第19話 ドルズ爺の情報
翌朝、広間でドワーフ達と一緒に朝食をいただく。
「ドルズ爺、この崖の周辺に鉱脈はないかな?」
「幾つもありますじゃ。銅、鉄、ミスリル、それに銀もありますじゃ」
「ミスリルも取れるのか。場所を教えてもらうことってできるのか?」
「『不死の翼』は我等の宿敵を狩ってくださった。ノア様達であればお教えしますじゃ」
昨日、ワイバーンの群れを討伐して良かった。
「ミスリルの鉱脈があるなんてすごいわ! ルディ、良かったね!」
「この情報をブレンズ達が聞いたら、泣いて悔しがるかもね」
「ミスリルは嬉しい知らせだが、金がなかったのが残念だな」
アレッサ、ルディ、ベルフィの三人がそれぞれに感想を言い合う。
すると ドルズ爺はホクホクと笑み、話を続けた。
「金であれば、ドワーフ族の街の近く、カルデナス山脈に鉱脈がありますじゃ」
「キター! お宝情報だわ!」
「やったね! これで私達も大富豪よ!」
興奮するアレッサとルディをベルフィが腕を伸ばして抑える。
「二人共、喜ぶのは早い。調査に来ている連中に報告すれば、冒険者ギルドに情報が回る。それにカナンを収めている代官や、バリストン辺境伯に知られれば、王城にも伝わるだろう。そうなれば強欲な貴族達が、 大森林を一気にカルデナス山脈まで開拓しようとするはずだ。その結果、最悪は王国が大量の兵士を用いて開拓を始めるかもしれない」
ベルフィの話は推測だが、俺もほぼ同じ意見だ。
人は欲深いものである。
目の前にお宝の山が積んであれば、それを奪いたくなるのが人の常だからな。
銅や鉄の鉱脈の情報であれば、冒険者ギルドに伝えてもいいが、ミスリルや金は流石にマズイ。
それにドルズ爺の話には、カルデナス山脈周辺の情報が含まれている。
これは厄介なことになったな。
昨日のルディとの話を考慮すると、ベルトラン王国だけでなく、トランテニア神皇国や周辺国も巻き込む騒動に発展する可能性だってある。
俺達が情報を下手に漏らせば、静かに暮らすドワーフ達にも迷惑がかかることになるな。
鉱脈の所在を教えてもらった恩を、仇で返すことはできない。
となると冒険者ギルドに、真実を報告するのは無理だ。
俺とベルフィが悩ましい顔をしていると、隣にいるエリスが真剣な表情をして、俺達二人を見つめる。
「私はレイドの人達にも、冒険者ギルドにも報告しないほうがいいと思います。詳しくは話せませんが、ジルベルト様に伝えれば、上手く取り計らっていただけるはずです」
「以前から気になっていたんだが、ジルベルトさんって何者だい? 詳しく教えてくれないかな?」
「私達の素性については、旦那様の許可がなければお話しできません。ごめんなさい……」
「エリスをイジメるのは許さないわ! ジルベルトさんはすっごく、良いお爺ちゃんよ! いつも私にお肉をご馳走してれるんだから! お爺ちゃんを疑うなんて、私が相手よ!」
「待て待て待て。落ち着くんだアレッサ! 僕も良い人だとは思っている。ただ妙だなと思っただけで……。巨大メイスを持つのは止めてくれ! 誰かアレッサと止めてくれよ!」
「エリスをイジメたベルフィが悪い。私も参戦しちゃおうかな」
巨大メイスを手に立ち上がるアレッサに続き、素早く短剣を取り出してルディが微笑む。
二人の動きに青ざめたベルフィは脱兎のごとく、広間から逃げ出した。
嬉しそうにアレッサとルディは彼の後を追いかけていく。
あれは完全に遊んでるな。
三人の後ろ姿を見送って、俺は ドルズ爺に向き直る。
「ドルズ爺、これから『アビスの谷』やこの集落に人族が訪れても、絶対に今の情報を話してはダメだ。ベルフィが言ったように、大森林、ドワーフ族の暮らしも危険になる可能性があるんだ」
「フォフォフォ、鉱脈が貴重であることはワシも気づいております。ノア様達であれば、我等の暮らしを壊すようなことはしないと考え、お話しましたじゃ」
「もし、俺達が能天気に、言いふらすかもしれないぞ」
「人を見る目はあるつもりです。もし見込み違いであれば、この集落から出ていけぬようにするだけのことですじゃ」
なるほど、昨日の宴会から俺達の様子を観察していたというわけか。
さすがドワーフ達をまとめる長だけのことはある。
「それでミスリルの鉱脈は崖のどの辺りにあるんだ?」
「この洞窟自体がミスリス鉱脈の中にありますじゃ」
「え? 鉱石を掘ってる跡もなかったが?」
「洞窟の奥の行き止まり、銅像の裏から坑道が広がっていますじゃ」
あの神殿のような柱も、バッカス様の像も全ては入口を隠す偽装だったのか。
洞窟のフラットな路も、少しキラキラと輝いていたような。
あれはミスリルが含まれていたからなのか。
鉱石は詳しいくないから、全く気づかなかったよ。
「これは絶対に口外できないな」
「鉄や銅の鉱脈なら、崖に幾つかありますじゃ」
「その情報だけ伝えることにするか。できれば古代遺跡の情報も欲しかったんだけどな」
「それならば、幾つか古代遺跡を知っていますじゃ。どの遺跡も地面に埋もれて壊れておりますがの」
「それは本当か!」
俺は思わず 顔を近づけ、ドルズ爺の両手を握る。
南東方面でも、古代遺跡の痕跡は発見されている。
しかし、破片のような小さな遺物が、地面に埋もれているだけで、遺跡といえない代物だった。
だから俺達は、口で言うほど古代遺跡には期待していなかった。
古代の文献によれば、その昔、パラディール大陸に高度文明の国々が栄ていたそうだ。
その文明は、魔法に精通し、魔獣を従え、空を自由に旅していたという。
しかし平和は長く続かず、国々が大規模な戦争を起し、大陸の文明は衰退したらしい。
その痕跡が古代遺跡である。
今までパラディール大陸では幾つか古代遺跡が発見されている。
冒険者達が利用するマジックバックも、古代の遺産の産物なのだ。
国々の専門家達が研究を続けているが、その仕組みや構造はほとんどわかっていないそうだ。
今は発掘された遺物を模倣して、国々が独自で量産しているのが現状である。
だからポーチのような小さなマジックバックでも高価なのだ。
「古代遺跡について知ってることを教えてくれ」
ドワーフ達が発見した古代遺跡の規模が大きかったり、一部でも稼動していれば、王国を揺るがす騒動になるかもしれない。
さっきの鉱脈のこともあるから、下手に情報を持ち帰るのは危険だ。
話を聞いて慎重に判断する必要がありそうだ。
まだ俺は仲間と一緒に気楽に冒険者を続けたいからな。
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