第39話 生体反応 あり!!
意外な光景…それは秋芳洞もかくやという地下空洞だった。
川まで流れている。
「へぇ……こいつは壮観だ」
「川崎市の地下にこんな場所があったとはなァ」
「見たまえ、地下湧水だ。地中の清浄な土壌に濾過された湧水が
デブルスを寄せ付けないのだろう」
「すっごい!『風の谷のナウシカ』みたい」
「よく知ってるな、アキラくん」
「……」
鐵也が険しい眼で鍾乳洞の奥深くを見つめている。
「どうした?鐵ちゃん」
「……この奥、なんか光ってねェか」
浄も同じ方向に眼を向ける。確かにうすぼんやりと発光して見える。
鍾乳洞全体がなんとなく明るいのはその光が原因に違いなかった。
「デブルスの気配じゃねェようだが」
「行ってみよう。どうせ通り道だ」
四人は白い光を目指して進んだ。
そのゆく手を遮ったのは岩と砂礫の山だった。
わずかな隙間から
「苔がうっすら生えているね。ずいぶん前に崩落したのだろう」
「進めないの?」
「よし、俺に任せろ」
鐵也は電磁モップを手に歩み出た。
儀式めいた動きで流れるように動作コードを決めると
黄金の光を放つ曼荼羅めいた文様が空中に現れた。
そしてそこから『土』の特務清掃員・固有の清掃用具が現れた。
その形状はどこか密教仏具を思わせる。
「ダイヤモンド・クレンザー!!」
鐵也が清掃用具の商品名を叫ぶや、それはドリルめいて旋回し
眼前の岩山を豪快に吹き飛ばした。
「おお~!鐵ちゃんすげぇ!」
「すごーい!カッコイイ!」
「お見事!さすがは最も希少な『土』属性!」
「……ふん」
同業者達に手放しで賞賛され、さしもの気難し屋も満足げであった。
そして足を踏み入れた未知の空間。
そこはただただ白く美しい……清浄な世界だった。
***
白く輝く結晶…いや胞子のかたまりだろうか。
とにかくその広い空間は淡く発光する白くフワフワした物体に包まれていた。
「なんだァこれ……」
「よく分からないが、美しいね……」
「アキラくん、足元滑るから気を付けて」
「うん。あぶないから明るくするね」
アキラは電磁モップの穂先から小さな火球を作り出し、
中空に飛ばした。
空間全体がぱっと昼間のように明るく照らされる。
作業装甲の暗視ゴーグル機能が自動的にノーマルに切り替わる。
空洞の広さはちょっとした体育館程度といったところか。
浄は白い結晶を指先で触れた。
「これ……白デブルスじゃない?」
「白デブルス?」
「ああ。先月あたり清掃庁ポータルで特集されてたろ」
「私達がデブルス清掃を行った際に発生する
白い光の粒子のことだね」
「確かに見た感じはそっくりだな」
浄はおもむろに頭部装甲の顔面を開いた。
黒い前髪と青い眼が印象的な、端正な顔があらわになる。
「いや~生き返るぜ」
「おい!何やってンだ!!」
『 大気中のデブルス濃度 低 』
マメ公が答えた。
「ちょうどいい。ここで休憩しようよ」
「賛成。作業装甲やバッテリーよりも先に、
生身の我々がへばっては意味がないからね」
「まァ……そうスね。疲れる前に休むのが得策か」
「わーい!ここ僕の席!」
ゴツゴツと無数にせり出した岩の上に、四人はそれぞれ腰を下ろした。
浄にならい、鐵也・響司・アキラも頭部装甲の顔面を開いている。
白くきらめく結晶に覆い尽くされた空洞は、デブルス核の間近だと
にわかに信じられないほどの清浄な空気に満ちていた。
先ほどの鍾乳洞の比ではない。
「SK開くか?」
「ん~…なんとか。でも高圧洗浄機を引っぱり出すのは難しいかな」
「これほどの地下だ。十年前ならSKにアクセスすらできなかっただろうね」
「アキラくん、SKは?」
「あるかもしれないけど、使い方わかんない……ハカセがいないと」
「そっか。じゃあ俺のご飯分けてやるよ」
「ほんと?ありがとー!」
あらわになったアキラの顔…
それは若々しい声のイメージそのままに
アイドルのように見目麗しく整っていた。
仔犬のような瞳は表情豊かで、その辺の同年代の青少年と大した違いはない。
ただ頭部装甲の隙間からこぼれる前髪と瞳が真紅で、そこのみが浮世離れしていた。
アキラは浄から受け取った携帯食料を、もぐもぐと美味しそうに頬張っている。
鐵也はその様を親の仇でも見つけたかのような形相で、じっと凝視していた。
響司は浄に小声で話し掛けた。
「……金城くん、清掃兵器だからって警戒し過ぎじゃないかな……」
「いえ、あの表情はそういうのじゃないから大丈夫です。たぶん」
鐵也がそういった表情をするのは、鐵也が愛好してやまない犬や
カワイイAIのシバタローの動作に見入っている時だけなのだ。
大学時代からの付き合いゆえに、浄だけはそれを知っていた。
「はぁ……では私も一服させてもらうよ」
カシュっと小気味のよい音を立て、響司はカップ酒の蓋を開けた。
そして水でも飲むかのようにゴクゴクとひと息に飲みほした。
浄と鐵也はついその光景に見入った。
「ん?キミたちも飲むかね」
「いえ、勤務中ですので……」
「真面目だね。感心なことだ」
響司は新たなカップ酒をSKから取り出した。
「これしきの量では酔わないだろう?
デブルス毒耐性を持つ、我々特スイなら」
「いや酔いますよフツーに」
「響司さん、ホントに酒強いんスね……」
響司はすぐに二本目のカップ酒を空にした。
「やっぱり下手なエナジードリンクより『効く』ねぇ~」
白鳥響司はしみじみと呟いた。
これが日本が世界に誇るデブルス清掃員の最高峰。
常人には辿りつけぬ境地なのだろう……。
能力だとか才能だとかを超えた『格』の違いを、
浄と鐵也はまざまざと見せつけられた気がした。
次の瞬間、響司は三本目のカップ酒を開けようとする指を止めた。
その眼には常と変わらぬ怜悧な光が宿っている。
「どうしました?」
「……人の気配がする」
「マメ公、生体反応あるか?」
『 特になし 』
不意に響司が白くきらめく空洞内を見回した。
それにつられて浄・鐵也・アキラも同じように周囲をうかがったが、
特に変わったものは見当たらなかった。
「おかしいな……気のせいではないようなんだが」
「酔ってんじゃないスか?」
「まさか。これを一ダースは飲まないと酔えないよ」
響司は腑に落ちないようだったが、今は休憩に専念しようと
思い直したのか、静かに飲酒に戻った。
そこで浄はSKに忍ばせていたある物のことを思い出した。
「あっ。そういやいいものがあるんだよ。梨食う?」
「梨?」
「郁実ちゃんから貰ったんだよ。秋村梨園の今年の収穫だって」
「ンなもんSKに入れてたのかよ」
「下手な冷蔵庫よりSKに入れてた方が新鮮だろ」
浄がタッパーを開けると、くし切りにされた梨の実が
きちんと詰められていた。
「美しいね」
「これが梨?はじめて見た~」
「すげェな。こんな贅沢品、港区の金持ちだってそう食えないぜ」
ピコピコピコーーーン!!
マメ公・シバタロー・ガルーダの
カワイイAI三体が同時にカメラアイを光らせた。
『生体反応 あり!!』
「は?!」
オオオオオォォォォォ……ン
同時に空洞の奥底からかすかに轟く音があった。
「こいつは……」
「ライドポリッシャーのエンジン音?」
ポヨポヨと宙を泳ぐ三体のカワイイAIに導かれ、四人は奥へと進んだ。
せり出た岩塊をいくつも乗り越えた先に待ち受けた光景に誰もが目を疑った。
そこにあったのは五メートルはあろうかという巨大な白デブルスのかたまり。
ヴオオオオオオオォォォォ……ン
間違いない。
ライドポリッシャーのエンジン音はこの中から響いている。
「思うんだが……この繭が白デブルスの発生源ではないのかな」
「かなりの清掃力を感じる。有り得ますね」
「……なんかあそこにボンヤリ見えるの、人じゃない?」
アキラが電磁モップの穂先を清掃力で燃え上がらせると、
松明のように繭を照らし、内部を透かした。
確かにライドポリッシャー座席にぐったりと凭れた人影が見える。
「……?!」
浄は目をこらすと、人
影の背中に清掃力の名残りが淡く発光しているのが見えた。
『清掃上等』の四文字が!
この言葉を見たのはどこの誰の部屋だったか……
記憶の中を手探りし、思い当たると同時に
思わずそれは驚きをともなって声に出していた。
「ショーちん?!」
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