第42話 やってやるぜ!!
皮切りに放った五発の広範囲洗浄……
通常、2型程度のデブルス核ならそれだけで駆除できているはずだ。
それがまったくの無傷。
放出される毒素が減少した様子もない。
「五つの広範囲洗浄を喰らってピンピンしてるって事ァ、
まあそういうこったな」
清掃力の効かないデブルス核……そんなものが存在するのか?
戦慄を覚えながらも彼らの清掃技術に迷いは見えなかった。
浄・鐵也・響司の三人は歴戦のデブルス清掃員なのだ。
加えて万全のコンディションで向ヶ丘2型駆除に臨んでいる。
そして清掃兵器であるアキラもそれは同じだ。
そんな中で、一人だけ遅れをとる者がいた。
翔吉は焦っていた。
(くそっ…体が、重い……!!)
無理もない。一年も仮死状態だったのだ。
加えて翔吉は清掃大学を卒業したばかりの新人だ。経験も浅い。
自分の状態を正しく把握できていなかったのだ。
それでも誰のフォローも期待できないと、承知の上で
この場に残ると判断したのは自分だ。
翔吉は歯を食いしばって跳躍し、電磁モップで触手を薙ぎ払った。
グバッ!!!!
触手の束が翔吉を背後から襲う!!
(しまった……!)
次の瞬間!
触手は真紅の炎に焼き尽くされ、白い粒子となって消えた。
アキラが翔吉を守ったのだ。
「大丈夫?ショーちん」
「あ、アキラ先輩!ありがとうございます……!」
すかさず浄から鋭い声が飛ぶ。
「アキラくん!余計な真似をするな!」
「で、でも……」
「特スイならこれしきの作業に助けはいらないはずだ。
ショーちんの邪魔をするな!」
「でも、でも……あぶないよ……」
鐵也と響司は何も口を挟まず、黙々と各自の清掃作業を続ける。
浄の言葉に異論はないのだ。
しゅんとうなだれていたアキラだが、再び襲い来る触手を
華麗な身のこなしで躱した。
(す、すげえ……!)
どこか幼い印象のある彼も、一流の特務清掃員なのだ。
負けていられるか!!
翔吉の負けん気に火が点いた。電磁モップを振るう腕に力がこもる。
(俺だって!俺だってやれるんだ!向ヶ丘2型をブッ
(
秋村翔吉は『風』の特務清掃員だ。
S級清掃員白鳥響司と同じ属性ではあるが、清掃員の属性、
そして固有清掃力は、個人の人格に強く左右される。
鎌倉・湘南エリアで生まれ育ち、「いじめられないため」という消極的な理由で
おとなしい性格を隠し、ヤンキー的なコミュニティに所属していた翔吉。
彼の清掃力発動には、その文化様式が色濃く表れる。
「やってやるぜ!!」
雄叫びと共に特攻服めいた白い作業装甲の背中に
『清掃上等』の四文字が浮かび上がる!
「広範囲洗浄用意ッ!!」
翔吉は白銀に光る電磁モップを振るい、動作コードを決める。
宙に巨大な五芒星が強く輝きながら顕現した。
狙うはデブルス核、向ヶ丘2型。
しかしそれを見据えるべき目はかすみ、電磁モップを握る手が……
いや、翔吉の全身が震えていた。
無理もない。
飲まず食わずで約一年間仮死状態だったのだ。
自覚はなくとも翔吉の身体はボロボロの病み上がりなのだ。
『3』のカウントの後、翔吉は大きくふらつき地面に膝をついた。
そこに芯までデブルス汚染された金属パイプの群れが殺到する!!
全身を串刺しにされる己の姿を想像し、若き特務清掃員は死を覚悟した。
……しかし、待てども衝撃は来なかった。
翔吉が恐る恐る目を上げると、そこには黒い作業装甲の背中があった。
明滅する蒼い機構。その周囲を白い粒子が輝きながら舞っている。
「み、皆神センパイ……?」
「ったく……見てらんないな、ショーちん」
浄は再び襲い来るパイプ触手の群れを電磁モップの片手で一掃した。
軽々とした…しかし無駄のない動作はデブルス清掃作業を熟練した者の証だ。
「分かったろ?今の自分がどんな状態か」
「……ハイ」
翔吉は苦々しく頷いた。
「キミの多摩区を思う気持ちは本物だ。
それは認めるよ。……だが」
再び一閃!蚊柱めいたデブルス蟲の群体が霧散した。
「これは仕事だ。気持ちだけじゃ話になんないぜ」
翔吉は力なく項垂れた。
ザッ!!
響司と鐵也がひざまずく翔吉の左右に降り立つ。
「もう済んだかよ」
「では諸君、この忌々しい魔窟からさっさとズラかろうじゃないか」
向ヶ丘2型は己を守るパイプラインやデブルス達の鎧をあらかた失い
巨大な球根めいた姿を剥き出しに晒している。
だがおとなしいのは束の間。
わずかな時間で新たなデブルスや無機物を取り込み
凄まじい毒素と瘴気でその身を鎧うのだろう。
「名残り惜しいが、清掃力が効かないのではね」
「幸い時間はある。一旦退いて仕切り直そうぜ」
浄は翔吉に手を差し伸べる。
「行こうぜ、ショーちん」
「ハイ……!!」
翔吉は浄の手を取った。
***
時は遡り、
調布市 多摩区民避難キャンプ駐車場
郁実は梨園の軽トラに駆け寄った。
ドアを開けようとするが……
「キーと俺を置いてけぼりでか?」
「えっ?!あっ……」
「おっちょこちょいはおめえの父さん譲りだなぁ」
軽トラのキーを指にぶら下げた長十郎がニカリと笑った。
「助手席行け。シートベルトかけろ」
「おじいちゃん」
「しばらくキレイな空気吸ってたからよ、元気が有り余ってんだ」
軽トラは避難キャンプの駐車場から飛び出て行った。
「ぶっ飛ばすぜ!!」
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