第41話 オレなんかどうなったっていいんス!!


「ショーちん、立てるか?」


フラフラとよろけたあと、翔吉は膝をついた。


「チッ!しゃあねえ掴まれ!」


鐵也は翔吉の腕を強引に引き、その体を背負って走り出した。


「はわわ…す、すいませんっス金城センパイ!」

「鐵ちゃん力持ち~!ときめいちゃう」

「ねえ次も僕も!僕もおんぶして~!」

「うるせェ!走れアホども!」

「風が流れてくる…この先だ!急ぎたまえ諸君!」


 一同が駆け抜けた先。

そこは一条の光すら射さぬ真の暗闇…。

ただの暗闇ではない。ドロドロと澱んだ禍々しい質量を持つ暗黒。

頭部装甲のカメラアイが暗視モードに切り替わる。

 そして目に飛び込んできた光景は、彼ら特務清掃員が幾度も目にした

デブルス隕石とはまったく違うものだった。


 見えたものは無数にうごめく触手めいたパイプライン。

そこは白デブルス空洞よりも更に広い空間であったが、周囲を取り囲むのは

天然の岩石ではなかった。

ボロボロに朽ちたコンクリートに真っ赤に錆びた鉄骨の瓦礫の山だ。

よく見ると何らかのコントロールパネルや計器類、バルブなどが点在している。

そしてその奥に鎮座するのは……。


「あれが2型だと?五十メートルはあんぞ」

「1型……いや特1型に匹敵する大きさだよ」


 ズンと水圧に似たプレッシャーが五人に圧し掛かる。

一般人なら即死。

特務清掃員でも作業装甲がなければ重度のデブルス中毒を

免れないレベルのデブルス濃度だ。

川崎市多摩区を蝕むデブルス禍の元凶。

宇宙より飛来せし二億個の災厄のひとつ……

デブルス隕石・向ヶ丘2型。


しかしその姿は異様だった。

パイプラインの触手に埋まるそれは

金属とコンクリートの殻に覆われている。


『で号兵器?!まさか実物が現存しただなんて!!』


不意に響司のカワイイAI・ガルーダが博士の声で叫んだ。


「あなたは博士?」

『白鳥さん、すまない。あなたのガルーダくんをハッキングさせてもらったよ。

多摩区で異常な振動とデブルス濃度を測定してね。アキラくんが心配で』

「構いません。仰るとおり非常事態ですから。ところで『で号兵器』とは?」

『僕も資料でしか見たことがないんだが……ああ、写真のとおりだ!』


 博士はひとしきり清掃兵器学者としての感激を爆発させたあと、

五人に改めて説明した。


『あの姿、間違いない。

清掃庁がデブルス核を培養し兵器転用しようと目論んだ

極秘計画…『で号作戦』。

その落とし子が、あの向ヶ丘2型だ!!

つまり!首都圏最悪と言われた川崎市多摩区のデブルス禍は……

人災だったんだよ!!』


 デブルス核……いや、

『で号兵器・向ヶ丘2型』は赤紫色の毒々しい光を放った!


「清掃バリア展開ッ!!」


赤紫の毒嵐をデブルス清掃バリアが遮る。

しかしそれも一時しのぎに過ぎない。


「スーパーSK発動!!」

空中三メートルほどが波紋めいて渦巻き、巨大な光る五芒星が顕現する。

「わぁ!何これ?」

「説明は後だ!諸君、星の中に避難したまえ!」


 清掃バリアが消失を報せるカウントを聞きながら、

翔吉に肩を貸す浄・アキラの手を引っ張る鐵也・最後に響司の順番で

五人は異空間収納・スーパーSKの中に逃れた。


「なんスか、ここ…」

「スーパーSK……言ってしまえばシェルターだ。

清掃用具だけではなく、生物を長時間収納できる」

「凄いですね」

「でも他になーんにもないんだね。真っ白」

「試作品だからね。この空間の耐久時間は三十分が限度だ

のんびりしている暇はないよ」


響司は浄を見た。浄は静かに頷く。


「みんな、聞いてくれ」


浄は神妙な口調で仲間達に告げた。



「撤退しよう」



「……ふん。そうなるか」

「賢明な判断だ。生存者の安全確保が第一だからね」

「帰るの?」

「ああ。アキラくんの出番だぜ」

「待ってくださいっス!!」

「ど、どうした?ショーちん」

「お願いっス!今ここで、皆さんで、デブルス核を……

向ヶ丘2型を破壊してくださいッ!!」


翔吉は土下座した。

四人は困惑しつつ、その姿を見た。


「2型のヤロォはさらに地中深く移動するつもりっス……

そうなったらもう間に合わない!!

特スイの先輩方が四人も揃っている今しかチャンスは無いんス!

お願いします……お願いします!!」


「ダメだ。危険すぎる」

「向ヶ丘2型を見たろ。ありゃあもう2型の範疇じゃねェ。

いくら経験者揃いでも手負いのお前を抱えての

清掃作業でどうにかなる相手じゃねェんだ」


「オレのことはいいんです!!多摩区が…梨園さえ無事なら、

オレなんかどうなったっていいんス!!」


 翔吉の発言は健気なものだ。しかしそれはアキラを除く

三人の特スイにとっては聞き流せないものだった。


「おいテメェ……ふざけたこと抜かしてんじゃねェぞ」


 まず血の気の多い鐵也が翔吉の襟首を掴んだ。

翔吉の方が二十センチは背が高いが、

鋼のような腕の剛力と怒りをはらんだ眼力。

身長差などものともしない迫力があった。


「秋村翔吉くん。キミは大きな勘違いをしているぞ」


 普段なら鐵也の荒々しい態度を諫めるはずの響司も止めず、

低く抑えた声で言った。

翔吉は先輩二人のただならぬ気迫に少し怯んだが、

そこは経験が浅いとはいえ彼も特務清掃員。気丈にも睨み返している。

 浄は何も言わない。

三人の様子を見ているようで、何か別のことを考え込んでいる気配があった。


「ど、どうしちゃったの?みんな怖いよ…」


 急にモメ出した仲間達の様子に、アキラは一人オロオロしている。

彼は他人がケンカしている様子など初めて見るし、

自らが誰かとケンカしたこともないのだ。


「そっかそっか。じゃあまあ、いいんじゃない?

このままデブルス核駆除しよっか」

「…皆神!!」

「だって本人がそう希望してるんだぜ?俺達がとやかく口を挟むことじゃないさ」


  浄は翔吉に向き合った。

 アイスブルーの瞳の酷薄な光に、翔吉の背筋が凍った。


「さて…秋村翔吉くん。俺達はこれから向ヶ丘2型駆除作戦に入る。

誰も君の身の安全をフォローしない。そんな余裕はないからだ。分かるな?」

「は、ハイ!!」

「各自、自分の身は自分で守ること。それが特務清掃員の掟だからな」

「やります!やらせてください!!」

「その意気だ。じゃあみんな、作業開始だ。…行くぞ!」


 スーパーSKの効果が切れた!!

五芒星が消え、白く清浄な空間が消え、再び現れるは禍々しいデブルス核

『で号兵器・向ヶ丘2型』。

赤紫だったデブルス毒素は黒色に変じ、地下空洞内を息苦しく覆いつくしている。


 五人の特務清掃員はそれぞれの清掃用具を構え、動作コードに入った。

いずれも時間短縮のために簡略化されたもので、音声コードは省略済みだ。

 茅の輪・曼荼羅・五芒星・魔法陣…宙に浮かび出た

五つそれぞれの紋章に凄まじい清掃力が集結してゆく。


「広範囲洗浄用意!!」


 張り巡らされた電磁バリアが毒素と清掃力の狭間でビリビリと震える。

紋章の中央でカウントダウンの数字が浮かび出た。


「5」「4」「3」「2」「1」…


清掃バリアが決壊した!!


「ゼロ!!」


 五条のビーム砲めいた清掃力が一斉に放たれた!!

それが核に着弾するのを待たず、五人は標的に向かい躍りかかる!!

五つの清掃力の杭を打ち込まれ、向ヶ丘2型は悲鳴に似た

おぞましい地鳴りを響かせた。


 周囲を取り巻くデブルス塵の層が白く浄化され、

もうもうと煙幕めいて五人の視界を遮る。


「……やったか?!」

「って場合は、やれてないのがお約束だよね」

「そのようだね……残念ながら」


 煙幕は再び白から黒に変じ、赤紫の光が毒々しくよみがえった。

今や2型の手足を化した無数のパイプラインが襲い掛かる!

五人は難なくそれを回避する。

デブルス核の攻撃スピードは、はっきり言って遅い。

どんなに強力な毒素でも物理攻撃であろうと、当たらなければ物の数ではない。

彼らのように一流のデブルス清掃員にとって、この程度の攻撃を

かわし続けるなど造作もない事だ。

しかし…?


「みんな、気づいてるか?」

「ああ。ヤバいぜこいつは…」

「間違いない、これは」


特務清掃員達はある種の違和感を覚え、早々にその正体を掴んでいた。




「清掃力が……効いていない?!」




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