疲れ切った目をしていた。

「……ずっと、ここでやってたの?」

「俺は……ここに何度も戻ってきた。何百通りもの分岐を見て、いくつもの過去を踏みにじって、それでも……誰も救えなかった」


ふっと視線を落とし、丸メガネを外したユウトは、机の上にそれを置いた。レンズに触れる指が微かに震えていた。

「だから、今度こそ終わらせる。この終点から、始め直すために仲間を生き帰らせ幸せにするために……」

そう言ってユウトは過去を語り始めた。

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