第7話 ヤンデレ覚醒

 剣影は離れようとしない袖雪を離す事なく、腰に手を回して暫くの間抱きしめ合った。


 袖雪「はぁ………私は剣影の事が好きだったんだな。」


 剣影「………………」


 袖雪「恋人同士がやる事……私だって少なからず知っている。」


 剣影「取り合えずキスだけにしておこう。」


 袖雪「さっき、蛍と抱き合っていたよな? 今思えば…………剣影と蛍は恋人同士なのか?」


 剣影「恋人じゃない。」


 袖雪「キスはしたのか?」


 剣影「………………した。」


 袖雪「そうか……………私は初めてだったけど、剣影は初めてじゃなかったんだな。」


 剣影「…………戻ろうか、ここはちょっとうるさすぎる。」


 袖雪「私と………付き合ってくれないか?」


 剣影「そういうのはちょっと………………」


 袖雪「なあ、剣影………………」


 剣影「ご、ごめん! また今度!」


剣影はその場から逃げ出し、一人でバイクに乗って家に帰ってしまった。


 袖雪「剣影………………」





剣影の家にて………………


 剣影「(悪い事したな………………)」


バイクで家まで帰ってきてしまった剣影は、袖雪の告白を蹴った事と、置いて行ってしまった事に罪悪感を感じながらベッドに潜り込み、まだ真昼だというのに寝て逃げようと目を閉じた。


 剣影「はぁ………………」





プルルルルッ


 剣影「………………」


プルルルルッ


 剣影「………………ん?」


剣影はいつの間にか眠っていた事を窓から差し込む月明りで察し、枕元に置いたスマホの鳴る音で起きた。


 剣影「袖雪から?」


剣影のスマホには八剣袖雪の文字が浮かんでいた。剣影は少し考えた後、スマホを手に取って電話に出た。


 剣影「どうした?」


 袖雪「あっ! 剣影! 良かった話せて………………」


 剣影「さっきは悪かったな、ちょっと動揺してて……………」


 袖雪「こっちこそすまない…………急にあんな事言われたら動揺するのは当たり前だよな。」


 剣影「蛍はどうしてる?」


 袖雪「それが………剣影の家から直ぐに家に戻ったみたいでな、お母さんによると帰って来て直ぐに布団を頭からかぶって死にたいと連呼してるんだ。私は凄く心配なのだが、お母さんは大丈夫だと言うんだ。」


 剣影「あ~まあ、大丈夫じゃないか?」


 袖雪「そうか………剣影がそう言うなら大丈夫なんだろう。」


 剣影「袖雪は大丈夫か?」


 袖雪「え? 私は大丈夫だが?」


 剣影「ならいい。」

 

 袖雪「………?」


 剣影「もう切るぞ。」


 袖雪「も、もう少しだけ話さないか?」


 剣影「俺はいいけど、もう結構な時間だぜ? 大丈夫か?」


 袖雪「ああ、少しくらい夜更かししても……………大丈夫だと思う。ちょっとドキドキするけどな。」


 剣影「カメラを付ける事もできるけどやってみるか? アイコンがあるだろ。」


そうして剣影はカメラを付け、手を振った。


 剣影「見えるか?」


 袖雪「あっ! 映ったぞ! さては寝起きだな?」


 剣影「御明察。」


 袖雪「ちょっと待ってろ………………」


袖雪がカメラを起動させ、剣影の画面には白い寝間着姿の袖雪が映り、袖雪はちゃんと見えているか確認する為に動いたので、緩い寝間着の間から剣影に色々な所が見えてしまっていた。


 剣影「み、見えてるから動くな。」


 袖雪「見えてるのか、良かった。」


剣影は何も言わずに袖雪の顔を見つめ、袖雪も剣影の顔を見つめ、二人は暫く黙ったまま見つめ合っていた。


 剣影「学校は慣れたか?」


先に口を開いたのは剣影、ベッドに寝っころがりながら無難な話題を袖雪に振った。


 袖雪「ああ、クラスの人もいい人ばかりでな。剣影とはどういう関係なのかという質問をよくされたな。」


 剣影「なんて答えたんだ?」


 袖雪「運命の人だと言った。」


 剣影「………………他には何を言った?」


 袖雪「さっき何をしていたのか聞かれたからコンビニに行って、ゲームセンターに行って、剣影とキスしたと言ったぞ。」


 剣影「………………」


 袖雪「私のスマホのホームを剣影と撮った写真にしたんだが、それを皆に見せたら驚いてたぞ!」


 剣影「………………明日から俺は不登校になる。」


 袖雪「何故だ? 部活もあるし、私は一緒に剣影と学校生活を楽しみたいんだが?」


 剣影「………………寝る。」


 袖雪「もうちょっと………………」


 剣影「お前も眠そうだが?」


剣影の言う通り袖雪は目をしょぼしょぼさせ、頭を何度も上下に動かしながら頑張って起きてようとしていた。


 剣影「こんな時間まで起きた事ないんだろ? 無理しない方がいいぜ。」


 袖雪「ま、まだ私は………………」


 剣影「切るからな。」


 袖雪「き、切らないでくれ! もっと剣影と………………」


バタッ


袖雪は限界を迎え、ベッドに倒れ込み、スマホには袖雪の寝顔が映った。


 剣影「おやすみ。」


剣影はスマホを閉じ、どうせ眠れないであろうと考えながらも布団を被って寝始めた。






翌日


 剣影「…………全然寝れなかった。」


剣影は当然ながら眠れず、あくびをかきながら布団を出て、何時もより数倍は憂鬱な学校に向けて支度し始めた。


ピンポーン


 剣影「ん?」


滅多に来ない来客に剣影は不信感を抱きながらも、寝間着のまま玄関のドアを開けた。


 袖雪「おはよう! 剣影!」


バンッ!


剣影はドアを閉め、何も見なかった事にした。


ガチャ


 袖雪「何で閉めたんだ?」


袖雪は構わずドアを開け、家の中に入って来た。


 剣影「はぁ…………朝から騒がしい奴だ。」


 袖雪「学校に行こう!」


 剣影「まだ朝飯も食ってないんだ、ちょっと待ってくれ。」


 袖雪「上がってもいいか?」


 剣影「まあ………………」


袖雪は家にあがり、剣影は着替えようと自室に戻った。


 剣影「俺の平穏な日常が………………」


剣影は制服に着替え、寝ぐせも直さず一階に降りた。


ジュー


 剣影「ん?」


剣影がリビングに向かうと袖雪がキッチンで少し大きいエプロンを着ながらベーコンを焼いていた。


 袖雪「朝ご飯はしっかり食べないとな。」


 剣影「あ、ああ……………ありがとう。正直意外だ、料理できるなんて。」


 袖雪「両親が家に居ない事が多いからな、料理は結構上手だぞ。」


 剣影「そうなのか………………」


 袖雪「お昼はどうするんだ? 何時もお弁当は持って行っているか?」


 剣影「昼は食ってない。」


 袖雪「それじゃ駄目だ! 今から作ってやるからな!」


 剣影「いいよ、そこまでしなくて。」


 袖雪「料理は好きなんだ。やらせてくれ。」


袖雪は手早く料理を作っていき、剣影は椅子に座ってテレビを付けた。


 剣影「夫婦みたいだな。」


 袖雪「え!?」


剣影が何となくそんな事を言い、袖雪は大げさに驚いて食器を落としそうになってしまった。


 袖雪「ふ、夫婦………………」


 剣影「どうした?」


 袖雪「な、何でもない………………」


 剣影「そうか。」


袖雪は食卓に卵焼き、焼じゃけ、目玉焼きとベーコン、みそ汁、そしてご飯を置いて席に付いた。


 剣影「頂きます。」


剣影は手を合わせ、ご飯を食べ始めた。


 剣影「んっ! 美味い!」


 袖雪「本当か? 良かった………………」


 剣影「特に卵焼きが美味いな、俺はこんなに上手く作れないから羨ましいよ。」


 袖雪「あ、ああ………………」


剣影はペロリと食べあげ、食器を持って洗い始めた。


 袖雪「私が洗うから剣影はそのままでいいが……………」


 剣影「流石にそこまで世話になる訳にはいかないからな。」


 袖雪「私は剣影の為なら何だってするぞ。」


袖雪は剣影に聞こえるか聞こえないかといった声量でそう言った。


 剣影「何か言ったか?」


 袖雪「な、何も………………」


 剣影「じゃあ憂鬱だが学校に行くか。」


剣影は鞄を持ち、袖雪と一緒に外に出た。


 袖雪「剣影、これ。」


袖雪はそう言いながら赤い風呂敷に包まれた弁当箱を剣影に渡した。


 剣影「ありがとう。」


 袖雪「ああ。」


何時もより時間が早い事もあり、剣影と袖雪は歩きで学校まで向かい、袖雪は剣影とどうにか手を繋げないかと探っていたが、剣影は一切気付かずどんどん学校に向って歩いて行った。


 皐月「おっ! 宮本じゃん!」


海沿いを歩いていた剣影と袖雪は私服で歩いていた皐月と遭遇し、皐月は大きな袋を持っていた。


 剣影「よお、何持ってんだ?」


 皐月「ふふふ、聞いて驚ろくな?」


 剣影「何だよ、早く言えよ。」


そうして皐月は袋の中からソムリエがワインを取り出すみたいに最新型のゲーム機を取り出した。


 剣影「何ぃぃ!? 人気過ぎて買えないんじゃ無かったのか!? さては盗んだな!?」


 皐月「盗んでなんかねぇよ、偶々電気屋で見つけた訳。平日の昼間だったしね。やる?」


 剣影「やる。」


剣影は即答し、近くで見ようと近寄ろうとしたが、自分の腕に絡みつく袖雪の腕に制止された。


 剣影「ど、どうした?」


 袖雪「………………」


ぐっ


 剣影「い、痛いんだけど?」


 袖雪「く、苦しい。」


 剣影「え? 大丈夫か?」


ぐっ


袖雪は剣影の腕を更に強く抑えた。


 袖雪「他の女性と………喋らないで欲しい。」


 剣影「え?」


 袖雪「私から離れないで欲しい。」

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