第17話 ドワーフ達との交流

空中を飛ぶドワーフ。

畳に叩きつけられるドワーフ。

壁で気絶しているドワーフ。


アレッサに挑戦したドワーフ達はことごとく、彼女に倒されていった。

それなのに大盛り上がりのドワーフ達。


ベルフィ、ルディ、エリスの三人も楽しそうだ。


挑戦者を倒し終わったアレッサは、広間の中央で胡坐を組む。


「あー、楽しかった。誰も私に勝てなかったわね。仕方ないから君にメイスを貸してあげる」


彼女はニコニコと笑って、一人の若いドワーフを指差す。

彼はアレッサに挑戦して、一番長く粘っていたドワーフだ。


「俺ですか? 勝負に負けたのに?」


「いいの、いいの。ゲームなんだから。面白かったから貸してあげわ」


アレッサは気持ちが素直で、屈託がない性格だ。

ちょっと単純なところもあるが、怒らせなければ基本的に誰にでも優しい。


彼女のことだから、ゲームを一緒に遊んだドワーフ達は、既に友達と思ってるんだろうな。


アレッサからメイスを受け取ったドワーフの名はダントンと言い、ドルズ爺の曾孫らしい。

ダントンはメイスを受け取ると、ドワーフ達の元へ戻り、皆で検分を始めた。


メイスの色々なところを丁寧に触り、穴が開くほど見入っている。

そして急に驚愕した表情になって、ダントンが顔を上げた。


「メイスに名前が掘られているだが、バッカスとは我等が守護神様のお名前! これは神様が打った神具だか?」


「えー、違うと思うわよ。バッカスってノアの親戚のお爺ちゃんの名前だもの」


「そうだか……人族にも隠れた名匠がいるだな」


ダントンとドワーフ達は、納得したように何度も頷く。


スマホに連絡してくる神々は、俺の親戚だと仲間に言ってあるからな。

ドワーフ達が素直に信じてくれて良かったよ。


すると俺の隣にいるドルズ爺が深々と頭を下げる。


「あれほどのメイスを作る鍛冶師は、ドワーフの中にもいますまい。ぜひ、ご親戚の名匠を商会していただきたいですじゃ」


なるほど、そういう流れになるのか。

なんとか誤魔化さないとな。


「叔父は大陸の遠い場所に住んでるんだ。だから会わせるのは無理だな。その代わり、叔父の作った武器をプレゼントしよう」


俺はスマホを取り出し、画面をスクロールして、巨大ハンマーを召還する。

この巨大ハンマーもバッカス様が作った試作品だ。


画面に表示されていたトリセツによると、不壊のスキルが付与されているみたいだ。

片手で巨大ハンマーを持とうとした俺は、あまりの重量に床へ落した。


「ドスン!」と音がして、畳にハンマーがめり込む。


「アハハハ、このハンマーをあげるよ。俺が持っていても重くて扱えないからね」


「クリフ村の家宝にいたします。皆、御神体の元へ運ぶのじゃ」


ドルズ爺の号令にダントンとドワーフが立ち上がり、ハンマーを持ち上げようとする。

しかし、二人がかりでも、ビクともしない。


「面白そうね。私が持っていこうか!」


アレッサはニコニコと笑い、立ち上がるとハンマーを両手で握る。


「あれ? ちょっと重いかも。本気で力を出すわよ!」


「ウォリャー!」と気合を入れると、それと同時に巨大メイスが持ち上がり、ヒョイと肩に担いだ。


その姿を見て、ドワーフ達が目を見開いて呆然としている。


ドワーフといえば屈強な体で肉弾戦を得意とする亜人種だ。

膂力に自慢があったのだろうが、アレッサの力を知れば驚くよな。


「どこへ持って行くの?」


「案内しますだ」


ダントンはペコリと頭を下げ、彼女を先導して広間を出ていった。


それからも宴会は続き、満腹になった俺達は個室で休むことになった。


和室に布団が敷かれており、武装を解いた俺はその上に寝転がって天井を見る。


気がかりなことはエリスのことだ。

なんとか彼女に協力したい。


俺はスクッと立ち上がり、個室を出てルディの元へ向かうことにした。


コンコンとノックして扉を開ける。

するとルディは布団の中でスヤスヤと寝息を立てている。


「起きてるんだろ。ちょっと話しがある。入ってもいいか?」


「女子一人が寝てる部屋に、男子が来るなんて、ノア、私に乗り換えるの?」


「そんなわけないだろ」


「私の体型のどこが不満なのよ」


「人には好みがあるからな」


ルディは布団から起き上がり、彼女の近くに俺も胡坐を組む。

俺の表情から何かを察し、彼女は目を細めた。


「どんな情報が欲しいのかな?」


「話が早くて助かる」


ルディの両親は、王都ベランで表向きは小さな商会を営んでいる。

しかし裏では、ベルトラン王国で起こっている、様々な情報を顧客に売っていたそうだ。


そんな両親は、貴族からスラム街の子供まで分け隔てなく接し、人の繋がりによって表情を得ていたそうだ。


その手法を幼い頃から学んだルディは、両親の元で商売と情報の扱い、人の繋がりの重要さを学んだという。


それから数年、両親の手伝いで、ベルトラン王国内の情報を集めているうちに、好奇心が抑えきれず、冒険者登録をして、家を出たらしい。


そして各地を放浪して、乗合馬車に乗っていると時、偶然に俺とアレッサに出会ったわけだ。


一度は家出した彼女も、今では両親へ月に一度、手紙のやり取りをしている。


俺はルディにエリスの置かれた立場と任務を手早く説明した。


「エリスをレイドに連れてけって依頼された時から、ジルベルトさんのことは疑っていたけど、そういうことだったんだ。それで『奈落の髑髏』の連中の情報が欲しいのね」


「奴等について何か知ってるか?」


「連中って、すごく怪しいでしょ。だから父さんと母さんに、連中の情報を探ってもらってたんだよね。教えてもいいけど、報酬は?」


俺はスマホをタップして飴の缶を取り出す。


この飴は、日本にあった飴を模してフィオナ様が創造した謎の飴である。


フィオナ様いわく、この飴を舐めると、眠た目もスッキリ、脳も目覚めて二十四時間でも働ける社畜にピッタリだそうだ。


もちろんフィオナ様のことだから謎の副作用があってもおかしくない。


「お納めください」と言って進呈すると、ルディはニコニコ顔で、缶から飴を取り出して口に頬張る。


「あら、フルーツ味の飴じゃん。美味しい」


「気に入ってもらえてなによりだ。それで情報は?」


「もちろん、表の情報から、怪しいの情報まで集めてあるわ」


そう言って彼女は悪戯っ子のように瞳を輝かせた。

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