第18話 『奈落の髑髏』の情報
ルディは、集めた『奈落の髑髏』の情報は、ジョルドさんより詳しかった。
『奈落の髑髏』のメンバーは、リーダーのヴェノム 、レイヴン 、ゲイルの四名。
ヴェノムは邪剣使い。
闇魔法の使い手でもあり、かなり腕が立つ。
レイヴンは双剣使いで、『透明』のスキルを持っている。
姿を消すと、気配を察知するのは困難らしい。
ジャドは鎖使いで、毒針も使用する。
『瞬足』のスキル持ちで、残忍な性格。
一度狙うと、蛇のように執念深いそうだ。
ゲイルは謎が多く、闇司祭という情報もある。
呪術で、人を呪い殺すという噂もあるらしい。
全員が暗殺向きの技能を持ってるじゃないか。
この四人であれば、エリスが追跡をできなかったのも頷ける。
「厄介だな」
「そうなの。両親も情報を集めるのに苦労したみたいよ。それで話には続きがあるの。神皇国と『奈落の髑髏』が繋がってるかもって、父さんが言ってたって、手紙に書いてあったわ」
「どういう意味だ?」
「あくまで父さんの推測なんだけど――」
トランテニア神皇国は人族至上国であり、住人全員が女神―フィオナ様を崇める、フィオナ教の信者である。
フィオナ様は姉のソフィア様と同様に、人族の愛の女神とされているのだ。
ソフィア教とフィオナ教の違いについては俺は知らない。
前世の日本人の時から、俺は無宗教だからな。
それに異世界の神々のぶっ飛んだ性格を知っているから、熱心に拝むことができない。
フィオナ教の信者である皇国の住人達は、お布施と呼ばれる重税を課せられ、狂信者へと洗脳されているらしい。
そして民から搾取した金を、貴族達が貪り合い、その上に教皇が君臨しているという。
ルディの話を聞いて俺は気分が悪くなった。
「圧制者はどの国も同じなんだな」
「それでね、トランテニア神皇国は『ニューミナス 大森林』の資源を狙ってるっていう噂があるのよ。その他にも皇国がベルトラン王国に戦争を仕掛けてくるって話もあるわ」
「それと『奈落の髑髏』とどう繋がるんだ?」
「鈍いわね。奴等が冒険者登録したのはトランテニア神皇国でしょ。つまり裏で皇国が『奈落の髑髏』を操っていてもおかしくないってことよ」
彼女の説明を聞いて違和感を覚える。
「それっておかしくないか? 『奈落の髑髏』の連中ってどちらかといえば邪教に属しているような気がするぞ。トランテニア神皇国は人族の愛の女神、フィオナ様を崇めてるんだろ」
「国の体裁としては神皇国、女神を崇拝してることになってるけど、現実が違うことなんてよくある話よね。教皇が神事を行っている姿なんて、一部の上位貴族しか見られないんだから」
「なるほど女神崇拝は、住人を従順にさせて、洗脳するための表向き。裏では……強欲貴族共の考えそうなことだな。でもこれって噂だろ?」
「どの国にも邪教集団や秘密結社ってあるものよ。その連中だって、お金を稼ぐ必要があるんだから、大金を積まれたら、喜んで裏の仕事ぐらいはするって話」
なるほどルディの言っていることも一応は筋が通ってる。
『奈落の髑髏』はトランテニア神皇国と繋がっていると仮定したほうが良さそうだな。
レイドの調査に組み込まれたのは、奴等にとって好都合なわけか。
それなら余計に、クリフ村のことを調べたかっただろうな。
俺が暗い笑みを浮かべていると、ルディがニヤリと頬を歪める。
「それで、これからどうするつもりなの?」
「奴等は暗殺が得意そうだし、気配を消すのも上手そうだ。まずは連中の行動を把握する必要がありそうだ。姿を見失って、気づいた時には殺されてるなんてイヤだからな」
俺はそう言いながら、スマホをスクロールし、指で画面をタップする。
すると空中に小さい蚊が数匹現れた。
それを見てルディは「虫?」と首を傾げる。
これは蚊だが、虫とは全く違う別物だ。
地球の某国で密かに試作された、虫型AIを模してバッカス様が考案したオモチャである。
この蚊に刺されると、体内に卵を産みつけられ、その卵からスマホへ位置情報が送られてくる。
それに加え、スマホで操作すると、卵が解けて、ランダムに副作用が全身を襲う恐怖仕様。
手短に蚊について説明すると、ルディは苦々しい表情をして「エグッ」と言って舌を出した。
俺は扉を開けて、部屋の外へ蚊を放つ。
スマホで蚊を操作することができ、蚊から見た視点がスマホの画面に転送されてくる。
俺はスマホの操って洞窟の外へ誘導し、レイドパーティが野営していそうな箇所へ蚊を向かわせた。
すると焚き火の明かりが見え、ブレイズの顔が画面に映る。
俺はニヤリと笑い、彼の首筋に蚊を止まらせて、ブスリと卵を注入する。
隣から画面を覗き込んでいたルディが、俺の背中を叩く。
「標的が違うでしょ。早く『奈落の髑髏』を見つけるのよ」
「慌てるなって。どうせ奴等は野営地にいないだろ。でもレイドに組み込まれている以上、連中は必ずブレイズやセインの元へ現れる。その時にブスリと刺してやればいい」
「ノアにしては冴えてるわね」
「俺だって日々、研鑽を積んでいるのだ」
俺が自慢気に笑っていると、ルディに「用が済んだら、出て行って」と強引に部屋の外へ出された。
ブレイズをターゲットに設定して、俺はスマホをタップし、蚊を自動行動に切り替えた。
これで彼から遠くに離れることはない。
後は『奈落の髑髏』の連中が現れるのを気長に待てばいい。
割り当てられた個室に戻り、布団に包まって仮眠を取る。
真夜中に目覚めた俺は、スマホを起動させた。
蚊の視界は暗視カメラのように鮮明に、画面に野営地の風景が映しだす。
スマホを操作して四方を観察すると、黒い影がテントの周囲を動いている。
予想通り『奈落の髑髏』は、他のパーティが寝静まった頃に、野営地に戻ってきたようだ。
「君達の行動は全てお見通しなのだよ」
愛しのエリスの敵に回ったのが、お前達の運の尽きだ。
俺は悪い笑みを浮かべ、蚊を操作して、奴等の一人一人の首筋に卵を注入していくのだった。
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