第5話 オメガの少年
少年は、オメガだった。
裕福なオメガがよく付けている銀色の首輪をはめていたので、性別に間違いはないであろう。
首輪には小さな宝石まで付いていて、豪華な首飾りに見えないこともなかった。着ている物でさえも品が良い。
だというのに、机に座るという粗野な行動が少年の印象にちぐはぐさを与えていた。これでは、まるでスラムに住む悪童だ。
丈夫な金属の首輪を付けている時点で、少年が家族から大切にされていることは想像ができた。
アルファはオメガと番になる際に、首筋に噛みつく。番になるのは、この儀式が必要不可欠だ。
そのための相手がいないオメガは、首輪を付けている事がとても多い。首輪を付けないのは、貧民街に住まうオメガたちだけだ。
ルアも独身時代には、銅の首輪を付けていた。
結婚した後は噛み跡を隠すために、スカーフや触り心地のよい布製の首輪を付けている。自分に番がいることを表す噛み跡を露わにするのは、とても恥ずかしいのだとルアは言っていた。
番を持ったオメガは皆が似たような事をしていたので、そういうものなのだと私は思っている。
未婚のオメガが銀や金の首輪をつけているは 裕福な家で大事にされているオメガの特徴だと言っていい。
少年のことは、最初こそはどこぞの貴族の子弟かと思った。だが、それにしては上司の様子は奇妙だった。少年に必要以上に気を使っているように見えたのだ。
こんなところに子供が入ってくるなと普通ならば叱って、すみやかに親に引き渡されるだろう。貴族の次男三男が騎士を目指すことは多いが、いくらなんでも少年は幼すぎる。
「スパイがいるかどうかは死活問題です。面白がるなんてもっての外……。私たちにお任せください。調査をして、かならずスパイを見つけて見せます」
上司は、緊張しながらも語気を荒くしていた。
さっきまで私の部下を調査するという案に否定的だったのに、今は肯定的になっている。瞬時に意見を変えたのは、少年に追随するためのようだ。
最終的に私の意見を飲んで、部下の意見に理解ある人間だという演技をしたかったのかもしれない。
少年は、そんな上司を目を細めて見つめる。値踏みしているような視線は、少年には似合わない。
「大変なことなら、なおさら公平な犯人探しをした方がいいよな」
少年は、上司から視線を外した。まるで、上司に興味を失ったようだ。
少年は十三歳ぐらいで、不思議な雰囲気を持っていた。茶色の髪に黒い瞳といった容姿は、かなり地味だ。私の銀髪の方が、良くも悪くも目立つであろう。
けれども、その目には確固たる自信と叡智があった。思春期特有の万能感と自意識で、自分に自信あるという事ではない。
思わず膝を折りたくなるオーラのようなものが、少年にはあったのだ。少年が誰なのかは未だに分からないが、高貴な者であることは間違いない。
「スパイがいたら、自分の監視不届きが指摘されるかもしれないぞ」
にこやかな少年に、上司は必死に首を横に振る。
それを見た私は、スパイを探すことに最初は否定的だった上司の考えが分かった。中隊のなかにスパイがいれば、それを見破ることが出来なかった私や上司の評判は落ちるだろう。
だから、上司は仲間の調査を嫌がったのだ。
それでも少年の意見に追随してしまったのは、彼の言葉に逆らうのが怖かったからであろう。
自分の評判より、少年に従うことを選んだのである。その方が、自分にとって得だと判断したのだ。
この少年は、そこまでの地位にいるのである。
そんな事を考えていれば、少年と目が合ってしまった。
「お前は中隊の隊長だったよな。俺が動かせるの人間に調査をさせるけども良いか?無論、信頼できる人間に調査させる」
人を動かすというのに、少年は気楽な口振りだった。親の七光りで高い地位に取り立てられた若者のような口振りだ。
しかし、少年は幼すぎる。いくら親の七光があろうとも人を動かせるような歳には思えなかった。
少年は、私の戸惑いに気がついたようだ。
「自己紹介が遅れたな。俺はエナ・ルーディニア。この国の第三王子だよ」
オメガだけどな、とエナは言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます