第18話 ツンデレってやつ

【MINE楽しいね!】


 そんな言葉が書かれるのは白い吹き出し。

 背景は水色が目立ち、愁斗が放つ緑色の吹き出しには【うん】や【だな】といった冷淡な言葉が目立つ。


 ご飯も食べ、お風呂も入り終え、現在の時刻は午後の23時。

 碧海がMINEで話しかけてきたのが20時で、それは愁斗が家につく時間とピッタシだった。


 ストーカーでもしたのか?なんて事も思ったのだが、どこを探しても碧海の姿はなかった。

 そんなわけで『たまたまだろう』と結論付けたわけなのだが、この3時間。碧海の返信スピードは正直に言って異常だった。


【だな】


 愁斗が画面をタップすれば、冷淡な吹き出しが現れる。

 それから1秒も経てば、


【やっぱり友達とのMINEは特別!氷野くんも追加してよかったでしょ!!】


 そんな長文が返ってくる。

 一体この1秒でどんな入力方法を行えばこんなスピードが生まれるのやら。


 疑問しか湧き上がらない愁斗なのだが、こちらから話題を振るというのも釈然とせず、完全受け身姿勢。

 だが、心の底では『友達との初めてのMINE』という初めての経験に心を弾ませているのは事実。


 実際に、ご飯を食べるときやお風呂の時以外は常にトーク画面を開きっぱなし。

 碧海が返信を返せば一瞬で既読をつけ、慣れない手つきで数十秒をかけてに文字の言葉を送る。


 碧海の入力スピードに対してあまりにも遅すぎる気もするが、誰だって最初は慣れないものだ。

 それこそ、スマホをまともに触らない愁斗からすれば日本語入力なんてまずしない。


 頭の良い愁斗はネット検索もしなければ、SNSもまともに開かない。

 インスタグワムも見る専門に徹しすぎた結果、誰とも話すことなくスマホの劣化だけが進んでいった。


 だが今、画面の奥にはれっきとした友だちがいる。

 生徒会室であれだけ突き放しといたやつが思うことじゃないが、友だちがいるという事実に、心が踊っていた。


【良かったかもしれないと言っておく】

【ツンデレってやつ!?カワイっ!!えっ!好き!!】


 この文字からでも容易に頭の中で碧海が騒いでる姿が想像できるのは、ここ最近一緒に居るからだろうか。


 ブンブンと頭を振って払い退けるが、またすぐに現れる碧海のキラキラとした眼差し。

 どうしようもないことを悟った今、ため息を吐き捨てた愁斗が折れて頭の中の碧海はそのまま。


 ただ、悪魔のコスプレをしようとする碧海の動きだけは止めて返信の言葉を打つ。


【ツンデレじゃない】

【いやツンデレでしょ!ギャップ萌え……いや!解釈一致かも!!】

【舐めんな潰すぞ】


 日頃からツンとしている愁斗だからこその言葉だったのだが、呆気なく跳ね除けられてしまった。


 だがもちろん相手は碧海。

 そんな言葉で折れるわけもなく、グイグイと責め立てる言葉達は今にも画面から飛び出してきそうな勢い。


(友達ってこんなに話すのか……)


 若干引き気味になりながらも、雪崩のように送られてくる吹き出したちにひとつひとつ丁寧に返していく。


 これが吉と出るのか凶と出るのかなんて、聞かずともわかるだろう。

 画面の奥の碧海は「ひとつひとつに返してくれるの可愛い〜」なんて言葉を漏らし、パタパタとベッドにバタ足を叩きつけながらも悶え苦しむ。


 そうして他の友達からくるMINEの音に顔を上げ、そちらも一瞬で返して愁斗とのトーク画面に戻る。それでも返信が遅い愁斗は、10秒に1回のペース。


 女子にもなれば10秒もあれば3つの吹き出しが発せられる。

 それ故に、女子友達とのトーク画面では愁斗が返信を返すまでに合計6つの吹き出しが現れていた。


 もちろんそちらに対しても碧海は1秒返信。

 一体どんな親指の動きをしているのかなんて、素早いとしか表現することができない。


 きっと女子の返信スピードはみんなこんなものなのだろう。

 少なくとも、陽キャの部類の碧海の返信スピードは1秒だ。


 これが平均よりも早くとも遅くとも、愁斗を喜ばせているのは事実。

 そのことを碧海が知るのは、まだ先の話。


「つぎはご飯のお話でもしようかな〜?」


 ニマニマと頬を緩ませながらも、中々返ってこないトーク画面を眺め続ける碧海はバタ足を続ける。

 乙女丸出しのその行動を見るものは誰も居らず、愁斗も知るよしがなかった。

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