いつかあの人に「ごめんね」と「ありがとう」を伝えたい
梅竹松
第1話 あの人は最後まで私の味方でいてくれた
中学生の頃、私には
中学二年生の春頃に彼から告白されたことがきっかけで付き合うことになったのだ。
ものすごいイケメンというわけではないけれど、優しくて私のことを大切にしてくれたので、私にとっては自慢の彼氏だった。
だけど良輔は奥手で物事に消極的な男子だったため、せっかく彼氏ができたというのに毎日の生活に刺激が感じられず、だんだんと私の心は冷めてゆくことになる。
それでも中学生の頃は恋人がいることが一種のステータスになるし、優越感に浸ることができるから彼と別れようと思ったことはなかった。
そんな生活が数ヶ月ほど続き、夏休みが明けた頃。
私のクラスに一人の男子生徒が転校してきた。
彼の名前は
さらに不真面目そうな見た目に反して勉強も運動もできたため、勇治はあっという間に人気者になる。
私も少しだけ彼のことをかっこいいなと感じていた。
そして、冬休みが始まる直前。
私は勇治に突然校舎裏に呼び出され、そこで告白された。
おそらくその時の私は傍からでもわかるくらい取り乱していただろう。
イケメンで女子に人気のある男子生徒から告白されたから驚愕してしまったのだ。
もちろん私にはすでに良輔という彼氏がいるのだから断らなければならないことはわかっている。
わかってはいたのだが……私はつい了承してしまった。
勇治と恋人同士になれば、刺激的な毎日を送れると思ったからだ。
こうして私は彼氏がいることを隠したまま、勇治とも付き合うことになった。
要するに、彼氏に内緒で浮気をしたわけだ。
だけど、付き合ったことを公言したらすぐに浮気がバレてしまう。
だから、「他の女子が嫉妬するから」などと適当な理由をつけて勇治には交際のことは秘密にしてもらうことにした。
良輔とはクラスが違うし、最近は会う機会も減っていたから、黙っていればバレないだろうと甘く考えていたのだ。
しかし、こんな二股生活が長続きするわけがない。
良輔に浮気がバレるまで一ヶ月とかからなかった。
当然私は責められ、両方から別れを切り出されてしまう。
浮気していたのだから仕方がないだろう。
二人からはどんな非難の言葉を浴びせられても受け入れるつもりだった。
だけど、浮気がバレた後の日常は想像していたものとまったく違った。
どこから情報が漏れたのかはわからないが、あっという間に学校中に知れ渡り、その日から私に対するいじめが始まったのだ。
私は良輔と勇治、どちらに対しても不誠実なことをしてしまったから、いじめの大義名分としては充分だったのかもしれない。
とにかく私の学校生活は一変してしまったのだった。
今回の一件に関係のない生徒から嫌がらせされる毎日。
良輔や勇治になら何を言われても仕方がないが、無関係の生徒からのいじめはさすがに理不尽だろう。
とはいえ、浮気していたことは事実なので、誰に何をされても文句を言う資格など私にはない。これは自業自得なのだ。
そんな気持ちがあったから抵抗する気にはなれず、私は毎日のいじめをただ必死に堪えることしかできなかった。
だけど、そんな私を庇ってくれた一人だけ存在した。
最初の彼氏の良輔だ。
彼は浮気の被害者のはずなのに、それでも私をいじめから救おうとしてくれたのだ。
これほど嬉しいと感じたことはない。
だが、同時にこんな優しい人を裏切ってしまったことに対する申し訳なさも込み上げてきた。
いじめはやめるべきだと必死に生徒たちを説得する良輔。
さすがに生徒たちも毒気を抜かれたのだろう。
私に嫌がらせをする者は徐々に減ってゆき、私のやったことがそれ以上SNSで拡散されることもなくなり、一週間が経過する頃にはいじめは完全に終息していた。
だけど、学校に居づらくなってしまった事実だけはどうにもならない。
結局私は転校を余儀なくされてしまい、知り合いのいない場所で新しい生活を始めることになるのだった。
そして、現在。
私は社会人になり、小さな会社で働きながら慎ましやかに暮らしている。
今はそれなりに幸せな私だが、後悔していることがあるとすれば中学時代に迷惑をかけてしまった二人に未だに謝れないでいることだ。
中学の頃の記憶はだいぶ薄れてきたが、それでも浮気から始まった一連の出来事を忘れたことはない。
きっと良輔や勇治も忘れてはいないだろう。
だけど、転校する時に二人の連絡先を削除してしまったため、こちらから連絡することはできない。
もちろん二人が今どこにいて、どんな生活を送っているのかもわからない。
だから、いつかどこかで会えたら必ず謝罪をするつもりだ。
特に良輔にはいじめから庇ってもらったお礼も言わなければならない。
良輔がどれだけ素敵な彼氏だったのか、今ならよくわかる。
私にはもったいないくらいだった元カレに「ごめんね」と「ありがとう」を伝えられる日は果たして訪れるのだろうか……。
いつかあの人に「ごめんね」と「ありがとう」を伝えたい 梅竹松 @78152387
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