こぼれ話(完結後)

こぼれ話Vol.1 晃と沙耶

『沙耶、静かに気づいてしまう』


(※戦後/自宅にて)


湯気の立つ味噌汁と、ホットプレートの上でじゅうじゅう音を立てる焼き餃子。

テーブルの上には炊きたてのご飯と、さっと茹でた青菜のおひたしが並んでいる。


兄妹ふたりは、黙々と箸を動かしていた。


「……ったく、なんなんだよあいつ」


口火を切ったのは晃だった。


「せっかくこっちが“ありがとう”って電話してやったのにさ、

 『ああ』の一言で終わりとかあるか?人として」


焼きたての餃子を口に運びながら、なおもぷりぷり怒っている。


「空気読まねえし、不愛想だし、無駄に察しがいいし、

 ほんと、あいつだけは昔から意味がわかんねえ……」


沙耶は味噌汁を啜って、ふっと笑った。


「でも、助けてくれてたよね。たくさん」


晃の箸が止まる。


「……何の話だ」


「第七センターでチン・ユエさんが来てくれたのは、出雲さんのおかげだし。

 お兄ちゃんが怪我したときも助けて病院に連れて来てくれたし。

 SSDの復元キー、医療センターのアクセスキーもだよね?

 選挙不正の配信も。

 選挙の日に襲われたときも、攻撃を緩めるようにししてくれたって。

 ──あと、Apple Watchを蓮見さんに届けてくれた」


沙耶は箸を置いて、にこっと笑った。


「ぜんぶ、出雲さんだよ。

 不愛想だけど、優しい人なんだと思う」


沈黙が落ちる。

晃は、ようやく息をついて、頭を掻いた。


「……お前、いつからそんな観察眼持ってんだよ」

沙耶は、にこっと笑って、味噌汁の湯気越しに晃を見つめる。


(……ずっと、見ていたから。あなたのこと)


でも、それは口に出さなかった。


「……そういうの、あいつ言わねえからな」

「うん。でも、あたしは気づいてた。

 お兄ちゃんのこと、見てる人がいたんだって」


晃はため息をついて、茶を飲んだ。


「……昔っから、そういうやつなんだよな。

 ……くそ、なんか余計に腹立ってきた」


沙耶は笑う。


「じゃあ、お礼に何かしたら?」


晃は少し考えて、ぼそっと呟いた。


「……酒でもおごるか」


湯気の向こう、ほんの少しだけ、笑みが浮かんだ。

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