第3話 デスゲームの運営だって絡まれる


「非市民の冒険者はDランクからのスタートとなります」


Eランク:冒険者ギルドに所属していない冒険者

Dランク:非市民の冒険者 僅かに支給がある

Cランク:市民の証 市民権を得られる

Bランク:一流の証 為政者に意見を求められる

Aランク:英雄の証 領地を持つことが出来る

Sランク:覇者の証 国を持つことが出来る


「ギルドにもよりますが、うちのギルドではおおよそこんな感じですね」


冒険者ギルドに戻った私達は、冒険者の説明を再開していた。


「つまり大半の冒険者はCランクを目指して邁進し、いざ市民となったら大多数が引退するというわけか」

「まぁ、そうなりますね。Dランクを通さず結果だけ出してCになる人もいないことはないですが」

「結果を出したアウトローは市民権で囲ってしまうわけか」


前世でデスゲームの運営やっていただけあって、理解力がある。良いことなのだが、中身が中身だけに非常に複雑だ。


「なぁ、お前」

「ん?」


不意にタケシの後ろから声がかかる。ギルドでよく酒を飲んでいるウォーレンさんだ。

大柄で厳つい見た目に反して堅実に依頼をこなし、つい先日Cランクとなり念願の市民権を獲得した冒険者である。


としは15くらいか?にしちゃあ、ちょっと態度がなってないんじゃないか?」


それはそう。いや前世を考えると倍以上は実年齢があるのだとは思うが、こっちは女神だぞ。デスゲームの運営って不遜な態度をしてないと務まらないのだろうか。

まぁ態度が悪いのは冒険者あるあるなので、いちいち指摘することはないのだが。

さて、どうしたものか。こういう時、普通の新人冒険者相手なら適当な依頼を受けさせて退出させるのだが私自身この存在をどう扱うか決めかねている。


「では、一発殴ったりするか?」

「あ?」


タケシはウォーレンさんに振り返りもせずにそう言ってのける。


「先輩は生意気な小僧を暴力で威圧すれば満足か?」

「あー、いや」


繰り返しになるが、ウォーレンさんは市民権を得たばかりの立場だ。冒険者同士の喧嘩は日常茶飯事なれど、Cランクとなるとちょっと慎重になりたいところだ。

多分市民権を得たのが嬉しくてついいつもより飲みすぎて気が大きくなっているのかもしれない。


「そう、生意気な小僧を暴力で黙らせた所で特にメリットはないだろう?」

「ま、まぁそうだが、いやそういう事じゃねぇ!」


タケシがビビった振りでもしてすぐ謝罪でもいれればそれで満足すると思うが、コイツ分かってて煽ってるな。


「で、だ。酒飲み勝負といかないか? もちろんただ飲み比べするわけじゃない。若造と荒くれが真っ当に飲み比べで勝負したら荒くれが勝つに決まっているからな。そこでだ。私はちょっとしたイカサマを仕込む。それを見破るか、あるいは見破らずとも飲み勝てば・・・あーえっと」

「ウォーレンさんです」

「ウォーレン氏の勝利だ」


タケシはここに来てようやくウォーレンさんを見た。なるほど、第三者から見て真っ当に勝負したらウォーレンさんが圧倒的有利。そこにイカサマを見破るという追加要素をもってウォーレンさんにもメリットを持たせたわけだ。

ウォーレンさんは堅実な冒険者ではあるが、厳つい見た目もあってあまり頭脳労働する印象はないが、ここでイカサマを見破るという一面も見せたら周囲からの評価もあがるだろう。


「なるほどねぇ、面白れえじゃねぇか」

「ちなみに飲み代は負けたほうの奢りだ。ちなみに私は手持ちが一切ないから鉱山にでも行く羽目になるな」

「はっ!鉱山なんて元犯罪者や奴隷が行くところだぜ?よっぽどイカサマに自信があるみてぇだな」


話がどんどん進んでいる。中身がアレだが、一応新人の冒険者が鉱山労働送りというのは避けたいところだ。嗚呼、何か面白がって人が集まりだしてきた。


「折角だ。一番高い酒を持ってきてくれ」

「なっ、野郎、上等だ!せいぜいバレねぇようにイカサマするんだな!!」


場所を少し移動して酒場のスペースに。あのまま受付で勝負されても困るし。


「ふむ。実に良い香りだ。では先に失礼する」


優雅に香りを愉しむと、豪快に飲み干した。


「うむ、良いコクだ。・・・アドバイスだが、しっかり味わったほうがいいぞ」

「一気に呷っておいて言うことかそれかよ!上等だ!・・・ぷはあっ!! おら!お前の番だ!!」


ウォーレンさんも負けじと飲む。イカサマを見破るというのがメインなのは覚えているのだろうか。高いお酒に気圧されていないか。


「こうして見ると色も良いな。保管環境も素晴らしいのだろう。・・・ふぅ」


グラスを揺らしつつ、今度は味わうかのようにややゆっくりと飲んだ。鉱山労働が懸かっている勝負の場とは思えないくらいリラックスしてお酒を楽しんでいる。


「チッ・・・おらぁ!!・・・あ゛?」


2杯目を飲んだところでウォーレンさんに異変が起きた。


「ふらついているぞ。大丈夫かウォーレン氏よ。では次」


タケシは言葉では心配しつつも、あまり意に介さずにお酒を飲んでいく。


「あ、あぁ、ぁ・・・」


そんなタケシに負けじとお酒を飲もうとしたウォーレンさんだったが、次第についていけなくなってしまい前に突っ伏してしまう。


「おや? どうやら、私の勝ちのようだ。 諸君!私の勝ちで相違ないか!?」


そう周囲に語りながらさらに1杯飲んだ。あんたの勝ちだ。ウォーレンさん情けない。俺もあの酒飲みてぇ。などの言葉が交わされる。

というか、いつイカサマを仕込んだのだろうか。お酒もグラスも店が用意したものだし、怪しい素振りもなければ、何らかの魔術もスキルも使った形跡が無い。


「誰か手貸してください!ウォーレンさんを奥に運びますよ!」


今、とりあえず受付としてやるべきことは、ウォーレンさんの呼吸の確保だ。

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