第45話 必!!殺!!洗!!浄!!
蚊柱めいた塵デブルスの層が見えた。
それは少しずつ分厚くなってゆく。
対清掃力反射生体膜・通称バイオシールドを覆い守るかのように。
黒と金、白と銀の作業装甲……
鐵也と響司が電磁モップを手に立ちはだかる。
「デブ公なりに自分のバイオシールドの重要性は分かってる訳か」
「デブルスに感情や知性はない。生存本能の賜物だろうね……
ところで金城くん」
「なんスか」
「S級A級清掃員の我々を前座に使うとは、贅沢な演目だと思わないかね」
「確かに。滅多にねェ機会に立ち合えて、このデブ公はラッキーですよ」
二人の周囲に金と銀の粒子がきらめきながら舞う。
可視化された清掃力だ。
「用意いいスか」
「いつでもどうぞ」
鐵也・響司がそれぞれの動作コードに入る。
カワイイAI・シバタローとガルーダのカメラアイが申請色に発光する。
『 動作コード承認 』
黄金・白銀の清掃力を纏った二人の特務清掃員は一気に距離を詰め
塵デブルスの蚊柱を電磁モップで剝ぎ取ってゆく!
一枚、また一枚と削り取られる鎧を漫然と見過ごす向ヶ丘2型ではなかった。
作業を続ける鐵也と響司を忌々しいデブルス触手が襲う!
「爆破洗浄ぉ!!」
紅蓮の炎が触手を焼き払う。アキラは赤く燃える電磁モップを振りかざした。
無数の触手が赤く燃え、あっという間に白い粒子と化してゆく。
その手際には無駄がない。
「邪魔しちゃダメー!!」
見事なサポートだ。清掃兵器という物騒な生い立ちながら、
アキラの特務清掃員としての実力は本物だった。
「ははっ!こりゃアいい!」
「作業しやすくて助かるね!」
金と銀の電磁モップを一閃!!
蚊柱状のデブルスは見事、雲散霧消した!!
これでバイオシールドが剥き出しになるかと踏むのは素人。
そうは問屋が卸さないことは彼ら特務清掃員にはお見通しだった。
ジュボボボボボボボボボボボボ!!!!
汚らしい音と共にデブルス核の下部から湧き出したのは
ヘドロ状のデブルスだ。
臭気からしてカビや工業・家庭排水にデブルスが浸蝕したものだろう。
多摩川が近いゆえだ。
鐵也と響司は後方に向けて華麗に跳躍し、ヘドロデブルスから逃れた。
「六十倍希釈!!タイダルブラスタああああああああ!!!!」
蒼き激流がヘドロの濁流を迎え撃つ!!
水属性の特務清掃員が得意とする固有清掃技だ。
『タイダル』とはすなわち『潮流』。
高濃度の塩分を含んだ水流はコンクリートの性質に近い
ヘドロデブルスにとって最大の弱点と言っていい。
動植物の根が届かぬ地底なら、心置きなく使えるという訳だ。
浄の構える電磁モップの穂先は四角い光の連なりに変じる。
それは神道祭具に酷似していた。
ヘドロとタイダルブラスターは一進一退の攻防を繰り返し、その間に襲い来る
デブルス触手と、新たにしぶとく発生しようとする蚊柱デブルス。
鐵也・響司・アキラはそれらを次から次へと清掃して行く。
最初は互角だった清流と濁流は、じりじりと濁流が押される形となった。
そのタイミングを見計らった浄が新たな動作コードに入る。
(うわ~きっつい……
ここまで来るだけで結構清掃力使っちゃったしなぁ……)
正直、浄も鐵也も響司もアキラにも…誰にも余裕などなかった。
ダンジョンに潜って約八時間。
僅かな休憩時間で絶えず清掃作業を続けているのだ。
気力も体力も確実に限界に近づいている。
(でもま、なんとかしてやるさ!!)
蒼い光を振りまき電磁モップが宙に神秘的な弧を描く。
そして再び向ヶ丘2型に向かって穂先を突きつける。
ドォォッ!!!!
タイダルブラスターの水流がさらに激しくなる。
浄の足元で地面が削れた。
腕・脚・背骨…全身が内側から削り取られてゆくようだ。
身体が壊れて済むならそれでいい。
だが精神が削り消えるまであと何分持つだろうか。
浄は歯を食いしばった。
(『元』とはいえ、俺はこの件の責任者なんだ。
一番体を張らなくてどうする!)
ふと全身にかかる負荷が軽くなる。
「…?」
見ると蒼い水流と同化するようにして
金・銀・紅の清掃力の奔流がヘドロデブルスの濁流を押し返していた!
「元責任者ァ!ちゃんと指示出せ!!」
「S級清掃員に棒立ちしていろとでも?」
「うぐぐ……頑張る!!」
鐵也・響司・アキラが持てる清掃力を振り絞り、浄に加勢する!
「ありがとみんな!
持つべきものは頼りになる同業者……ってねぇ!!」
浄の言葉に3人は満更でもない笑みを浮かべた。
頭部装甲に護られたそれを誰が目にすることもなかったが。
ヘドロデブルスの濁流はついに力を失い、
四つの清掃力の激流は向ヶ丘2型に到達した!
しかし表面には清掃力を阻むバイオシールドが!
どうする?!
「行けッ!!ショーちん!!」
「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」
四色の清掃力の橋を力走する人影があった。
翔吉だ!!
小脇に二つのタッパーを抱えた白い特攻服めいた作業装甲。
その背中には『清掃上等』の四文字が漲る清掃力を示していた!!
蹴った足元が水飛沫を上げる!!
翔吉は向ヶ丘2型に躍りかかった!!
「糖度十三度の多摩川梨を喰らえ!!デブ公ォォォォォォ!!!!」
跳躍した翔吉は向ヶ丘2型の頭頂部にニードロップめいた着地を決め、
手にしていた四つのタッパーウェアの中身をぶちまけた!!
一瞬の静寂。
しかしその一秒後、向ヶ丘2型を覆っていた粘液の膜は
不気味な真緑色に変色し、ドロドロと溶解し始めた!
赤紫の地肌を晒し向ヶ丘2型が断末魔に似た地響きを上げる!
翔吉は風の清掃力をもって素早く飛びすさり、宙に白銀の弧を描く。
デブルス核からの離脱に見事成功した!
「鐵ちゃん!」
「おう!」
「響司さん!」
「任せたまえ!」
「アキラくん!」
「頑張る!」
「広範囲洗浄!!用意ッ!!」
浄の呼びかけに応える四人の特務清掃員は、清掃力のビーム砲を解除し
すでに広範囲洗浄の動作・音声コードを終えている。
翔吉は岩陰で清掃バリアを張って身を守っている。
宙に光る巨大な陣形の中央に光るカウントは2から1に、そして…
「発射!!」
ゼロと同時に円陣から大砲めいて射出される膨大な清掃力!!
それはバイオシールドを失った向ヶ丘2型に、真っ直ぐ叩き込まれた!!
ド…グオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!
デブルス核が、その身を鎧う粉塵デブルスの層が、見る間に白く浄化されてゆく。
清掃力無効のバイオシールドを失った向ヶ丘2型が無傷なはずがない。
黒と赤紫の球根めいた本体に、真っ赤な血潮を思わせるヒビが幾筋も走る!!
「す、すげえ…!!」
「ショーちん頭下げて!あぶないよ!!」
翔吉が隠れる岩陰にアキラも駆け込み、同じように清掃バリアを張って身を守る。
一帯の空間全体に強アルカリ性洗剤を塗布した時のような
清浄で張り詰めた空気で満ちる!
極限まで練り上げられた清掃力だ!
「必!!殺!!洗!!浄!!」
猛々しい言霊とともに、三つの清掃力が新星もかすむ激しさで爆発する!!
「二十倍希釈ッ!!ハイドロデストロイヤあああああああ!!!!」
「極ッ大粒子ィ!!ダイヤモンドクレンザあああああああ!!!!」
「アルカリ超・電・解!!ライトニンググリッタああああああああ!!!!」
上空からではなく、作業装甲による助走で超加速した横殴りバージョンだ。
怒濤を思わせる蒼き清掃力の激流、
金剛石の輝きと硬度を持つ清掃力の弾丸、
白銀の雷鳴を纏った清掃力の嵐は目もくらむ純白の猛吹雪だ。
浄・鐵也・響司、三人の特務清掃員の放つ渾身の必殺洗浄が今、
剥き出しとなった向ヶ丘2型に突き刺さった!!
ギュバアアアアアアアアアアアアアァンッ!!!!
全身に赤いひび割れを走らせ、百メートルはあろうかという球根めいた
巨体デブルス核・向ヶ丘2型が崩壊の兆しを見せる!
浄・鐵也・響司の三人は素早く跳躍し、デブルス核から離れた。
「よっし!効いたな!!」
「逃げるぞアキラくん!オーバードライブが来る!!」
「オーバードライブ?」
「デブ公が消滅する前に起こす爆発ス!!」
「急ぐぞ!巻き込まれたらタダでは済まない!」
崩壊してゆくデブルス核・向ヶ丘2型の怨嗟の声に似た轟音。
今や崩れ去ろうとしている『城』に五人は背を向け走った。
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