第31話 Q.音を探知して攻撃してくるバケモンの攻略方法
鳶助たちを襲撃した
つまり残り半分なのだが、そのすべてが
この二人の不幸は、両者共に戦闘用に応用できる魔術を持っていないことだった。魔術を持っているというだけでも身体能力に補正はかかるが、それも閃ほど無法なステータスアップとして機能しているわけではなく、人より多少は強い程度だ。
取丸から逃げることで精一杯。襲撃を受ければ回避には幸運が必要となる。はっきり言ってほぼ詰んでいる状況の中、木の枝の上で二人は救援を待っていた。
「閃ちゃん、助けに来てくれるかなぁ」
「……」
「ん?」
これは閃にも不霏々にとっても周知の事実だが、速度台はとてもお喋りな男だ。役にたつ豆知識も補足も、商売根性丸出しの雑談も一緒の口から垂れ流す生粋の弁舌を持っている。
それがどういうわけか、逃げてからはずっと黙っていた。
「そっくん? どうかしたの? どこか痛い?」
「……」
速度台は何故黙っているのか。その理由は、この場では速度台しか知らないこと。
取丸の五感はほぼ聴覚と触覚しかない。そして、その情報を現状速度台だけが独占しているというアドバンテージだった。
(さて……この状況ではフーちゃんの探知魔術はやや不得手。閃ちゃんの位置を探って合流というのもやや望み薄か。全力であの鋏さえ使えれば相手がどんな堅さしてようが無関係に全員皆殺しにできるはずだが)
閃はかなり優しい。どこに誰がいるともわからない状態で、あの鋏を乱発するようなマネだけは絶対にしない。それは連行中の三人の位置だけがわからないような場合でも同様だろう。
一度分断された勢力がもう一度集結する。分断された側としては一刻も早くこの状態に持ち込みたいだろう。だが取丸の連携は見たところかなり統率が取れている。
閃のところへと全力疾走することができたとしても、その場合は取丸を引き連れて、ということになる。
閃の戦闘能力は高い。仮に取丸が百匹いようが、魔術が使えない状態だろうが、無関係に生き残ることができる。
ただし例外はある。後ろに守るべき誰かがいた場合だ。立ち回りが限定され、大怪我をすることも考えられる。というか実際一回そうなったことがあるので慎重にならざるを得ない。
(フーちゃんの探知魔術の最大の弱点。それは『本体の視力が犠牲になる』ので、ほとんど無力化に等しい状態になること。そして解除に五秒程度の時間がかかってしまうこと。だから存在自体が発覚しておらず逆襲の可能性がない隠密状態のときか、近くでひたすらフーちゃんを守れる無法な強さの誰かがいないとまともに機能できない。
今の状態ではどちらの条件も満たしていない。よって発動は無駄死に志望も同然なので論外! 合流案も欠点があり、戦闘も無理。となると俺が選べる選択肢は……)
これこそが取丸の情報を共有せず、独占していた最大の理由。
(犠牲は少ない方がいいに決まっていますからねぇ)
取丸がなにに引き付けられているのかを不霏々が知らないことが、速度台にとって都合がいいから。
速度台は、不霏々に笑いかけた。
「……そっくん?」
◆◆◆
「アイツの性格はよく知っている! 商売っ気はかなりのものだが、それ以外の部分ではかなり短気で軽薄だ! そして自分の大事なもののためならなにを犠牲にしようと平気な卑劣漢! そんな状況でもしフーと一緒にいれば、どうなるか……!」
由良と光葉は『味方を犠牲にするヤツなのかなぁ』と呑気に考えていたが、続く閃の言葉に仰天した。
「自分の命を犠牲にしてでも私たちを助けようとするに違いない! ヤツは……本当に卑劣だからな!」
「「えっ? そっち!?」」
閃を中心にして、由良と光葉が情報共有をしている傍で、鳶助は全力でアマテラスと知恵を出し合っていた。
「取丸が引き寄せられるのは音だろう? なら全力で僕らが音を出せば残り全部がこっちに寄って来たりしないかな」
『難しいわねぇ。アイツらもバカじゃないわ。既に戦力の半数以上が合流している私たちに向かって元気一杯に突撃してくるほど向こう見ずじゃないでしょう。特に閃ちゃんが取丸二匹を纏めてブチ殺したことはとっくに気付かれているでしょうし。処理方法によっては光葉ちゃんの毒殺も割とアウトね』
「……確かに武器を持っている危険人物に自分から寄ってくるヤツはいないか……でも聴覚だけでこっちをちゃんと識別できてるのか? 他の獲物を追いながら? なら……」
『そうねぇ。例えば閃ちゃんか、ひょっとしたら光葉ちゃんだけでも不霏々ちゃんと速度台くんのところに送り込むことができれば、ビビって残りも逃げ出すかもしれないわ。でも結局、その策も最初の問題に帰ってきてしまうわけだけども』
速度台と不霏々の居場所がわからない。そこでどん詰まってしまうのだった。
「クソ……話を聞く限り不霏々の探知魔術の方も『今は使えない』らしいし。他になにかないか……? 僕たちが使える探知手段とか」
『そうねぇ。障害物を避けて空をふわふわ浮かんで周囲を目視できるのならそれが一番いいのだけれども』
「……そんな都合のいい探知手段……ん?」
アマテラスが出したアイディアが、まさにベストアイディアだったことに遅れて気付いた。しかも二通りの方法で実行できる。
どちらにせよ時間との勝負なのだが。
「……由良! 光葉! 仕事を頼む! 速攻でだ!」
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