作業工程7 向ヶ丘2型駆除作業(向ヶ丘2型)

第44話 これって…梨?


 状況に気づいた浄と鐵也が急ぎ駆けつけようとするが、

時すでに遅く。

翔吉の全身を無数の触手が串刺しにした!!

……かのように見えた。


「ショーちん!!!!」


 デブルス粉塵の煙幕に視界を遮られる。響司による清掃モップの一閃で

清風によって邪魔な粉塵は吹き飛ばされた。

絶望的な気持ちで駆け寄った四人が見たものは、信じがたいものだった。


翔吉の白銀の作業装甲にはかすり傷ひとつついていなかった。


 自分でも信じられない様子で翔吉はキョロキョロと周囲を見回し

串刺しになったはずの自分の身体を確認している。


「……あ、あれぇ?俺、生きてる?なんで??」

「ショーちん!!よかったぁ~!!!!」

「大丈夫かい?怪我はないかね?」

「は、ハイ……大丈夫ス……??」


 鐵也は周囲に転がるデブルス触手の残骸に気づく。

それは半ば白デブルスと化して光の粒子になろうとしていた。

その白デブルスの結晶は、地下空洞を埋め尽くしていたものと同じだ。


「ショーちんお前……その用具入れン中、何が入ってんだ?」


 その白い結晶が翔吉の作業装甲の左腰についた

用具入れにも付着していることを、鐵也は見逃さなかった。


「え?ああこれ…弁当ス。郁実ちゃんが作ってくれて」

「ああ、デザートに梨がついてるっていう…」

浄の一言に、翔吉は真っ赤になった。

「な、なんでそんなこと知ってんスか?!」

「郁実ちゃんから聞いたんだよ」


──梨……


 浄は長十郎の言葉を思い出していた。

他の果物は全滅したのに、

なぜか梨だけはデブルスの影響を受けにくかったと。

 梨はバラ科の植物だとも聞いた。

そういえば、バラ苑のバラも山全体の木々が

枯れていたのに、僅かながらでも生き残っていた。


「梨がデブルスに効く……?」

「いや、まさかね~」

『その「まさか」だよ』

「ハカセ!」

 

ガルーダから再び博士の声が響く。

 

『向ヶ丘2型には清掃力が効かないという問題、

その原因は登戸研究所によって研究されていた

対清掃力バイオシールドだと判明したよ』

「そんな厄介なモン開発してたのかよ…」

「しかし成功には至っていない。試作段階で頓挫している……

つまり向ヶ丘2型のバイオシールドは不完全なんだ」

「ところでさっきの『まさか』とは?」

「ああ。こちらも断片的にだが、対清掃力バイオシールドの弱点も判明したんだ」

「それで、その弱点って?」

「弱点となる成分は

カリウム・パントテン酸・ビオチン・ビタミンC……」


浄・鐵也・響司・アキラの頭上に『?』マークがいくつも浮かんだ。


「って言われてもよ」

「いや、待ってくださいっス……

その成分、たぶんこいつにたっぷり入ってます!」

「は??」


 翔吉は左腰の用具入れからタッパーを取り出し、蓋を開ける。

中にはくし切りにされた瑞々しい多摩川梨がきちんと詰められていた。


「さっきの成分が梨に含まれているのかね?」

「ハイ。梨についてはジイちゃんに英才教育されてますんで…」

「さっすが梨園の跡取り息子」

『その通り!僕も成分だけでは何のこっちゃだったが

キミたちの会話を聞いてピンと来たんだよ!

バイオシールドの自殺因子を発動させるキーとなる成分が

完璧に含まれる食品……

それは梨!

しかし鳥取県産の二十世紀梨ではダメだ。

川崎市多摩区産の多摩川梨の遺伝子情報が複合キーとなっているんだ!!』


 ほぉ~。

その場の特務清掃員は揃って感心した。

ウソみたいな話だが、効果は翔吉が実証済みだ。異論はない。


「しかし、なんでこんなもんを弱点にしたんだろーな」


もっともな鐵也の言葉に、響司が考察を述べる。


「まあ理にかなっている部分もあるね。

多摩区内での入手は容易でありながら外部の人間には困難だ。

そもそも多摩区が梨の産地だと知る者は首都圏でも少ない」


「……よし、これで打開策が見つかったじゃないか。

バイオシールドさえ破ればこっちのもんだ」


浄はSKから三つのタッパーを取り出し、翔吉に差し出した。


「これをキミに」

「これって……梨?」

「多摩区から避難する最後の日、郁実ちゃんが俺にくれたんだよ」

「郁実ちゃんが皆神さんに……」


翔吉の声が不安げに細る。


「言っとくけど、俺はとっくに郁実ちゃんにフラれてるから」

「そ、そうなんスね……」


翔吉はあからさまにホッとする。 浄は翔吉を勇気づけた。


「こいつでトドメを刺してやれ」

「……ハイ!!ありがとうございます!!」


翔吉は浄から梨のつまったタッパーを受け取った。

梨だけではない。浄から託された思いも翔吉は確かに胸に押し抱いた。


「さて、みんな」


 浄は改めて四人の特務清掃員に向き合う。


「ようやく大詰めだけど……正直、身の安全は保障できない。

帰りたいやつは帰っていいよ」

「うるっせェアホ。今さらなんだよ」

「僕も帰らない!頑張る!」

「オレやります!!やってやりますよ!!」

「私も同感だ。では現場責任者くん、作業員の士気向上のために一言たのむよ」

「はいはい……」


 浄はビシッと姿勢を正した。

それに相対する四人も同じく姿勢を正した。

普段のゆるゆるした雰囲気はどこへやら、一帯の空気が引き締まる。


「弱点が分かったとはいえ、危険な作業であることに変わりはない。

……だが思い出してくれ。多摩区の人々の長年の苦しみを。

どんな気持ちで住み慣れた多摩区を去って行ったかを」

「……」

「これより、川崎市多摩区デブルス隕石『向ヶ丘2型』駆除…

最終作業を行う!!」

「了解!!」



「特務清掃員が五人もいるんだ!どんな奇跡だって起こせる!!」



浄は、そして鐵也・響司・暁・翔吉は腹の底から声を上げた。


「行くぞ!!」

「おう!!!!」



再び迫りくるデブルス核の重圧と臭気、それに毒素…。


 しかし五人の特務清掃員に、一人として怯む者はいない。

ながらく多摩区を蝕んできた元凶に向かい、各自の清掃用具を構えた!!



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