第6話 なあ剣影?セックスって何だ?
剣影は袖雪と写真を撮った後、コンビニに入って行き、袖雪は一人で黙々とスマホをいじっていた。袖雪はスマホをいじっている際に、奇跡的にホーム画面を剣影との写真に変える事に成功し、一人で微笑んだ。
袖雪「これがアオハルなのかな………………」
餓狼「おい、阿鼻校生か?」
袖雪「ん?」
そう袖雪に聞いたのはこの町一番の不良である天王寺餓狼。制服にギリギリ収まっているはち切れんばかりの筋肉に血管を浮きでだせ、短い金髪にするどい目つき、誰がどうみても不良である事が分かり、恐ろしい人間である事が分かった。
「天王寺さんこの子美人っすね! 同じ高校っすか?」
餓狼「なあ? 俺とお茶でもしないか?」
袖雪「断る! 失せろ!」
餓狼「おいおい、俺が誰だか………………」
餓狼が袖雪のスマホの画面をのぞき込んだ時、見覚えのある男が袖雪と映っている事に気付いた。
餓狼「宮本………………」
袖雪「何だ、剣影を知っているのか?」
餓狼「宮本の彼女か?」
袖雪「剣影は運命の人だ!」
餓狼「宮本の女だったのか………お前等、帰るぞ。」
「え? 今日で十人ナンパするんじゃないんですか?」
餓狼「お前等に一つ言い忘れた事がある、阿鼻校は水産と違って治安はいい方だが二年の宮本剣影には手を出すな。」
「なんでですか?」
餓狼「あいつは握力だけなら俺より上だ。」
「ええ~!? 天王寺さんよりっすか!?」
餓狼「ああ、帰るぞ。」
そう言って餓狼と取り巻きの不良はその場を去って行った。
袖雪「何だったんだ?」
剣影「おい袖雪!」
剣影が袖雪の名前を呼びながら焦った様子で袖雪に走り寄った。
袖雪「どうした? そんなに慌てて?」
剣影「今の天王寺餓狼だろ!? 何かされたのか!?」
袖雪「何もされてないが?」
剣影「そうか………良かった。」
袖雪「誰なんだ?」
剣影「不良だよ、昔喧嘩してマジでやばかったんだ。」
袖雪「剣影は喧嘩する様な奴には見えないが?」
剣影「色々あったんだよ。」
剣影はそう言って買ってきたお茶を飲んだ。
袖雪「私にもくれないか?」
剣影「え? 口付けちゃったしな………………」
袖雪「私は気にしない。」
そう言って袖雪は剣影のお茶を飲んでしまった。
剣影「お前なぁ………………」
袖雪「なあ剣影、これがアオハルなのか?」
袖雪はそう言いながら眼前に煌めき広がる広大な海と、山の向こう側に浮かび立つ大きな入道雲、そして剣影を指さした。
剣影「まあ、大体合ってる。」
袖雪「じゃあ剣影もアオハルしてるんだな!」
剣影「そうなっちゃうな。」
袖雪「他には何をしたらいいのか分かるか?」
剣影「そうだな…………(上手い事誘導して学校に向かわせない様にしようか。)遊びだな。町を案内がてら遊ぼう。」
袖雪「いいな! それ!」
二人はバイクに乗り込み、剣影はゲーセンに向けて走り出した。
袖雪「優しいな剣影は。」
剣影「まあね。」
ゲーセンに着き次第剣影は格ゲーコーナーに向おうとしたが、階段の近くで皐月に出会った。
皐月「うわ、同じ日に違う女の子とデート? 終わってる。」
剣影「デートじゃねぇ、ちょっとこいつの事見ててくれ。」
剣影は袖雪の事を皐月に押し付け、二階へと駆け上がって行った。
皐月「何がどうなってるの? あんたは宮本の彼女?」
袖雪「彼女ではないと思うが………………」
皐月「セックスはした?」
袖雪「セックス? ってなんだ?」
皐月「え? からかってんの?」
袖雪「……?」
皐月「もしかして、お嬢様って奴?」
袖雪「お嬢様?」
皐月「宮本とはどこまでいったの? セックスしてないって事は、キスはした?」
袖雪「口づけの事か? したことないが。」
皐月「宮本の奴……こんな初心な子を侍らせるなんて……」
袖雪「侍らせる?」
皐月「まあ宮本は何だかんだ優しいとこあるし、お似合いじゃない? じゃあね。」
皐月はそう言って手を振りながらゲーセンを出た。
袖雪「セックス?」
剣影「はぁ………何で全部点検中なんだよ…………一台ずつやれよアホ。」
剣影が二階からトボトボと項垂れながら降りてきた。
袖雪「なあ剣影?」
剣影「なんだ?」
袖雪「セックスって何だ?」
剣影「へ?」
剣影は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をし、少しして袖雪に寄って行って耳元で囁いた。
剣影「神谷に吹き込まれたのか?」
袖雪「剣影とセックスしたのか聞かれたぞ!」
剣影「声がでかい! ちょっとこっち来い!」
剣影はそう言って袖雪の腕を掴み、五月蠅いビデオゲーム横のプリクラに袖雪を連れ込んだ。
袖雪「セックスって何だ?」
剣影「はぁ………(教えるのは余りにも面倒だからやりたくないが、この年で知らないのはそれはそれで不憫だよな。)」
袖雪「セックスは剣影とするものなのか?」
剣影「ほら、あれだよ……………子供を作る為の作業だ。男の陰部を女の陰部に入れるんだよ。」
袖雪「それがセックスか…………子供が居る人は皆しているんだよな?」
剣影「そうやって人類は血を繋いできたんだ。当り前の事だろ。お前だって彼氏とか結婚相手とかとする事になるんだ。」
袖雪「彼氏………流石の私も陰部を人に見せるのは恥ずかしいな………」
剣影「当り前だアホ。」
袖雪「ところでここは何なんだ?」
剣影「プリクラだよ、写真を撮る場所だ。色々な加工もできるが………………」
袖雪「じゃあ一緒に撮らないか?」
剣影「まあいいけど。」
二人はプリクラを撮る事にし、せっかくなので加工しまくる事にした。
袖雪「見ろ剣影! 眼球が顔の半分を覆っているぞ!」
剣影「そうだな。」
袖雪「プリクラって楽しいな! 他に何か無いのか?」
剣影「格ゲー以外やらないからな…………クレームゲームでもやるか?」
袖雪「クレーンゲーム?」
剣影は袖雪をクレームゲームまで連れていく事にし、何も考えずに手を繋いで歩いた。
袖雪「なあ剣影?」
剣影「なんだ?」
袖雪「何で手を繋いでるんだ?」
剣影「え?」
剣影はその時になって自分が袖雪と手を繋いでいる事に気付き、大げさな素振りで手を離した。
剣影「す、すまん! な、何も考えてなくて………………」
袖雪「い、いいんだ。大丈夫………………」
ちょっと気まずい空気の中二人は愛想笑いを浮かべ、クレーンゲームコーナーに到着した。
袖雪「(さっきから何だろう、この気持ち。闘志じゃないような気がする。今までこんな気持ちになった事は………………)」
剣影「おい、聞いてるか?」
袖雪「え? あ、ああ…………」
剣影「これがクレーンゲームだ。これで操作して人形とかお菓子を取るんだが、やった事ないならお菓子とかの方がいいかな。」
袖雪「最初からお金を払って買った方がよくないか?」
剣影「それを言っちゃあおしまいよ。」
剣影はそう言いながら100円をクレーンに入れ、レバーを操作して細長いチョコのお菓子を一つ取った。
袖雪「上手いじゃないか!」
剣影「一つしか取ってないがな、食べるか?」
袖雪「ああ、できればああやって食べたい。」
剣影「ん?」
袖雪が指さしたのはクレーン機の中のポスターで、そこではイラストで男女が端と端をそれぞれ口で咥えていた。
剣影「あれは……………恋人同士がやるんだ。」
袖雪「恋人同士じゃないと駄目なのか?」
剣影「別にそういう法律がある訳じゃないが、好きな人とやるべきだよ。」
袖雪「私は剣影の事好きだぞ?」
剣影「そういうんじゃなくて………………」
袖雪「何か変な事言ったか? 私は普通とはちょっと違うかも知れないが、嘘をつく事はないぞ。」
剣影「ちょっとね……………まあ、やりたいならやってもいいけどさ。」
剣影は箱を開け、一本取り出し、ゲーセンの奥にある人目に付かない場所まで袖雪を引っ張った。
剣影「こうするんだ。お前は反対。」
剣影はお菓子の端を咥え、もう片方を袖雪に向けた。
袖雪「じゃ、じゃあ………………」
袖雪は差し出されたお菓子の端を口で咥え、剣影は袖雪に合わせて少し屈んで二人は見つめ合った。
剣影「これはゲームでな、交互に齧って、折れた方が負けだ。」
袖雪「折れたら負け………じゃあどうやったら勝ちなんだ?」
剣影「最後まで折れなかったら。」
袖雪「な、何事も勝利を目指さなくてはな!」
剣影「じゃあ始めようか。」
剣影は雑に、かつ、小さく齧り、袖雪は慎重かつ大きく齧った。
袖雪「お、折れて無いな?」
剣影「ああ。」
袖雪「もう少し丁寧に齧るんだぞ?」
剣影「はいはい。」
二人はもう一度齧り、折れる事は無かった。後二口といったところ、そこで更に齧ろうとした袖雪が動きを止めた。
剣影「どうした?」
袖雪「思い出した。」
剣影「思い出した? 何を?」
袖雪「あの子にチョコをあげようと思ったんだ。何時もコーンスープをくれるあの子に。2月14日に。」
剣影「意外だな、バレンタインを知ってるなんて。」
袖雪「お母さんに聞いたんだ。好きな子にはどう思いを伝えればいいか。」
剣影「………………」
袖雪「ずっと返したかった。感謝の気持ち。」
袖雪は剣影の首元に手を回しながら顔を近づけ、剣影の口にチョコを押し込みつつ、キスをした。
袖雪「お返し。」
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