第15話 製菓スキルのおすそわけです!

「……な、なんすかこれ?」


 城の厨房で作業していたあたしは、

『スキル【製菓】進化。従業員追加』――確かにそう聞こえたっす。

「製菓って……え、これ……師匠のスキルのやつじゃないっすか?」


 思わず口に出しながらも、胸の奥に広がっていく妙な感覚に気づいたっす。

 まるで、頭の奥に新しい引き出しが出来て、その中に「作り方」や「感覚」がすうっと満たされていく……そんな感じっす。

 さっきまで曖昧だった手順や分量が、急に「こうすればいい」って形で浮かんでくる。卵の泡立て方の加減、生地の混ぜ方、焼き時間の見極め――全部、師匠がやってた時と同じ映像みたいに頭に流れ込んでくるっす。


「……あ、これ……たぶん、従業員ってそういうことっすね」


 あたしは自分で言いながら納得する。師匠のスキルが直接使えるわけじゃない。だけど、師匠の店の商品に限って、そのレシピや仕上がりの感覚を、あたしの手でも再現できる――そんな気がするっす。

 横で様子を見ていたココンさんが首をかしげる。


「どうしたの、急ににやっとして」

「いやぁ……これで、お祭りの出店、師匠と同じクオリティで作れるかもしれないっす」


 そう言いながら、あたしはもう一度泡立て器を握り直した。胸の中にじわっと熱いものが広がっていったっす。

 これならやれるっす。お祭りは、あたしが大成功させるっすよ!


「……よし、やってみるっす」


 胸の奥の高鳴りを押さえきれず、あたしは目の前の材料を見つめたっす。さっきまでは手探りで進めていた工程が、今は迷いなく順番に頭の中へ浮かび上がってくるっす。

 卵を割って、黄身と白身を分ける。黄身は砂糖と混ぜながら白くなるまで泡立て、油と牛乳を加える。知識としてはわかっていたけど、それが手に取るように更にわかる、わかるっす。粉を入れるタイミングも、混ぜる強さも、自然と手が動く――まるで師匠の手が自分の中に宿ってるみたいっす。

 別のボウルでは、白身を泡立てる。角が立つ瞬間を、感覚で「ここ!」と分かる。迷いなく砂糖を加えるタイミングも分かってるっす。


「……すご、これ……」


 小声が漏れる。

 メレンゲと黄身の生地を合わせる。ヘラの動かし方ひとつで、生地の空気が逃げないように混ぜられる。さっきまでとはまるで出来栄えが違う……。

 型に流し込み、オーブンに入れる。焼き上がりを待つ時間も、不思議と不安がない。

  扉の奥でちゃんとふくらんでいく生地を見ながら、胸がじわじわと熱くなるっす。

 ――そして、焼き上がり。

 型から外すと、手に持った瞬間にわかる軽さ。切り分けると、中はふわっふわでしっとりしていて、甘い香りがふわりと広がった。


「……これ、完璧っす」


 ひと口食べた瞬間、口の中で溶けていく感触と、ちょうどいい甘さが広がる。さっきまで作っていたなんちゃってシフォンとは、全くの別物っす。

 横で見ていたココンさんが目を丸くする。


「……すごいね、本当にふわふわだ」

「っすよね?これならお祭りの出店、大成功間違いなしっす!」


 あたしは笑顔で胸を張ったっす。

 この手で、師匠の味をそのまま届けられる――それが、嬉しくてたまらなかったっす。

――


「ただいまー……ゴローマさん達協力してくれるって……」

 一連の流れが終わった後、私はばあやの家に戻りました。ここもきっと会長さんにはバレているとは思うんですが、他に行くところも無いですし。まだ何をしてくるってわけでも無いですしね。


「師匠~」

 出迎えてくれたのは、満面の笑みのリリナでした。さっきまで何かを作っていたのか、まだ少し粉とかが付いたエプロン姿です。


「……あ、もしかしてあのスキルって」

「そうっすよ!」


 彼女が差し出したのは、焼きたての小さなタルトでした。上には鮮やかなチーゴが飾られていて、甘酸っぱい香りが漂います。

 うん、良い香り。従業員ってそういう事。『部下が望んだ時、同等のスキルが付与される』――そうステータスには書いてありました。部下っていうのは少し仰々しい感じがしますけど、それにしてもレシピと技術の共有は大きい力な気もします。


「聞いたわよ!スキルの共有って普通出来ることじゃないの。あなた凄いわね!」


 後ろからアーニャがゆっくりと歩いてきます。そうなのですか。なんか特別なことばかりだなあ……


「レシピもちゃんと頭に入ってきたし、色々作った時の出来栄えも全然違うっす。もっと色々な手助けを出来るようになれるっすよ」


 彼女の声は誇らしげで、少し弾んでいました。

 ……きっとリリナは自分だけ戦えないのが少し後ろめたかったんだよね。でも、私の目標はスローライフなんだから、むしろそっちの方が合っているんです。


「へえ……すごい。ちょっと食べてもいい?」

「もちろんっす」


 一口かじると、サクッと軽い食感と、素朴ながらも甘いクリームの味が広がります。思わず顔がほころびました。


 ちゃんと私の作ったものと同じ、前の世界の味になってる……!


「リリナ、すごいよこれ!」

「えへへ……」


 褒められて、リリナは照れくさそうに笑いました。


「ミナモの味だ!」


 隣から一つ摘まんだアメインが、安心したように頷きます。


「うん。これで後は――」


 国を救うだけです。だけっていうのには大きすぎますが。

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